第279話 セバスチャン、賊を退治する

 無事、テミス村へと続く街道に【テレポート】出来たセバスチャンは、遠目に見える巨大な城壁(村壁?)に向かって歩き出した。

 この村には何度か来た事があるが、一番近い記憶を探っても、それは10年近く前の話だ。

 その時の記憶は未だ保持しているセバスチャンであったが、エルザの話によると、村は結構様変わりしているとの事だったので、万全を期して街道を【テレポート】する先へと選んだのである。

 魔法を込められた魔石は、一度起動すると、成功失敗に関わらず使い捨てだ。これが大して魔力を使わない魔石なら良いが、【テレポート】が仕えるレベルの魔石となると、用意するのに時間も手間も費用も掛かる。

 事実、現状で【テレポート】を使える魔石は、今セバスチャンが使ったのを含めて三つしかない。そんな貴重な魔石を使い、記憶違いで【テレポート】が効果を発揮しなどという事態は、絶対に避けなければならないのだから、セバスチャンが慎重になるのも当然なのだ。


「陛下!」


 セバスチャンが村へと近付くと、城壁の上に立っていた騎士が彼に気付き、声を掛けて来る。他国なら国王を見下ろすなど言語道断だが、騎士はその事を気にしている様子はないし、セバスチャンも欠片も気にしていない。

 騎士は国民を守るのが仕事なので、任務中に国王に気を取られては本末転倒だからだ。


「ウェインか。時間が惜しい。そのまま詳しい状況を教えてくれ」

「はっ! 勇者率いる賊が現れたのは、最寄りの街からの帰路。街道沿いに一定間隔で設けられている、野営の為の広場を出発しようとした所を囲まれたそうです。賊は十人で、その中の二人が手配中の勇者の特徴に酷似していた為、荷の中身は酒だと告げて森の中へ逃走。暫くして戻ってきた時には、馬と荷馬車の姿がなかったとの事です。村人たちはそこから徒歩で半日かけてこの村へ帰還。道中、この村に最も近い野営地には、打ち捨てられた酒樽と、壊された荷馬車が転がっていたそうです」

「酒樽を奪って最寄りの野営地で宴会か。奴らがどれ程飲んだのかは分からないが、まだその付近にいる可能性は高い。探してみる価値はあるな・・・・・・」


 セバスチャンの元に報告が入ったのは、襲われた村人が村に辿り着いてから30分後。事態を重く見たウェインが報告書を素早く『次元ポスト』で送ったので、賊が現れてからの時間はまだ半日と少ししか経っていないのだ。


「良し。私は最寄りの野営地を当たる。お前たちは入れ違いで賊が現れた場合の事を考え、この村の防衛に専念してくれ。万一賊が現れた場合は・・・・・・」


 セバスチャンはそこで、見覚えのあるマジックアイテムが、城壁の狭間から覗いているのを確認して口を閉ざした。


「・・・・・・おい、何でソレがここにある?」


 セバスチャンはそう言って、『真・アーネスト号EX』の甲板に据え付けられている物に酷似したマジックアイテムを指差した。


「はぁ、なんでもエルザ様が村の防衛に口を出したそうで・・・・・・。これと同じ物が、等間隔で死角なく城壁に並んでおります」

「・・・・・・そうか。なら賊が来ても問題ないな。ではこの村の事は任せる」

「はっ! ご武運を!」

 

 色々と諦めた表情で言ったセバスチャンは、ウェインに答礼して踵を返す。そして、一刻も早く賊を見つける為に、魔力による身体能力強化を全身に施し、その場から駆け出した。




「ここか」


 20㎞程の距離を10分足らずで走破したセバスチャンは、話に聞いていた通り、酒樽と壊された荷馬車が打ち捨てられた野営地に辿り着いた。


「賊の姿は無し。となると、森の中か?」


 そう言いながら、セバスチャンは新たな魔石を取り出した。この魔石には【サーチ】という魔法が込められていて、自身を中心に最大半径5㎞の範囲を捜索できるという効果がある。魔石もプラチナダンジョンのモンスターがドロップする程度の品質で済むため、今後の事を考えて大量に作成されているのだが、未だに使用できる人間が少ない為、これを所持しているのはセバスチャンと弟のアルフレッドだけだ。


「・・・・・・くっ」


 【サーチ】を使った事で、一度に大量の情報が頭の中になだれ込む。その結果起こっためまいと頭痛、吐き気を堪えながら徐々に知覚できる範囲を広げていくと、ようやく反応があった。

 どうやら賊は、野営地から森を分け入り、3㎞程進んだ場所にある廃墟を根城にしているらしい。


「行くか」


 体調が落ち着くのを待って、セバスチャンは森に分け入る。途中、賊が仕掛けたと思しき罠を全て力で粉砕していくと、森を抜ける頃には賊が総出で出迎えてくれた。


「誰だてめえ!」

「情報通り、勇者が二匹か」


 賊の誰何の声を無視して、セバスチャンが剣を抜く。


「っ! 掛かれ!」


 その問答無用な様子に何かを感じ取ったのか、勇者二人は部下たちを嗾け、自分達はセバスチャンの背後に回ろうとした。


「「ギャアアアアア!」」


 だが、今のセバスチャンにそんなものが通用する筈もない。勇者たちが襲い掛かる頃には部下は全て一撃で斬り殺され、気付いた時には四肢を切断されていたのだ。


「さて、ウェインに知らせて帰るか」


 息一つ切らさず、それらの事を実行したセバスチャンは、死体と傷跡を雷で焼いた勇者を【次元倉庫】に回収すると、テミス村に引き返してウェインに賊の討伐を報告。帰りは【テレポート】の魔石が無いので訓練を兼ねてスーパーサ○ヤ人ブルーになり、走ってランスリードの王都へ帰ったのだった。

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