弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――13

「なん……だと!?」


 俺の指摘を受け、カールの顔が憤怒に歪む。


「二体に増えようが、雑魚が雑魚であることに変わりはないだろう! 蹴散けちらしてやれ、カイザー!」

『ガウッ!』


 カイザーが二発目のライトニングショックを放つ。


 今度はクロに直撃するコースだ。雷球がクロに迫る。


 カールが勝ち誇るように笑った。


 しかし、俺はあせらない。


「ブロック!」

『ピィッ!』


 俺の指示を受けた分身が、雷球の軌道に割り込んで、クロ本体をかばう。


 雷球が直撃した分身ははじけ飛んでしまったが、クロは無傷のままだ。


「分身を盾に!?」

「その通り。アブソーブウィスプは10秒に一度相手のHPを吸収する。つまり、クロのHPが3/4以上残っている限り、10秒に一度分身が誕生するってことだ」


 しかも、


「分身が盾になれば、クロ本体のHPは減らない」

「ま、まさか……お前は、分身を盾にしながら、1%ずつHPを奪って勝とうとしているのか!?」


 戦慄せんりつに震える声で、カールがいてくる。


「ああ、そうだけど?」

「まともな思考じゃない! そんな気の遠くなるような戦法、従魔士のセオリーから完全に逸脱いつだつしている!」

「ん? そんなにおかしい戦法か? 大切なのは勝つことだ。勝てさえすれば、どれだけ時間がかかろうと構わないだろ?」


 俺の発言に、カールが絶句した。いや、カールだけでなく、演習場にいるすべての人間が言葉を失っている。


 俺、そこまで変なこと言ったか?


 俺は頭を捻り、しばらく考えて、気付いた。


 あー、そうか。この世界では、従魔士が未熟なだけじゃなくて、戦法も洗練されていないんだ。


 おそらく、使い勝手のいいモンスターばかり優遇した結果なんだろう。


 扱いにくいモンスターの研究は進められず、結果として弱小モンスターに認定されてしまった。


 それが、ゲームとこの世界とで、モンスターの評価が異なる原因なんだろう。


 俺はうんうん、と頷き、口をパクパクさせているカールに警告する。


「この戦法がおかしいかどうかは、いまは関係ない。なんとかしないと、なにもできずに負けちまうぞ?」

「ぐ……っ!」


 カールが苦虫をつぶしたような顔をして、視線を右往左往させる。おそらく現状を打破する手段を探しているんだろう。


 カールが悩んでいるあいだにも、時間は刻一刻こくいっこくと進み、二度目のHP吸収が行われた。


『ピィッ!』


 再びクロの分身が生まれる。


 生まれた分身を睨み、カールが唇をわななかせ――やにわに、目を見開いた。


「ふ、ふふふふ……いきがれるのはここまでだ、マサラニア!」


 カールが叫ぶ。


「『エレクトリックフィールド』だ、カイザー! 範囲攻撃で一掃いっそうしてやれ!」


 カールの指示に応えるように、カイザーがまとう電流が勢いを増した。


『グルルル……』と唸るカイザーの周りで、大気がバチバチとぜる。


「範囲攻撃には『回避不可』効果が付随ふずいしているから、『目眩』状態でも当てることができる! 効果範囲内のすべてのモンスターにダメージを与えるから、分身を盾にすることもできない! お前の戦法は不完全だ、マサラニア! 範囲攻撃はんいこうげき一発で、軽々かるがると戦況をくつがえされてしまうんだからね!」

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