自主的な努力こそが、成長の鍵。――13

『LWWWW……!』


 モスベアが、鋭い爪が並んだ右腕を引き絞る。


 モスベアの初手は『ネイルピック』。チャージタイム5秒の物理攻撃だ。


 モスベアの初動を見て、ケイトとレイシーが指示を出す。


「ガーちゃんは『イヴェンジェル』! ケロちゃんは『タウント』!」

「『エナジーアップ』です、リーリー! ピートは『バーストチャージ』!」

『クワァッ!』

『ゲロッ!』

『リィ!』

『ワウッ!』


 それぞれの従魔が動き出した。


『飛翔』により大空を舞うガーガーが、まぶたを閉じる。


『自身のINT・MNDを30%上昇させる』魔法スキル『イヴェンジェル』の準備。チャージタイムは3秒。


 リーリーもまぶたを伏せた。こちらもチャージタイム3秒の自己強化スキル。上昇するステータスはSTRとINTだ。


 レイシー、ケイトとも、片方の従魔の初手は自己強化スキル。


 続いてはケロだ。


『ゲロォッ!』


 ケロが、辺りに響き渡るほど大きな鳴き声を上げた。


『LWWWW……!』


 モスベアの双眸そうぼうがケロを捉える。モスベアのターゲットがケロに定められたあかし


 これは、ケロが使ったスキル『タウント』の影響だ。


 タウントは、チャージタイム0秒、クールタイム20秒の、『ヘイト値を稼ぐ』物理スキル。盾役タンク重宝ちょうほうするスキルだ。


 どうやらケイトは、俺のアドバイスを受けて、ケロを盾役にしたらしい。


『ガウッ!』


 3体の従魔が動くなか、ピートもスキルを発動させた。


 ピートが脚力を爆発させて飛び出し、その勢いで地面がえぐれる。


 ピートの体は、燃え上がるように赤熱せきねつしていた。


『バーストチャージ』か! 思い切った選択だな!


 俺が感心するなか、ピートがモスベアの腹部に突っ込む。


 ズドン!


 鈍く重い音が響いた。


『LWO……!!』


 モスベアが目をき、胃液をまき散らしてヨロヨロと後退る。


 モスベアのHPバーは、1/4も減っていた。モスベアがロードモンスターで、かつ、ピートより6レベル高いことを考慮すれば、相当なダメージ量だ。


「やはり、バーストチャージの威力はすさまじいですね」

「ええ。レイシーさんが用いられたのは驚きですが」


 俺とともにふたりの戦いを見守っている、エリーゼ先輩、ミスティ先輩が、思わずというようにうなった。


『バーストチャージ』は、先制効果を持つうえに威力も非常に高い、優秀な物理攻撃。


 ただし、強力であるがゆえの代償がある。


『ワウッ……!』


 ピートがフラリとよろける。そのHPは、3/4になっていた。


 バーストチャージは、高威力だが最大HPの1/4を消費する、両刃もろはつるぎなんだ。


 ただ、レイシーがなんの考えもなく、バーストチャージをスキル構成に組み込んだわけではないだろう。


 ピートの右前足には、『STR・INTを10%上昇させる』装備品『霊銀れいぎん腕輪うでわ』が嵌められている。


 おそらくレイシーは、ピートを火力特化型にしたんだ。


 フレイムレトリーバーは、ヒートハウンドの固有アビリティ『奮闘』を引き継いでいる。


 そして『奮闘』の発動条件は、HPが1/2以下になること。


 つまりレイシーは、HPを消費するために、わざとバーストチャージを使用したんだ。『霊銀の腕輪』と『奮闘』が組み合わされば、ピートのSTR・INTは1・21倍になるからな。


「頑張りましょう、ピート!」

『ワンッ!』


 はげますレイシーに、ピートが「もちろん!」と答えるように鳴く。


 その様子を眺めながら、俺は頬をゆるめた。


 あえてデメリットのあるスキルを選ぶなんて、大胆だいたんなスキル構成にしたもんだ。ただ優しいだけでなく、強気の決断もできる従魔士になったな、レイシー。

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