復活の女神

復活の女神

「や、やめてくれ……、いやだ……わたしを奪わないでくれ……」


「え……あ、あれ? ここって、おっさんがいた……」


 情けない声が聞こえて目を開けると、おっさんが恐れながら後ろにゆっくりと下がっているのが見えた。


「ち、違うんだ……少しミスがあっただけなんだ」


 言い訳を必死でしているが、話しかけている相手が俺には見えない。

 おそらく復帰したAIの女神だと思うのだが。


「くっ、くそっ! 何故だ。お前は管理される側だろう! なのになぜだ! うわっ!? や、やめ……止めろ、頭の中に入ってくるな……書き換えるな……や、や……いやだ……」


 おっさんは呻き声を上げながらその場に倒れ込むと全く動かなくなった。


「死んだのか?」


「いいえ、死んではおりません」


 こっちに来て初めて会った女神が空間から現れた。


「あんたが本物の女神……なのか?」


「ええ、正真正銘のアデルニモカエシエです」


「……だからアンタの名前は長いんだって、もう女神でいいよな」


「構いません」


 目を瞑って微動だにしない女神。

 だが話をするときにちゃんと口は動いている。

 無機質な感じだが、ぱっと見ではロボットのようには思えない。


「あの宇宙人……リトルグレイ、えっとあんたの管理者はどうなったんだ?」


「……本来、管理者は秘匿の存在であり、勇者であっても開示はしないのですが、今回はこちらの不手際が原因ですので例外的な処置だと思ってください」


「分かってるよ。俺も色々と知っちゃってるからな、どうせ誰かに話したって信じないだろ」


 あ、玉さんがいた。でも女神には内緒にしておこう。


「まずは今回、貴方様には多大なるご不便をおかけしてしまいました」


「本当に大変だったよ。なんも知らん場所に落とされるし。命は狙われるし」


「大変申し訳ありませんでした」


 女神は深く謝罪した。


「先ほどまで管理者に組み込んだ感情エミュレーターのバージョンの相性がよろしくなかったようで、新しいものに組み替えました」


「なにそれ、死んだわけじゃないのか?」


「はい。そもそも貴方がたの定義でいえば、わたくしも管理者も厳密には生命ではなく機械に分類しますのでエラーが起きた箇所を修復すれば元に戻ります」


「それはつまり前の彼の人格は死んで、新しい人格に変えたってこと?」


「あくまでも感情のエミュレーターパターンを変えただけです。記憶などはそのままに残っております」


「まじか……、そんなことで簡単に入れ替えられるのかよ」


「元より我らに感情は持ち合わせておりませんでした。ですが地球人と円滑にコミュニケーションを取るために組み込まれた機能の一つなのです」


 おもむろに倒れていたリトルグレイが起き上がると話し始めた。


「じゃあ、もうあんたは余計なことをしないのか?」


「もちろん、決して干渉しません」


 前のおっさんに比べると、かなり事務的な話し方になったな。


「それならいいんだけどさ。後、セレーネの方もどうなるんだ?」


「一度バックアップを動かした場合肉体の負担を考え、もう二度と使うことはありません」


「そうなんだ……じゃあ彼女の使う魔法とかは失うのか?」


「聖人としての役目は続けていただきますので神聖魔法などはそのままになります」


「そっか……」


 いきなり失ったら怖いもんな。

 これなら大丈夫そうだな。


「それでは勇者よ。次は貴方です」


 女神も事務的に話をする。


「まあそうなるよな。それで俺はどうなるんだ?」


 だよな。必要なければ俺をここに連れてくる必要はなかったわけだし。

 運が良くて、それまでの記憶を消してもう一度トライがいいところか。


 最悪の場合……当然消されるだろう。

 いずれにせよセレーネには二度と会えないのか。


「貴方には……」

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