第170話 ミノタウロスとの戦い 

 フローネ達が森林エリアを選択し、探索を始めたのとほぼ同時刻、ラクト達は迷宮エリアに足を踏み入れていた。

 彼らにあった選択肢は、迷宮、火山、雪原、墓地。

 火山と雪原はその難易度から、突破できればゴールが近いという予測が成り立つが危険。

 墓地は神官がいれば突破するのは容易いかもしれないが、生憎いないので却下となり、最終的に迷宮を選ぶことになったのだが・・・・・・。

 

「タゴサク! 足元気をつけて! 落とし穴がある!」


「ラクト! 天井に気をつけろ! スライムがいるぞ!」


「二人共オラの後ろに! 喰らえ! 【メガスラッシュ】!」


 数々の罠を回避、或いは強引に突破し、偶に現れる魔物を倒し、迷いに迷いまくった挙句、最奥と思われる場所に辿り着いた時には丸一日が経過していた。


「牛の頭をした、でっけえ斧を持った巨人が三匹。その奥に階段があるだ。多分ここで最後だべ」


 疲労から床にへたり込んだラクトとコエンとは違い、丸一日寝ていなくても元気なタゴサクが、三人の目の前に聳える豪華な扉をそっと押し開け、隙間から見えた光景を口にした。


「Bランクのミノタウロスが三匹か・・・・・・? 全く、容赦のない事だ」


 荒い息を何とか整えようとしながらそう言ったのはコエン。三人の中で唯一水属性の魔法を使える彼は、魔力の消費を抑えていたのでラクトよりも余裕があった。


「ミノタウロスけ? それって強いんだべか?」

「ああ。持っている斧の破壊力は言うに及ばず、その鋼のような肉体は生半な攻撃では傷もつかない。魔法には比較的弱いが、今の疲れ切った状態で戦うには厳しい相手だな」

「だべか。なら、今日はここまでにして、休んでからの方が良さそうだべ」


 コエンとタゴサクがそんな話をしていると、床に大の字になっていたラクトが、よろよろと立ち上がった。


「・・・はぁ、・・・はぁ、・・・はぁ。・・・・・・どうやら、そうも言ってられないみたい」

「「?」」


 コエンとタゴサクの訝し気な視線を受けたラクトは、来た道を振り返って指さした。


「・・・・・・あっちからナニカが向かってきてると思う。気のせいだと思ってたけど、振動が段々と大きくなってきたから」

「念の為に聞くが、扉の向こうからではないんだな?」

「うん。それは間違いないよ。耳を澄ませば何かが転がる音が・・・・・・って、えええええ!」


 ラクトの感覚は正しかった。通路の先から姿を現したのは、道幅一杯の大きさの鉄球。それが物凄い勢いで三人を圧し潰そうと迫ってきていたのだ。

 

「ど、ど、ど、どうしよう!」

「落ち着けラクト! 中に逃げ込む以外に選択肢はないだろ! タゴサクッ!」

「おう!」


 パニクっているラクトを怒鳴りつけたコエンは、タゴサクに扉を開けるよう促した。

 実は三人の中で一番落ち着いていたタゴサクは、言われるまでもなく扉を開き、混乱しているラクトの襟首を掴んで強引に扉の中へと引きずり込む。


「避けろ!」


 次第に勢いを増し、壁や床を破砕しながら迫りくる鉄球を見たコエンは、扉を閉めても持ち堪えられないだろうと判断したのか、咄嗟に左右にばらけるよう指示を出し、自身は部屋に入ると同時に動き出したミノタウロスに向けて【ファイア・アロー】を発動する。


「【ギガ〇イン】!」


 コエンと同様にタゴサクも動いていた。

 ラクトを引きずったままコエンと反対の方向へと身を躱したタゴサクは、コエンよりも一瞬早く【ギガ〇イン】を発動する。

 それが功を奏し、魔法の雷を落とされたミノタウロスが一瞬動きを止めたところに、コエンの【ファイア・アロー】が炸裂した。

 雷で痺れ、炎の矢に襲われたミノタウロスの不幸はまだ終わっていない。 

 そう、三人(実際には二人)がとっさの判断で回避した鉄球が、コエンとタゴサクの予想通り、扉を破壊しながら部屋へ突入してきたのだ。

 鉄球は痺れているミノタウロス二匹を跳ね飛ばし、運悪く正面にいたミノタウロス目掛け、勢いよく激突した。


「ブモオオオオオオオオオオ!」


 咆哮をあげ、咄嗟斧を手放し鉄球を受け止めるミノタウロス。勢いに押されて数メートル後退したが、何とか鉄球を抑え込んだと思った次の瞬間、


「【ギガス〇ッシュ】!」


 電光石火の早業で接近したタゴサクが、見事にその首を切り落とした。


「次!」


 タゴサクはそこで動きを止めなかった。勢いのまま近くにいたミノタウロスへと接近し、再び【ギガス〇ッシュ】を放つ。だが、


「モオオオオオ!」


 既に体制を立て直していたミノタウロスが持つ斧に受け止められてしまい、反撃を受けてしまう。


「くっ!」


 唸りを上げて振るわれる斧を、危ういところで躱すタゴサク。


「ブオオオオオオ!」


 そこへ、仲間を殺された怒りからか、もう一匹のミノタウロスまでもが合流し、タゴサクは防戦一方となってしまう。

 

「それは悪手だべ」


 そんな状態にも関わらず、タゴサクは笑っていた。

 扉を開けてミノタウロスの姿を確認した時から、一人で三匹を足止めする方法を考えていたタゴサクにとって、今の状況は大歓迎だったからだ。


「ごめん、待たせた」

「すまない。準備は完了だ」

「わかっただ。【キロデイン】!」


 ラクトとコエンの言葉に準備が完了した事を知ったタゴサクは、残りのMP(魔力)を使って再びミノタウロスの足止めをし、即座に後退した。


「打ち貫け! 【ブリューナク】!」

「凍てつかせろ! 【コキュートス】!」


 同時に放たれる、ラクトとコエンの(疑似)神話級魔法。

 それらは狙い過たずそれぞれの標的に直撃し、二匹のミノタウロスの命を奪い去った。

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