大事な大会には、最高の状態で挑むべき。――5

 ジェア神殿の内部は広い通路になっていた。


 通路の脇には円柱が並び、床は光を発している。古代文明と近未来文明が混ざり合ったような、不思議な空間だ。


 俺とレイシーは神殿内を進み、3階層まで来ていた。


「この階層に目的のモンスターがいるんだ。レイシーも探してくれるか?」

「了解です!」


 レイシーがビシッと敬礼して、キョロキョロと辺りに視線を巡らせはじめる。


「ロッドくんの探しているモンスターは、どんな特徴を持っているのでしょうか?」

「ああ。俺が探しているモンスターは――」

「あっ!」


 俺が説明しようとしたとき、不意にレイシーが弾んだ声を上げた。


「見てください、ロッドくん! 『スパークアルマジロ』ですよ!」


 レイシーが喜色満面で、俺の制服の袖をクイクイと引っ張る。


 レイシーが指差すのは脇道で、その先に、中型犬サイズのアルマジロがいた。


 黄色いアルマジロは餌を探すように、ふんふん、と鼻を動かしている。




 スパークアルマジロ:76レベル




「可愛いですねぇ……」


 スパークアルマジロの仕草を眺め、レイシーがウットリと頬をゆるめた。


 可愛いものに目がないレイシーにとって、スパークアルマジロはストライクゾーンど真ん中だったらしい。


 そんなレイシーの両肩を、俺はがしっとつかんだ。


「ふぇ?」


 戸惑いの声を上げるレイシーに、俺はズイッと顔をよせる。


 レイシーの顔が赤く染まり、瞳がグルグルと渦を巻きはじめた。


「ロ、ロッドくん? あのあのあの、う、嬉しいのですが、その、い、いきなりですので、心の準備が……!!」


 俺が真剣な眼差しで見つめると、レイシーは意を決したようにギュッとまぶたを伏せる。


 そんなレイシーに、俺は告げた。


「お手柄だ、レイシー!」

「ふゃ?」


 特有の鳴き声とともに、レイシーが閉じていた目を開く。


 なんのことだかわからないと言いたげに、レイシーはパチパチと瞬きをした。


「俺が探しているモンスターはスパークアルマジロなんだよ! 見つけてくれてありがとな!」


 ニカッと笑う俺とは対照的に、レイシーは頬をプクゥっと膨らませて、プルプルと震え出す。真っ赤な顔をして、少しだけ涙目になっているさまは、まるで羞恥しゅうちに耐えているかのようだ。


「も、もう~~~~っ! そういうところですよ、ロッドくん!」

「は? どういうことだ?」

「知りません! ロッドくんのバカ!」


 レイシーがねたようにプイッと顔をそむける。


 なぜ俺はののしられたのだろう? サッパリわからない。アクトの言うとおり、俺は女心がわかっていないのかもしれない。


 頭をひねっていると、「そ、それはともかく!」と、レイシーがやや無理矢理に話題を変えた。


「ロッドくんがスパークアルマジロを探しているとは思いませんでした。スパークアルマジロはEランクのモンスターですよね?」

「なるほど、こっちではそうなんだな」

「こっちでは?」

「いや、なんでもない」


 どうやらスパークアルマジロも、この世界では不遇ふぐうモンスターらしい。


 まあ、ぱっと見でスパークアルマジロの真価に気付けるやつは少ないし、従魔士のレベルが低いこの世界では尚更なおさらだろう。仕方ないことだ。


 スパークアルマジロは雷属性のモンスター。STR、AGI、DEXが高く、VIT、MNDが低い、いわゆる『軽戦士タイプ』だ。


 決してステータスが低いわけではなく、数字だけ見たら充分火力アタッカーとして活躍しそうだが、スパークアルマジロには致命的な欠点がある。


 それが固有アビリティ『温厚おんこう』だ。


『温厚』の効果は、『攻撃したり受けたりするたび、STR、INTが30%減少し、VIT、MNDが30%増加する』。つまり、戦闘が進むにつれ、スパークアルマジロは攻撃性能を失っていくんだ。


 もちろん、防御性能が上がっていくことは利点だが、火力向きのスキル構成では中盤から役立たずになり、タンク向きのスキル構成では序盤が心許こころもとない。


 要するにどっちつかず。それなら、純粋な火力、純粋な盾役のほうが使いやすいというわけだ。


 、だがな。


「スパークアルマジロにはスパークアルマジロにしかない『強み』があるんだよ。まあ、楽しみにしててくれ、俺があいつの真価を引きだしてみせるから」


 胸をドン、と叩きながら宣言すると、レイシーがクスクスと笑みを漏らした。


「まるで子どもみたいですね」

「どういう意味だ?」

「ロッドくん、秘密基地を自慢する子どもみたいな顔してますよ? ちょっと可愛いです」

「可愛いって言われても嬉しくないんだが……」


 むしろ恥ずかしい。


 熱くなった顔を背け、ポリポリと頬を掻くと、レイシーは「すみません」と謝った。いまだにレイシーの口元には笑みが浮かんでいるが。


「そうですね。ロッドくんは、わたしたちでは気付けない、スパークアルマジロの真価に気付いているのでしょう。楽しみにしていますね」

「おう、任せとけ!」


 ニッとレイシーに歯を見せる。


 レイシーにとっては、こういう表情こそが『子どもみたい』なんだろうけど。

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