勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――3

「ユーさんの恐ろしさは、予選で確認しています。みすみすやられるような真似はいたしません」

「上手いっすね。アートフルキャットだからこそ打てる対策だ」


 ミスティ先輩が不敵に笑い、俺は素直に賛辞さんじした。


 本来、ポイズンの発動には3秒間のチャージタイムが必要で、バーサクリバストには対応できない。


 だが、アートフルキャットにならできる。アートフルキャットは、固有アビリティ『狡猾こうかつ』を持っているのだから。


『狡猾』の効果は、『攻撃スキルのチャージタイムが2倍になるが、それ以外のスキルのチャージタイムは0秒になる』だ。


 すなわち、状態異常スキルも、強化スキルも、回復スキルも、アートフルキャットは即座に発動できるということ。


 アートフルキャットは、支援役バッファー妨害役デバッファーにうってつけなんだ。


 ミスティ先輩は、そのことを熟知していた。


「『ヒーリングフィールド』!」

『ミャア!』


『10秒ごとに、味方のHPを最大値の1/12回復させるフィールドを、1分間展開てんかいする』魔法スキルを発動。


 ステージが、淡い緑色の光に包まれる。


「『トリックシフト』!」

『ミャッ!』


 さらに、『味方の従魔と入れ替わる』魔法スキルで、ノータイムで交代。


 チェシャの姿が薄れ行き、代わりに、貫頭衣かんとうい羽衣はごろもに身を包んだ、人魚の女性の姿が浮かんできた。


「お願いします、ティア!」

『ラー!』


 歌をうたうようなんだ声で、人魚型モンスターが応じる。




 ウンディーネオラクル:112レベル




 水と光の属性を持つウンディーネオラクルは、INT、MND、DEXが高く、STR、VITが低い。いわゆる魔法使い系モンスターだ。


 右手の中指には、『ステータス上昇効果が20%上乗うわのせされる』効果を持つ、『いのりの指輪ゆびわ』が装備されている。


 ミスティ先輩が即座に指示を出した。


「『チェインライトニング』!」

『ラー……!』


 ウンディーネオラクルのティアが、両手を掲げる。


 その手が電気を帯び始めた。


 みっつの雷球を生み出し、3秒毎に相手を襲わせる時間差攻撃――雷属性の魔法スキル『チェインライトニング』の構えだ。


 ミスティ先輩の一連の行動に、俺は舌を巻くほかなかった。


 ポイズンでユーのバーサクリバストを牽制けんせいしたうえで、ヒーリングフィールドにより2番手の従魔をサポート。


 さらにトリックシフトを使用し、交代によるタイムロスをなくした。


 ティアの初手も素晴らしい。


 バーサクリバストが使えなくなったら、俺はユーを交代するしかない。


 しかし、時間差攻撃であるチェインライトニングを用いておけば、俺が従魔を交代した瞬間から攻めることができる。


 すなわち、優位に立てるということだ。


 文句のつけようがない。相手すらも配役キャストとして扱い、自らの台本シナリオで踊らせるかのような手際。


「少しは驚いていただけましたか?」


 ミスティ先輩が微笑みかけてくる。


 おごるでも、誇るでもない、絶対の自信に裏打ちされた、自然体の笑顔だ。


「見事の一言っすよ。ミスティ先輩と戦えて、本当によかったです」


 そう。ミスティ先輩の戦いぶりは、思った以上に素晴らしい。


 だが、




「今度は、先輩に驚いてもらいます」




 

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