第199話 カズキ、異世界で親戚と再会する?
「よぉカズキ。今日も最底辺の仕事探しかぁ? ジョブ無しの無能は大変だなぁ」
その日、カズキが冒険者ギルドの掲示板で
「態々そんな奴に絡むな、ケンジ。そいつはこの世界で生きていくしかないんだ。何しろジョブ無しだからな」
「そうよ。日本に帰る為には、何処かのダンジョンの最奥にある転移門をくぐる必要があると、ギルドマスターが言っていたでしょう? 戦う力もないジョブ無しになんて、構っている暇はないわ」
「エミの言う通りよ。それに、私達だって余裕がある訳じゃない。お金を稼がないと、トイレもお風呂もない宿に泊まる羽目になるわ。私はそんなの御免よ」
暇がないとか、絡むなと言いながら、カズキを取り囲んで勝手な事を口にする四人の少年少女。
そんな雑音など最初から聞こえていないカズキは、四人の包囲をするりと通り抜けて、カウンターへ向かった。
「あらカズキさん。今日も残り物の依頼を受けてくれるのですか?」
「ええ」
ギルドの美人受付嬢が、カズキの姿を認めて親し気に声を掛ける。
「最近は新人がこういう依頼を受けてくれないので助かります。みんな常設依頼のウルフやゴブリン退治しか目に入っていないので、薬草が不足気味なんですよ。こういう仕事をキッチリ熟してこそ、信用が得られるというのに」
「ああ。『日本に帰り隊』とかいうパーティが派手に稼いでる影響で、他の新人が真似してるとか聞いたような・・・・・・? 」
「ジョブが特殊だったので、一足飛びにブロンズランクまで駆け上がりましたからね。というか、お知り合いの筈ですよね?」
「いえ。顔も名前も知りません」
「えっ?」
カズキの返答に絶句する受付嬢。たった今絡まれていた上に、彼らを保護した王宮から、五人は血縁関係にあると聞かされていたからだ。
「(血縁関係と言っても、物凄く遠いという事もあるから、カズキさんだけが知らないという可能性もあるのかしら? もしかしてカズキさんだけ上級貴族の本家出身で、あの四人は分家の分家とか? それがこの世界に来て力関係が逆転して、四人が増長し始めた? 確かにカズキさんはどことなく気品というか、余裕があるけど・・・・・・)」
カズキの言葉を真に受けて、妄想を逞しくする受付嬢。だが、実情は全く違う。
ケンジを筆頭とした四人は確かにカズキの親戚だし、面識も確かにある。ただ、カズキがそれを覚えていないだけだった。
フローネによってランスリードへ召喚される前、幼い頃に両親を事故で失ったカズキは、遠い親戚の家をたらい回しにされていた。そして、その親戚の家にいた子供が、ケンジ達四人。彼らは同い年であるカズキにあらゆる面で敵わなかったのが癪に障り、裏で陰湿な嫌がらせをしていたのだ。まあ、カズキには全てスルーされたのだが。
「リリーさん?」
物思いに耽っていた受付嬢が、カズキの声に我に返る。
「っと。失礼しました。では、こちらの依頼を全て受けるという事でよろしいですか?」
「はい」
「・・・・・・受領しました。では、お気をつけて」
頭を下げたリリーが、適当な返事を返したカズキがギルドを出て行くのを見送る。すると、途端にギルドの中は静けさを取り戻した。
「彼らがこの世界に流れ着いてから一ヵ月か・・・・・・。王宮に呼び出された時は何事かと思ったけど。まさか生きてる内に、
何故異世界から彼らが来るのかは全く分かっていない。だが、彼らが現れる前後に世界的な異変が起きる事から、『
その根拠となっているのが、彼ら
必ず血縁関係にある人間が複数人で現れるのも特徴で、しかも毎回、必ずと言っていい程バランスの取れたパーティ構成になっているのも、この説を後押ししていた。
「この話をジョブ確定前にされたのはマズかったわね。
これは昔、とある国家の欲深な王が、
その国は洗脳した
その後、異常繁殖していたモンスターを駆逐していったのだが、その時に活躍したのが、洗脳の解けた
その功績で発言権を増した冒険者ギルドが、以後、
「あの馬鹿男爵のせいでケンジさん達が増長したのよ。そのせいでジョブのなかったカズキさんは自分の世界に帰る術を失おうとしているのに・・・・・・。もう処刑されたけど」
リリーは王宮での、国王の青褪めた顔を思い出した。魔物の森が国土の半分を占めるこの国で、冒険者ギルドの不興を買うという事がどういう事なのか、国王は良く知っているからだ。
「救いなのは、カズキさんが今の状況を苦にしていない事かしら? なんていうか、自分の世界に帰りたいという意思を感じないのよね。毎日楽しそうだし。元の世界で嫌な目にでも合ってたのかしら?」
暇なのを良い事に、再びカズキが元いた世界での事を妄想し始めるリリー。
カズキが二度の異世界転移を経験している事や、最初の世界で大賢者と呼ばれている事。そして、カズキが自由にそれらの世界を行き来している事は、神ならぬ彼女には想像もつかない出来事なのだった。
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