勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――1

 2日後、学生選手権の本戦。


 セントリアの競技場の控え室には、予選を勝ち抜いた16名の学生が集まっていた。


 そのなかにいたひとりの男に、俺は目を見張る。


 俺よりふたつ年上くらいの見た目。

 黒いブレザータイプの制服をまとう、筋肉質な体。

 身長は高く、180は超えていた。

 黄色い逆立さかだった髪に、赤いつり目。

 傲岸不遜ごうがんふそん嗜虐的しぎゃくてきな顔付きをしている。


 ジェイク・サイケロアが、どうしてレドリア学生選手権に参加しているんだ!?


 俺が驚いたのも無理はない。なにしろ、ジェイク・サイケロアは、現時点では登場しないはずの、なのだから。


 その昔、ヴァーロンに、『スペルタン帝国ていこく』という大国が存在した。


 スペルタン帝国は、戦争に従魔を用いることで領土を拡大していた国――従魔を兵器として扱っていた国だ。


 スペルタン帝国を危険視したヴァーロンの国々は、連合軍を結成した。


 そして長い大戦のすえ、連合軍はスペルタン帝国を打ち倒すことに成功したんだ。


 しかし、巨悪が息絶えることはなかった。


 スペルタン帝国民の一部が、母国を滅ぼした諸外国しょがいこくに復讐するため、秘密結社を結成したんだ。


 それこそが、スペルタン。ぞくに言うテロ組織だ。


 ジェイクも例に漏れず、『死大神したいしん宝珠ほうじゅ』というアイテムを用いてテロ行為を働く。


『死大神の宝珠』は発動中、5分に1体、『イービルヴァルキリー』というロードモンスターを出現させる。


 そしてプレイヤーは、ほかのプレイヤーと協力してイービルヴァルキリーを討伐し、ジェイクを捕獲する――いわゆるレイドクエストだ。


 そのイベントは、ゲームの中盤。ロッド・マサラニア(つまり俺)が、2年生に進級してから発生する。


 それなのに、なぜジェイクがここにいるんだ? これもゲームとの差異さいか?


 しばし考え、俺はかぶりを振った。


 理由はわからないが、ジェイクがここにいるのが現実だ。ジェイクの狙いを推測し、阻止そしするのが先決だろう。


 では、ジェイクはなんのために学生選手権に参加している?


 腕組みして頭を回転させ、俺はボソリと呟いた。


「……おそらくは、レドリア王の殺害だな」


 レドリア学生選手権の決勝戦は御前試合ごぜんじあいで、レドリア城の敷地内で行われる。


 つまり、決勝まで勝ち抜いた選手は、レドリア王と対面できるんだ。


 決勝まで勝ち進み、レドリア王の前で『死大神の宝珠』を発動させ、出現したイービルヴァルキリーで殺害する――それこそが、ジェイクの狙いだろう。


 ジェイクのたくらみは推測できた。さて、どうやって阻止しようか……。


 警備員に事情を話し、協力を要請するのが、一番手っ取り早いだろう。ジェイクが所持しているだろう『死大神の宝珠』は、証拠にもなる。


 しかし、その手は使えない。


 スペルタンは、各国に工作員を潜伏させている。ジェイクを告発しても、工作員が証拠=『死大神の宝珠』を隠してしまうだろう。


 加えて、『なぜ俺が、ジェイクの企みを知っていたのか』を、警備員から問い詰められる可能性もある。


『異世界から転生してきたから』と明かせない以上、逆に俺が怪しまれてしまうだろう。それはマズい。


「そうなると、本戦でジェイクをくだすのが最良だな」


 ジェイクを決勝戦まで進ませなければ、レドリア王と対面する機会も奪える。


 決勝に進出した選手以外はレドリア城のなかに入れないから、ジェイクの企みを阻止できる。一件落着だ。


 ただし、その解決法には唯一の欠点がある。


「ジェイクと俺は別ブロックなんだよなあ」


 すなわち、俺の手でジェイクを下せないことだ。


 俺は再び腕組みして考える。


「いざとなったら、エリーゼ先輩に頼むか」


 エリーゼ先輩はジェイクと同じブロックだ。


 エリーゼ先輩は、俺を『異常なまでの物知り』と認識している。流石さすがにすべてを打ち明けるわけにはいかないが、『ジェイクがなにかを企んでいる』と伝えれば、協力してくれるだろう。


 四天王である先輩なら、戦闘力も申し分ない。


 もちろん、エリーゼ先輩を巻き込まないで済むに越したことはないけれど。


「できればジェイクには、エリーゼ先輩と当たる前に負けてほしいもんだな」


 そう祈るばかりだった。

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