第3話 席に戻って資料作成
席に戻った健亮だが、部長に呼び出しを受けたのは周知であり、何をしで貸したんだとの視線を向けられていた。
その視線に気づかないフリをしながら、引き継ぎ資料をどう作ろうかと悩んでいた健亮の席に同僚がやってくると声を掛けた。
「なあ加藤。部長に呼ばれてたみたいだけど、なにをやらかしたんだよ?」
「急に有給を取るようにと部長から指示されただけだよ。明日からだってさ」
「それで有給を取るのか? そんな事をされたら俺の仕事が滞って困るんだよ。でも部長命令なのか……。ちっ。だったら少なくとも俺の仕事は最低限やっておけよ。だいたいお前が引き受けた仕事だろう? 相手も待っているんだよ。中途半端な仕事をするなよ。とりあえず先方に出す提案書は午前中にくれ。後は俺がやっといてやるから。なんで俺がしないといけねえんだよ。ちっ。使えない奴だな」
自分が仕事を押し付けている事も忘れ、同僚が舌打ちをしながら去っていくのを眺めていた健亮だが、聞き耳を立てている他の同僚達の視線に気付いた。
一同も先ほどの同僚と同じように仕事を健亮に押し付けており、遅れたらどうしてくれるんだとの視線を向けていた。健亮は周囲の視線を振り払う様に頼まれている仕事の内、何件かを急ぎまとめてメールすると、引き継ぎ資料を作り始めた。
「……。ふー。なんとか終わったな」
昼休み返上で引き継ぎ資料を作成した健亮は、印刷した資料をチェックしながら本来、自分がすべき仕事が出来ていない事を思い知らされた。
「どれだけ他人の仕事をしてたって話だな……。これを部長に送信してと……」
「あ、いたいた。健亮さん。会議室に来てもらっていいですか?」
引き継ぎ資料を確認していた健亮が部長宛にメールを送ったタイミングを見計らったように、背後から女性の声が聞こえた。
「ああ康子さんか。ひょっとしてヒアリング担当?」
「ええ、そうよ。同期の方が話しやすいでしょ? 私が立候補したのよ。感謝してよね」
健亮の問いかけに人事部に所属する同期の
会議室に到着した健亮は仕事を請け負った関係者を河合に告げ、内容の説明もおこなった。
「……。と、まあこんな感じかな? 今、説明した内容は部長にもメールを送ってあるから」
「なんというか……。どんだけ仕事を引き受けているのよ。健亮さんお人好しすぎ。これだけ他人の仕事をしていたら、自分の仕事はなにも出来ないじゃない。今まではどうしてたのよ?」
「ほら、あれだよ。休日対応とか家に持って帰ってとか。みんなやっているから大丈夫だと思ったんだよ」
「それにしても限度はあるし、休日出勤も残業も上司の許可は必要だからね。そこは分かっているの?」
「うっ。それを言われるとつらい……」
無許可で仕事をしていた事を責められ思わず健亮は視線を逸らす。健亮が働いているのは大企業と呼ばれる会社であり、特に残業や休日出勤などについては厳しく管理されていた。
「そこは反省してもらいます。人事部でも問題になっているからね。タイムカードを押した後のサービス残業は今後一切禁止よ。今回は事情が事情だから情状酌量の余地があると部内ではなったけど、もうやっちゃ駄目だからね」
「もうやらないよ。また部長に呼び出されるのは勘弁して欲しいからな」
人差し指を立てながら説明をする河合の受けた健亮はバツが悪そうにしながら謝罪するのだった。
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