第237話 異世界を救う方法
「では息を吸って~。止めてくださーい(棒読み)」×2
現在、カズキのホームという事になっている冒険者ギルドで儀式を終えたジュリアンとソフィアに発現したヒヒイロカネの能力は、自身の魔力を貯める事が出来るという物だった。
「てっきり肉体強化とかの能力を得ると思っていましたが、予想外の能力になりましたね」
「自分の望むものではなく、必要な能力を得たという訳ね。実際問題、この能力は私達には最も必要な物と言っても過言ではないわ。今の魔力では発動できない魔法を使う事が出来るし、威力を高めるのにも使える。それはつまり、魔力制御を高めていけば【アイギス】や【ラグナロク】。そして【テレポート】も使えるという事よ!」
「最近行き詰まっていましたが、ヒヒイロカネを手に入れたお陰で今後すべきことがわかったのは大きいですね」
今回、ジュリアンとソフィアがヒヒイロカネを手に入れてわかった事は、魔力制御を鍛える余地があるという事と、【アイギス】や【ラグナロク】、【テレポート】を発動できる程には魔力が高まらない事。目を背けているが、身体能力の強化の余地がある事だと二人は考えていた。
実際にはヒヒイロカネに【アイギス】や【ラグナロク】、【テレポート】を使えるようにするだけの能力がないだけなのだが、神ならぬ身の二人にはわかる筈もない。
カズキは何となくその辺の事をわかっていたが、盛り上がっている二人に水を差すのも悪い気がしたので、口する事は無かった。下手に事実を突きつけると、この二人は理由をつけて身体能力強化の方を疎かにしかねないからだ。
「ともあれ、これで
ソフィアがセバスチャンの大幅なパワーアップに言及する。彼が【トール】を使えるようになった挙句、魔力操作の三段階目――魔力の体外への放出―――まで使えるようになった事で、夫婦間の実力の差が逆転した事に危機感を覚えていたからだ。
「意図的に目を背けているようですが、魔法ばかりに目を向けていたらセバスチャンには勝てませんよ? ヒヒイロカネの能力(【トール】)を使わなくても、今の段階では瞬殺されます。だから体を鍛える方も疎かにしないで下さい。このままだ差が開く一方ですからね?」
ソフィアがセバスチャンを引き合いに出したので、カズキがこれ幸いと体を鍛えるようにと忠告すると、ソフィアとジュリアンは揃って苦虫を嚙み潰したような顔をした。やはり意図的だったようだ。
「そ、そんな事よりも、またダンジョンが発生したという話を聞いたぞ!?」
「え、ええ。瘴気が日を追うごとに濃くなっているという話だったわね。このままだと、其処彼処でボーダーブレイクが起きてもおかしくないという話だったわ!」
この話題を続けるのが危険だと思ったのか、ジュリアンが強引に話題を変えると、ソフィアもそれに乗っかった。
「・・・・・・確かに瘴気が濃くなっているのは事実ですし、ダンジョンも加速度的に増えてますね。このまま対策を打たなければ、何人もの人が犠牲になるでしょう」
これ以上追い詰めると逆効果になると思ったカズキは、露骨な話題の変更に敢えて応じる。
この世界の神にヒヒイロカネという
「今までは特別瘴気が濃い場所を探せば良かったが、世界中に瘴気が蔓延し始めた今となってはその手も使えなくなるだろう。カズキ謹製のマジックアイテムで武装してごり押しという手もあるが、階層の深さによっては途中でミスリルの魔力が尽きる。そうなると目も当てられん」
「仮にその手を使っても、ダンジョンが増える速度の方が上回るでしょう。カズキみたいに一日で複数のダンジョンを踏破するなんて離れ業が出来る筈もないし」
「一度、その辺りの事をガストン殿と話しあう必要がありますね。彼もこの状況には危機感を覚えている筈。ベヒモスを倒しても、増えたダンジョンが無くなる訳ではないのですから」
自分達で話を逸らしたからか、積極的に意見を交わすジュリアンとソフィア。そしてこの後、ギルド本部でガストンを交えて話し合った結果、勇者パーティ以外のオリハルコンランク冒険者には、自分のランクよりも一つ下のダンジョンを攻略させる事に決まり、オリハルコンダンジョンの攻略は、カズキ謹製のマジックアイテムでごり押しという、当初の予定では却下された方法で行う事に決まった。
但し、それをするのはジュリアンとソフィア、セバスチャン、アルフレッドの四人である。これならばカズキのマジックアイテムは流出しないし、仮にマジックアイテムの魔力が途中で尽きても『次元倉庫』に避難して、一日の最後にカズキに迎えに来てもらえば良い事に気付いたのだ。
それでも彼らが一日に踏破できるダンジョンの数は、精々一つか二つである。これではカズキ一人の時と大して変わらないと思われたが、つい最近、天使の紋様を発現させ、【テレポート】が使えるようになったエルザが参加する事になった為、ダンジョンの増加は抑えられる事となった。
そして最後の一押しにと、彼らに匹敵する力を持つ男がこの世界へと足を踏み入れる。その
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