第88話 急げ
晃は急いでいた。
命の恩人が命を散らそうとしていると聞き、いても立ってもいられなくなったのだ。
晃は馬鹿だった。進む方向をが分かっていないからだ。
20階層は階段の位置が分かるから良いが、21と22階層は未知の領域だ。21階層で数回行き止まりにぶち当たりイライラしていた。
「何でだよ!急がなきゃ。エニグマさんがやばいのに!どっちだよ!」
全力に近い走りでまだ行っていない方向に進む。実際は最短に近い通路を進み、走っていたので通常よりも早かった。焦る必要がないのに焦っていたのだ。引き返す時のみ魔物との遭遇し、瞬殺していく。
しかし、22階層に続く階段は意外とあっさりと見付かった。
階段に足を踏み入れる前に一旦呼吸を整えた。
晃は流行る気持ちが強かったが、息が続かなかったのだ。
魔石を回収していないので、晃が通っだ所には魔石が散乱していた。そう、急いでいて拾わなかったのだ。
少しだけ休んでから22階層に進むが、階段付近にいた魔物を蹴散らすが相変わらず獣型だ。
魔物や戦いの気配を探り、気配がする方に向かうが、次々に魔物が襲ってきて中々前に進めない。
晃は2本の剣を振り、鎌鼬や直接の斬撃で魔石を大量生産していた。普段ニコニコし優しい顔付きだが、今は鬼の形相で、もしその顔を誰かが見れば引いてしまう程の凶悪な感じだ。
そんな中、魔法が使われた気配がして、そちらへ注視する。
やはり魔法の残滓が感じられ、魔石が転がってくる。
誰かが魔法で吹き飛ばしたのが分かる。しかし、そちらに行くには一匹のミノタウロスが邪魔をしている。
「どけぇーこの牛野郎!」
晃は今日何度目だろうか、転移で頭上に飛び首を跳ねた。何かのドロップが出て拾っていた。晃は息が上がっていた。
そこから少し進むと誰かが倒れていた。晃の側には魔物がいないが、倒れている者の先からオークが大量に迫っていて、一匹が足に手を掛けて引きずり始めた。晃は一気に飛び掛かりそいつを始末し、倒れている者を確保した。
息が荒く、脂汗をかいていて、意識の有無が分からない。そこに居たのは小柄な女性だった。晃は胸が高鳴る。夢にまで出た彼女だ。
疲労困憊で晃を助けた時の溌溂として、若いが凛としていた筈だが、今はそんな印象がなかった。晃はエニグマを抱き寄せ
「あの、大丈夫ですか?立てますか?」
「あれ?私どうしてたのでしょうか?」
「えっと僕は晃とい言いますが、エニグマさんで合ってますか?」
「はい。貴方は何処かで合ったような気がしますが、何故に私の名を?」
「はい。20階層で貴女の仲間を助けた時に、貴女を助けてほしいと頼まれ、僕が来たんです」
「ああ、グラッドさんは助かったのですね?」
「えっと多分その方です。前に合った時にエニグマさんと一緒にいたから。今は僕の団の仲間と、女神イザベラ様と地上に向かっています。援軍を組織して救出に来る筈です」
「ありがとうございます。貴方も地上にお戻り下さい。22階層に一人は危険過ぎますから」
「エニグマさんはどうするの?」
「少し下の階層に3名が魔物から逃げて隠れている筈ですので、まだ生きている可能性がかるのでそちらに向かいます。グラットさんが無事なら私の役目は果たされたので仲間を助けに行きます」
「ちょっと、駄目だよ。エニグマさん。レベルが1になってるんだよ!一人じゃ無理だよ」
「それでも行かなければならないのです。助けてくれてありがとうございます」
そんな中にレヴィが何故か現れた
「ハァハァ、漸く追いつきましたよ。下に行くのですか?付き合いますよ。うへー」
突如現れたレヴィに晃は驚いたが、かばんを一つ渡され
「魔石ですよ。晃様ったら回収していないので拾うのに苦労したんですよ」
「えっ?イザベラ様は?」
「うん。イザベラ様からね、一人だと危険だからって私に行くように言われたの。晃様は周りが見えなくなっているからって。無事で良かった!心配したんですよ」
そんな会話もしつつレヴィは矢を放ち、晃も鎌鼬を放ち続けていたのだった。
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