七巡目
後輩君が私より強いなんていう事実はないけれど、結果論としては少々押され気味である。
彼の配牌とドラ乗りは良過ぎる。ただそれはビギナーズラックが続いていると考えるしかないだろう。しかしツモが良くないときでさえも、無茶苦茶な打ち筋とマッチしてテンパイが異常に早いのだ。
だが、これを防ぐことができればあるいは…?
***** ***** *****
「なんか僕の捨て牌って変ですよね。格好良くない」
後輩君がそんなことを言ったのは、もう南場の四局目。満貫以上のアガりを誰も出さず
なんとトップは私だ。前回は後輩君の
しかし満貫以上のアガりが出れば、誰でもトップになれてしまう危険な状況である。
親は対面の同僚A氏。後輩君いつも通り私の上家に座っている。
「捨て牌に格好良いも悪いもないと思うけど?」
配牌が終わり、自分の手牌を見る。
これは逃げ切れる!
守りに入ると逆転される。スピード勝負だろう。一巡目をツモり、私はまず『友達』のオタ風をまず切った。
「それですよ、先輩」
「はえ?」
一瞬ロンされたかと思った。
でも違った。彼は、まだ格好良い捨て牌の話をしている。
あまり脅かすんじゃない。
「みんな捨て牌が、最初は字牌とか一九牌から始まって、そのあとバラバラになっていくじゃないですか。でも僕は最初からバラバラなんですよね…」
「別に么九牌から切るのが格好良いとは思わないけど…。でもいらない牌から優先して切るとどうして么九牌から切ることになるじゃない?」
「いらない牌ってどうして分かるんですか?」
「そりゃあ同じ孤立牌なら、基本的に
「あ、そういうことか!」
彼はぱしんと
と、ここで私は一計を案じる。後輩君の逆転を阻止するためには、次ツモを予知しているかのような牌選択からの高速テンパイを防ぐ必要がある。
その方法として、彼に普通の打ち筋をさせるというのはどうか。
打ち筋が無茶苦茶で、ツモも無茶苦茶だから、ハマると凄まじく強い。しかし打ち筋が普通なら、ハマることもないから強くなることもない。
私は教育のため、彼に助言した。
「麻雀の基本は
「なるほど…具体的にはどうすればいいですか?」
「役牌が
「え、全部ですか?」
「うん。么九を優先して切っていくと、手牌がどう動くかって、よく見てみなさい」
「はい!」
うむ。良いことを言った。これでこの局、彼は勉強で終わる。
あとは私がアガって逃げ切るだけ…。
***** ***** *****
十四巡目。私はまだアガっていなかった。
というかテンパイすらしていなかった。
五巡目で
同僚A、Bも渋い顔をしている。おそらく同じような状況。たぶん三者で欲しい牌を持ち合っていて、手が進まなくなってしまっている。
流れたら私がトップである。普通ならそうだが、今回はそうはならない。
後輩君は初手で
嫌な予感しかしない。なんとしてもアガらないと。私は十五回目のツモを引いた。
欲しいのはお前じゃない!
手を変えるのも嫌だったのでそのまま切る。
「うーん」
十六巡目に入る。後輩君は呻きながら西を切った。
誰か鳴いてくれ! と思ったけど、鳴けるはずがない。西は後輩君がすでに二枚切っている。
まだだ。まだ終わっていない。私は指先に神経を集中させる。
牌を引いた。
四索…。
だ か ら 欲 し い の は
お 前 じゃ な い !
十七巡目に移る。後輩君にはあと二回ツモがある。
その一回目。中を切った。
誰か鳴け! と思ったけど無理だ。後輩君と同僚A、同僚Bそれぞれがすでに一枚ずつ切っている。
私のツモ順。ここでテンパイすればまだチャンスはゼロじゃない。
牌を引く。
四索…。
あああああああああああ!
牌選択間違えたああああ!
そのまま切る。同僚AとBもツモ切り。あとは後輩君のラス牌により勝敗が決まる状況となった。
「あー、また西が来ちゃった。全然ダメでした」
彼はそう言いながら西を切り、麻雀の中でもっとも『格好良い』捨て牌である流し満貫を成立させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます