勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――8

 アイスシェルのチャージタイムは5秒。


 スタンボディーのチャージタイムは3秒。


 ゆえに生まれるわずかな空白。


 俺とミスティ先輩は、闘志にたかぶった視線を交わし合う。


 3秒後、マルがスタンボディーを発動させた。


『キュウ!』


 マルの体が帯電し、パチパチと音を立てる。


 魔法スキル『スタンボディー』は、やや変則的な状態異常スキル。


 その効果は、『攻撃を受けた際、30%の確率で相手を麻痺させる「帯電状態たいでんじょうたい」になる』だ。


麻痺まひ』とは、『10秒間、あらゆる行動がとれなくなる』状態異常バッドステータス。必然的に、『麻痺』しているあいだは大きなすきになる。


 ミスティ先輩が、「くっ」と苦々しげな顔をした。


 ただでさえマルは硬いのに、ティターンが『麻痺』状態になると余計に倒しづらくなるのだから、無理もないだろう。


『OOOOOOHH!!』


 マルの次はティターンの番だ。


 アイスシェルが発動し、ティターンの口から、砲弾のように巨大な雪玉が発射される。


 雪の砲弾がマルに直撃し、炸裂した。


『キュウ……ッ!』


 マルが苦しげにのけ反る。


 しかし、先ほどのジェットパンチで『温厚』が発動していたため、ダメージはそれほどではなかった。


 マルのHPは、まだ半分残っている。


 加えて、2度目の『温厚』によって、VIT、MNDがさらに上がり、マルの防御性能は、全モンスターちゅうトップクラスに匹敵していた。


 それでも俺は慢心まんしんしない。


 ミスティ先輩に油断なんて見せたら、たちまち逆転されるだろうしな。徹底的に勝ちの芽を摘むぜ!


「『ハイヒール』だ!」

『キュ!』


 マルが小さな手で合掌がっしょうした。


『最大HPの50%分、HPを回復する』魔法スキル。ジェア神殿で手に入れた、『魔法のスクロール』で習得させたものだ。


「『グランファウンテン』!!」

『OOOOHH……!』


 指示を出すミスティ先輩は、焦燥しょうそうつのらせているようだった。


 なんとかマルのHPを半分まで削ったのに、ハイヒールが発動したら振り出しに戻ってしまうのだから、当然だろう。


 ティターンが両手をステージにつく。その指先からは、ジワジワと水が滲み出ていた。


 魔法攻撃『グランファウンテン』の構え。『30%の確率で、相手のAGIを10%下げる』追加効果を持つ、水属性のスキルだ。


 6秒のチャージタイムをようするグランファウンテンより1秒早く、ハイヒールが発動する。


『キュウ!』


 神々こうごうしい光がマルを包み込み、HPが全快した。


 一歩遅れて、グランファウンテンが発動する。


 ティターンの指先から滲み出ていた水が、マルの足もとへと向かい、渦を巻き、間欠泉かんけつせんの如く、勢いよく空に昇った。


『キュ――ッ!!』


 巻き添えにされ、マルが天高く吹き飛ばされる。


 直後、吹き上げられた水が、豪雨のようにステージに振り注いだ。


 吹き飛ばされたマルがステージに叩きつけられる。


『キュウ』


 それでも応えた様子はない。HPは9/10も残っていた。


 マルの防御性能が高いのはもちろんだが、雷属性が水属性に強いことも要因だ。


 おそらくミスティ先輩は、火属性対策として、ティターンのスキル構成にグランファウンテンを組み込んだのだろう。氷属性のティターンは、火属性に弱いからな。


 マルに効果が薄いとわかっていながらグランファウンテンを使ってきたのは、『ほかに選択肢がなかったから』と考えるのが妥当だとうだ。


 ジェットパンチとアイスシェルはクールタイムの最中さいちゅう。そして4つ目のスキルは、現状では役に立たないのだろう。

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