離れていても力になれるって、案外本当。――4

『GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!』


 ディメンジョンキマイラが吠える。


 同時、ディメンジョンキマイラと、ユー・マルの、周りの空間がそれぞれゆがんだ。


『ムゥ?』

『キュウ?』


「なにが起きてるんだ?」と言いたげに首をかしげるユーとマルの、動きが鈍くなる。逆に、ディメンジョンキマイラの動きは速くなっていた。


 ディメンジョンキマイラの固有アビリティ『相対的時間軸そうたいてきじかんじく』の影響だ。


『相対的時間軸』は、『味方のチャージタイム・クールタイムを30%(端数はすう切り捨て)減少し、相手のチャージタイム・クールタイムを30%(端数切り捨て)増加させる』効果を発揮する。


 さらに、ディメンジョンキマイラの姿が、上下左右180度回転、もう一度180度回転して元に戻った。


 いまのは固有アビリティ『歪曲空間わいきょくくうかん』の発動モーション。その効果は、『相手にステータスを下げられる場合、代わりに同じだけステータスを増加させる』だ。


 相対的時間軸の効果で、ディメンジョンキマイラの行動はすべて速くなり、こちらの行動はすべて遅くなる。


 また、歪曲空間の効果で、ステータスに関する妨害効果デバフは、意味をさないどころかあだとなる。


 どちらも強力極まりない固有アビリティだ。


『GYAGYAGYA……!』


 完全なる優位を確立したディメンジョンキマイラが、スキルの準備に入った。


 ディメンジョンキマイラが姿勢を低くし、巨体が輝きだす。


 その準備モーションを目にして、俺は唇をひん曲げた。


「いきなり『エナジーバースト』から来るか。容赦ようしゃねぇな」


 エナジーバーストは、ディメンジョンキマイラのみが使える固有スキルだ。


 光属性の魔法範囲攻撃で、『100%の確率で全ステータスが10%上昇する』という、反則クラスの追加効果を持つ。


 チャージタイムが12秒、クールタイムが2分と時間がかかるスキルだが、ディメンジョンキマイラは相対的時間軸を持っているため、チャージタイムが9秒、クールタイムは1分24秒になる。


 チャージタイム9秒は、ほかの範囲攻撃と同じか、それより早いくらいだ。効果に対して破格すぎる。


 しかも歪曲空間があるため、ステータスを上げられても、ステータス減少デバフで対処することができない。


 エナジーバースト・相対的時間軸・歪曲空間のシナジーは、はっきり言って悪夢じみている。


 だからって、投げ出すわけにはいかないけどな。


「ユー、バーサク! マルはスタンボディー!」

『ムゥ!』

『キュ!』


 疾風の腕輪の『先制効果』で、すぐさまバーサクが発動。


 ユーの体から燃えるような真紅のオーラが立ち上り、HPが1/4になって、STRが200%上昇した。


 マルも体を縮こまらせてスタンボディーの準備に入る。チャージタイムが3秒なので、相対的時間軸の影響はギリギリ受けない。


「次はベンジャーレイスだ、ユー!」

『ムゥ……!』


『報復攻撃』スキルを使うため、ユーがロングソードを構えた。


 バーサクリバスト一発ではディメンジョンキマイラを沈められないため、この戦いでの俺の目的は、『勝つ』ではなく『負けない』だ。


 ゆえに、ファイアードラゴンとの戦闘と同じく、ユーのスキル構成はジャーレス型にしてある。


『キュウ!』


 マルのスタンボディーが発動した。


 マルの体がバチバチと帯電し、『攻撃を受けた際、30%の確率で相手を麻痺させる』帯電状態となる。


『ムゥッ!』


 続いてはユーのベンジャーレイス。


 ユーと瓜二うりふたつな姿をした、無数の小さな幽霊が現れ、現れたそばから姿を消した。これで、『報復攻撃』を行える。


 エナジーバーストの発動までは、まだわずかに時間がある。打たれた後のリカバーを用意しておくか。


「マル、ハイヒール!」

『キュ!』


 マルが小さな手で合掌した。『最大HPの50%分、HPを回復する』魔法スキル、ハイヒールの準備。


 マルは、『装備しているモンスターのSTR・INTが0になるが、STRの数値がVITに、INTの数値がMNDに加算される』効果を持つ『歪曲の腕輪』を装備している、盾役タンク仕様だ。しかし、200レベルが放つエナジーバーストを食らえば、相当なHPが持っていかれる。


 相対的時間軸の影響で、ハイヒールのチャージタイムが7秒になることも考慮こうりょすれば、早めに準備しておくに越したことはない。


『GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!』


 俺が態勢を整え終えたとき、ついにエナジーバーストが発動した。

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