異世界じゃなく異星でした<Ⅳ>

「お前の居た星と違って変な建前や倫理で雌雄が同じ立場にしていないから、必然的に強い雄に雌が沢山寄ってくる」


「はぁ? 馬鹿なことを言うな。俺なんてそこじゃ普通の男よりも弱いだろ。そもそも肉体労働とかだって出来るとは思えないし」


「それは当然だ。だからお前達には特別な物品を一つ渡している」


「特別な物品てなんだよ」


「少しは興味が沸いたか。剣や杖、魔法の本、最強の盾や鎧などそれはお好み次第だ」


 SFの代名詞がファンタジー単語を口にし始めたのはなんか少しシュールだった。


「そんなものを貰っても実戦経験のない人間には宝の持ち腐れだろ」


 そんなの異世界ものの常套句。そう言ってその気にさせて行ってみると最初こそ良いけど、ちょっとでも俺強ーとかし始めると、魔人だの魔王だの竜だのと出て来てあっという間に弱くさせられるんだ。


「大体さ、どんなに強い武器を持ってても一発殴られりゃそれで死ぬっての」


「最後まで話を聞け、これを持つと各種ステータスが上昇するようになっている」


「はぁ!? ステータスってどんな原理だよ」


「……面倒くさいな」


「最初にそっちがネタバレしたんだから最後まで面倒をみろっての」


 なんか気が付けばすっかり向こうのペースに乗せられ、夢と疑うのを忘れていた。

 まあいいや、どうせ目が覚めたら死ぬだけだしもうそこ一切気にしないことにしよう。


「仕方がない」


 この宇宙人のツルピカおっさんはなんだかんだ言ってもちゃんと説明をし始める。


 端折ることとかは出来ないのか苦手なのか。まあそもそも元々話をするのは女神AIの役目らしいし、現場は苦手な典型的な管理職タイプとみた。


「技術的なところを説明するのはお前らの拙い知識では到底不可能だ」


「そりゃそうだ。そういうのはいいって、だからステータスってなんなんだよ」


「この世界では各種能力のステータス表示が可能になっている」


 世界ではなくて星だろと突っ込もうとしたら音もなく俺の目の前に半透明の画面が浮き上がってくる。

 そこには様々な数値が表示されている。


「わっ!? なんだこれ」


「これで今の自分がどれだけの強さなのかを知ることが出来る」


「確かに便利だけど人を数値化とか出来るのかよ」


「その程度は大したことではない。それにその方が楽だろ。お前達としても」


「数値化している方が楽だろって……」


 確かに数値化していれば色々と楽ではあるな。相手と比較すれば今の自分の強さが分かるし、最悪戦うか逃げるかって選択肢も選びやすいし。

 管理側の宇宙人にしても数値化しておけば色々と楽なのはなんとなく分かる。


「そっちが用意してくれる剣だのを装備すると、ここに書いてあるステータスが上昇するのか」


「そうだ」


「このステータスの数値が上昇すると、現実も筋力とか敏捷性とか上がるのかよ」


「ああ、当然だ」


 そいつは凄えな。

 原理とかは全く分からないが、筋力や敏捷性が上がるとなれば素人でもある程度強くはなる。


「だけど筋力や敏捷性はなんとなく分かる気がするが、知性とかはどうやって上昇させるんだよ」


 知性を上げるって意味がいまいち理解しづらい。


「ニューロンの動きを活発にさせ、さらに知識を直接脳にアップロードする」


 あ、アップロードってマジか……。なんか凄えことしていやがる。


「それにしても本当にゲームみたいだな」


「その方が、お前達も楽に出来るだろ」


「楽に出来る?」


「ゲームの中であるという建前さえあれば他者を殺めるのに躊躇いは全くなかろう」


「な!?」


 空恐ろしいことをさらりと言いやがった。

 確かに、それはそうだった。


 拉致した後、最初に綺麗な女神が現れて困っていると頼まれてファンタジーの世界に行く。伝説級の武具やステータスにレベル。

 これを見たらここはなんてリアルなゲームの世界だと思うことだろう。そしてどんなにリアルであって、これはゲームであると言われれば自分は生物を殺めていないと言い訳が立ち、最初こそ少しの躊躇いはあるが慣れてしまえば幾らでも殺せてしまう。


 なかなかエグいことをしていやがる。


「俺以外にも地球人はいるんだよな」


「大体今はあの星に1万人くらいはいるか」


「そんなに!?」


 5桁も拉致してんのかよ。なんか勇者って数多くね?

 いやでも……星全体の規模で考えると1万人はそんなに多いとは言えないのか。


 ファンタジーの様な場所だから交通網はほとんど発達していないだろうし、一生かかっても出会えないヤツの方が多いって話か。


「俺が地上に降りるとしたら何を貰えるんだ」


「……お前に関しては病気を治し若返らせたため、それが報酬となる」


「え……、マジで? さっきくれるって言っただろ」


 確かに言っている意味は分かるが、だからってさすがに身一つでモンスターと戦うとか無茶すぎる。これじゃ無理ゲーだろ。


「そもそもこれはお前が望んだことだ」


「ぬぐっ……確かにそれはそうだけど」


 地球で最後に聞こえたあの声は、女神の声だった。

 つまり、俺はあのとき願いを言って命を救ってもらったわけだ。


 とはいえ戦争どころかケンカすらしたことがない俺に果たして出来ることだろうか。

 他の連中はゲームだと思ってチート武器で大暴れしているわけだろ。

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