十七巡目

 強いか弱いかはともかく、後輩君はまだ麻雀初心者である。ルールをまだ覚えてないからだ。


 身内でやっている以上、初心者であれば多少の過ちは許される。

 ノーテンリーチも見逃す程度に、多少は。


 でも、初心者だろうが玄人くろうとだろうが、もちろん許されないこともある。


*****  *****  *****


 後輩君が悩んでいた。

 南場もあと一局で終わる、つまりオーラス。彼がまだ一度もアガっていないことは嫌な予感しかさせない。


 ちなみに一つ前の回は、。私は珍しいこともあるものだと、その程度にしか思っていなかった。


 結論から言えば、それは予兆だったのだ。


「先輩、テンパイしたような気がしますが、待ちが分かりません」

「テンパイはしてるの?」

「たぶん」

「じゃあオープンリーチしちゃえば?」

「え? テンパイしてないかも」

「別にいーよ。チョンボにはしないから。アガれないけど」


 そんなやりとりをして、彼は牌をすべて晒した。


 こ、これは…。

 アガらせてはいけない。


 一見して、清一色チンイツである。

 でも清一色ではない。


 染め手というだけではなく、並びまでもが整っている。


 九蓮宝燈チューレンポートー、9面待ち。


 これ天和テンホーと並んで、アガったら死ぬって言われてるレア役じゃないの…。


 この役をアガらせたら彼の人生すべての運が尽きる可能性すらある。

 そんなことさせるわけにはいかない。


 後輩君以外の三名は、どうにかしてこの局を終わらせようと、無言のまま連携の合意をする。


 9面待ちだからツモる確率は四分の一くらいである。ツモが渋くても五巡くらいあればほぼアガるだろう。


 その前に阻止する。


 後輩君のテンパイ後、一巡目。

 私が牌を引くと、対面の同僚A氏が無言で私を見た。それから壁を指差した。

 少し考える。

 方角…?


 私は南を切った。同僚Aさんがそれをポンする。

 私は同僚A氏が牌を切る前に、手をばたばたさせてコケコッコーと鳴いた。巧妙なサインを読み取り、同僚A氏は頷いてから一索イーソーを切った。


 私はそれをポンする。

 後輩君は私の上家なので、私がポンするとツモ順が遅れる。


 次は何が欲しい?

 目で訴えるが、同僚A氏は首を横に振った。ポンネタはもう無いらしい。


 私は同僚A氏の安牌を切った。あとで振り込むためには、危険牌を残す必要がある。


 同僚B氏。彼もサインをもらって七索チーソーを切った。同僚A氏がチーする。


 そして後輩君にツモ順を回さないための重要な捨て牌選び。私は手で丸を作った後、七回手を叩いた。しかし同僚A氏は首を横に振った。七筒チーピンは無いらしい。

 同僚B氏も何かサインを送った。今度は頷く。


 五筒ウーピンを切った。同僚B氏がポンをする。


 同僚A氏からB氏にサインが送られる。手で丸を作ってから指三本。B氏は三筒サンピンを切った。


 同僚A氏がチーをする。そして大きく頷いた。テンパイしたらしい。


 私も同僚B氏もポンネタが無く、ついに後輩君にツモ順が回る。


 引いた牌。




 九萬キューワン


 しゅ ー りょ ー !


*****  *****  *****


「後輩君。厄祓いしよう」

「え? 厄祓いって」

「もう一戦やる。あなた負けておきなさい」


 私は九蓮宝燈がいかに危険な役であるかを語った。運使い過ぎて死ぬかもしれないから、わざと負けて、不運を先に消費しておきなさいとも言った。


 後輩君は頷いた。


 そして次の一戦。東場。起家チーチャは後輩君になった。


 彼はなかなか最初の牌を切らない。


「どうしたの?」


 彼は動かない。


「早く始めようよ?」


 彼は首を横に振った。


「どうしたの?」


 もう一度聞くと、彼は


 三者…、否、四者が絶句している。




 天和…?

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