第234話 ダンジョンは甘くない

「【ギガス〇ッシュ】!」

「【ライトニングスラッシュ】!」


 『次元倉庫』を出たラクト達は、『プラチナランク冒険者の心得』に書いてある事に従い、深入りせず一層目で戦闘を繰り返していた。


「【アースランス】!」

「【トルネード】!」

「【インフェルノ】!」

「【ホーリーアロー】!」

「ハッ!」


 より正確に言うならば、モンスターがひっきりなしに現れるせいで、全く探索が進んでないというのが正しいのだが。


「ゴブリンキング並のモンスターがごろごろ現れるな。ちょっと過酷すぎないか?」


 最前線で剣を振るっていたエストが、後続がいないのを確認してその場に座り込んだ。


「この世界の冒険者はモンスターを倒せばレベルが上がって強くなるから、少しづつでも進めるんだろうけど・・・・・・。僕たちはそうじゃないからね」


 同じように座り込んだラクトが、水を飲みながら答える。


「同じモンスターでも強さにバラツキがあるからな。どの程度の魔法を使えば良いのかも考えねばならん」


 ラクトと背中合わせに座っているコエンも、やはり水を飲みながらそんな事を言う。


「そこら辺の事も考えて、カズキさんはこのダンジョンを選んだのでしょうね。要は、まだまだ戦い方に無駄があるという事なのでしょう」


 カズキが適当にダンジョンを選んだとは微塵も考えていないマイネは、水分を補給した後、素早く立ち上がる。そして、『カズピュ~レ・サンダードラゴンミックス』の封を切り、素早く中身を啜った。最近わかった事なのだが、上質なドラゴン肉を食べると、若干の疲労回復効果が見られたのだ。


「・・・・・・今度はジャイアント系ですかね?」


 徐々に近づいてくる地響きに、皆がマイネと同じ行動を取る。束の間の休息は終わり、再び戦いの時間がやってきたのだった。




「ここが最下層か。それで? コアは何処にあるんだ?」


 カズキによって一気に最下層の小部屋まで連れて来られたジュリアンが、周囲をキョロキョロと見回す。目的のヒヒイロカネを手に入れる為には、コアを破壊してその力の残滓を取り込む必要があると聞いていたからだ。

 

「あの扉の奥じゃない?」


 同じく一緒にやってきたソフィアが、息子よりも一足早くそれを見つけて指差す。


「おお! この先にこのダンジョンのコアが!」


 逸る気持ちを抑えようともせず、ジュリアンは扉に駆け寄った。そして、全く警戒する事もなく扉を開けると、中へ入る。

 その際、「待ちなさい!」とソフィアから警告の声が上がったが、それは一瞬だけ遅かった。

 次の瞬間には扉は消えていて、周囲の景色も変わっていたのだ。その上、真っ先に扉を開けたジュリアンの目の前には単眼の巨人がいて、右手に持っていた金棒を叩きつけようとしていたのである。


「危ない!」


 突然の事に硬直しているジュリアンを救おうと、咄嗟にソフィアが魔法を発動する。急な事と、いつの間にか距離が離れていたので、防御魔法ではなく使い慣れた【レーヴァテイン】で金棒を狙うと、見事に金棒の先端は溶けた。そのお陰で潰されるところだったジュリアンは助かったが、金棒を振り下ろした巨人の膂力は凄まじく、ジュリアンは金棒の残骸によって生成された、地面だったものに吹き飛ばされた。


「ガアアアアアアアアア!」


 獲物を仕留め損なった事に腹を立てたのか、単眼の巨人が邪魔をしたソフィアに向かって金棒の残骸を投げつける。


「ッ!」


 ソフィアは予想以上の速度で飛来するそれを防ごうと、再び【レーヴァテイン】で迎撃するが、直ぐにそれは失敗だと悟る。巨人は残骸を投擲したと同時に、ソフィアへと向かって走り出していたからだ。

 瞬時に違う魔法を発動する事が出来ないソフィアには、一瞬で目の前へと迫ってきた巨人への対抗手段がなかったのである。


「母上!」


 いつの間にか新たに手に持っていた金棒を、今度はソフィアへと振り下ろす巨人。それを間一髪で救いだしたのは、先程吹き飛ばされたジュリアンだった。

 彼は咄嗟に張った障壁でダメージを最小限に抑えた後、【フィジカルエンチャント】を使用し、即座にソフィアの元へ駆けつけたのである。

 

「ありがとう。助かったわ」

「いえ。元はと言えば、私のせいですから」


 やらかした自覚のあるジュリアンが、ばつの悪そうな顔で応える。カズキから最下層のボスを倒さないとコアが現れない事を聞いていた上に、レヴィアタンがいきなり殺しにかかってきた事を聞いていたからだ。


「問題は、どうやってあのサイクロプス? を倒すかよね」

「【アイギス】が使えれば、あの攻撃も問題なく防げるのですが、私達にはまだ使えませんしね」


 巨人の攻撃力を身を以て知った二人は、自分達の使える防御魔法では、金棒の一撃を防げない事を確認している。ジュリアンがわざわざ【フィジカルエンチャント】を使ったのはその為だ。


「カズキがあのボスを見た上で、私達をここに連れてきたのだから、倒せない相手ではないという事なのでしょうけど・・・・・・」


 何度か神話級の魔法を使って攻撃した後、二人は『次元倉庫』へと引っ込み、単眼の巨人の倒し方を模索し始めた。

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