第35話  勝利の顛末

 雨の勢いが増して来て本降りになって来た。

 大輔は恐る恐るラスクを見た。


 既に肉の焼けた嫌な匂いがしていて嫌な予感がしてはいた。

 大輔が見たのは焼けただれた何かの肉の塊だ。


 近付いて見ると人の形をしていた。背丈と状況からしてまず間違いなくラスクだ。


 大輔はおもわず後ろを向き吐いた。

 かつてラスクと呼ばれた男のなれの果てだ。


 会場はシーンとなっている。

 雷が至近で落ち、バリバリバリバリと凄まじい音と揺れ、衝撃に見舞われたのだから無理もない。


 大輔も雷の影響で思考が鈍くなっていた。なので何が焼けているんだ?位に思っていたのだ。そんな中いきなり人の焼けただれた死体なのだから当然パニックになる。


 時間が経つと共にざわめきが大きくなってきた。


 しかしそうではない。耳が一時的に聞こえなくなっていたのが回復してきたのだ。


 大輔は胸が痛かった。鎖帷子の上から羽織っている服の一部が焼けていた。ラスクに落ちた雷が少し当たり、火傷をしたのだ。まだアドレナリンがかなり出ていて痛みが和らいでおり気絶しなかったが、重度の火傷を負っていた。


 司会が改めて大輔の勝利宣言をするも大輔はついに立てなくなって来た。痛みが酷くなってきて膝をついて俯くしか出来ず、やがてその場に崩れ落ちたのだ。


 大輔は担架に乗せられ運び出されるが、既に意識が朦朧としており、座の仲間から声を掛けられていたが、泡を吹いて気絶してしまった。


 暫くして大輔は自室で意識を取り戻したが、誰かに握手をられていた。


 小さい手から小学生か中学生位の手だと思えた。

 柔らかく温かで心地良かった。


 大輔は目を開けようとして咽た。

 がばっと起きて呻いた。

 木のグラスを渡され、何の疑いもなく一気に飲み干したが、中身は水だった。


 横を見ると椅子に腰掛けたケイトがいた。斜めに座り横顔を向けている。幼いとはいえ女の意地なのだろう。

 部屋は狭いがケイトが色々工夫していて、少しでも快適に使う努力をしていて大輔はありがたく思っている。


 大輔は体に違和感があるが、立ち上がり体を動かして確認している。その間ケイトは邪魔にならない様にベッドの上で体育座りだ。


 大事な所が丸見えだったので大輔は慌てて立たせ、後ろを向かせ貫頭衣を脱がせた。そして簡易下着を着けさせたのだ。今回はお互い恥ずかしがらず、着方を教えていた。服を着た後に


「済まないが、雷の後の事を覚えていないんだ。教えて欲しい。あと看病有り難うな」


「死ぬかと思ったの。嫌だよ!ダイス様が死ぬなんて嫌だよ。死んじゃ駄目なんだよ」


 泣いているので抱きしめ涙を拭く。


「死んでたまるか。ケイトを治す手立てを折角掴んだのに」


「どういう事ですか?」


「どうやら俺は本当に勇者らしいな。誰かを殺すとそいつの能力が俺に移るらしい。ただ、そのままじゃなく、咀嚼して再構築するらしいんだ。それでダリルの強さをある程度身に付いていたらしいんだよ。そしてラスクからのは戦闘能力が今はこれ以上上がらないらしく、リストにある中から好きな力をくれたんだ。俺は既に初級と、中級の回復魔法を持っているらしく、上級を得たんだ。これが使えるようになったら多分火傷を治す事が出来るんだ。但し、今は首輪にて魔法を封印されているから後々だけどな」


 ケイトは泣きながらキスをしてきた。大輔は戸惑ったが大人の対応だ。背中を摩り落ち着かせる。確か何処かの国とかは挨拶でキスをすると聞いている。なので挨拶とかでキスをする習慣がある位にしか思わなかった。


「ご、ごめんなさい。嬉しくてついつい。だけどね、ダイス様、私の為にそんな能力を得て良かったのですか?もっと戦闘に役に立つ力とかあったのでは?」


「あっ!そっか。そうだったな。いや、いいんだ。大好きなケイトが元になる手立ての方が俺も必死に頑張れるし、開放されるまでの目標になる。いずれ二人でここを出て一緒に暮らそうな。それまで俺は死なないよ」


 ケイトは頷いていた。

 右側から見るとまだ幼いが、美人の片鱗が僅かに見えるのだ。こんな可愛らしい娘がこんな醜い火傷や、乳房にもある酷い傷は可愛相だ。左側は乳首さえ無かった。綺麗な体にして世の中に送り出してやろうと、おとんの思考だった。


 落ち着いた後ケイトが説明してくれた。


 闘技場から担がれて治療された後、自室に運ばれた。対戦相手は大輔の勝利宣言の後に違法に襲ってきて、剣に雷が落ちて死に至った。記録上ダイスが闘技中に殺した事になっていると。2戦中2殺の記録だ。


 大輔は火傷で意識を失った。完全には治療できず、胸に火傷の跡が残ったが、生きているのが不思議な位のかなり酷い火傷だったという。


 今は朝食の時間になると言うのでケイトが食事を準備すると言うが、食堂に食べに行く事にした。


 テーブルに座り、バイキング方式の食事を摂る。剣闘士がベストに戦えるようにと栄養価の高い食事が摂れるのだ。全て闘技場のオーナー持ちだ。


 二人で食べていると周りの目が痛かった。大輔の事が話題になっていたのだ。


 そうしていると同じ座の者達が来て、良くやったと肩を叩かれる感じだ。

 ちなみに昨日の試合はガラグのは分は雨天中止だった。


 ガラグに食事が終わったら座長の所に行くように言われ、ささっと食べ座長の所に向かうのであった。

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