第149話 うっかり者な二人
「ちっ、キマイラか」
『門』から現れたキマイラを一刀両断したクリスが舌打ちをする。船の周りに無数の『門』が出現した時、クリスはある事を期待していたからだ。
「シーサーペント! ヒュドラ! ゴブリン! 何で喰えないのばっかり出てくるんだ!」
そう、クリスは食用になる魔物が出現する事を願っていたのだ。
「んな事言ってる場合か!」
出現する魔物を見てから倒せるクリスと違って、余裕のないアーネストは手当たり次第にマジックアイテムのボタンをポチっていた。
【ラグナロク】で『門』も一緒に消去しているのだが、『門』は消した傍から現れる。その上、『門』の出現するスピードが時間が経つごとに増していくため、いつしかアーネストは無言になっていく。
悲劇はそんな時、唐突に起こった。
「っ! っ!」
「ちょっ! 今っ! 今ワイバーンが!」
「・・・・・・っ!」
「ああっ! 今度はロック鳥! おい兄貴!」
忙しなく手を動かしつつ、アーネスト(が担当している『門』)の様子を窺っていたクリスが非難の声を上げる。
自分が担当している『門』からは喰えない魔物しか現れないのに、アーネストの方には
「くそっ!」
ならばとアーネストの方へ向かおうとするが、手当たり次第に放たれる魔法が危険なので、近寄る事も出来ない。
いや、より正確に言えば、マジックアイテム化した事で威力が落ちている神話級ならば問題ない(クリス以外には無理)のだが、その中で一際異彩を放つ、カズキオリジナルの【ラグナロク】だけはどうにもならなかった。
「・・・・・・相変わらず、派手にやってるなぁ」
「ニャー」
血の涙を流しながら現れた魔物と『門』を纏めて消滅させているクリスの耳に、のんびりとした声と猫の鳴き声が聞こえたのはその時だった。
同時に、『真・アーネスト号EX』の周囲に溢れていた魔物と、『門』が全て消え失せる。
「「カズキ!」」
一時的に魔物の襲撃が収まった事で余裕が出来たアーネストもカズキに気付いたのか、クリスと同時に少年の名を呼んだ。
「助かったぜ! もう少しで頭がパンクするところだったんだ!」
「そんなに厳しかったか? 【アイギス】を使ってれば、そこまで苦戦するような相手でもないと思うんだが・・・・・・」
「「あっ」」
言われて初めて気付いたという顔をするアーネスト。
自分でカズキに注文したのだが、今まで一度も使わなかったので、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。
クリスも同じ顔をしているのは、カズキと二年近く一緒に旅をしていた時、幾度となく見た魔法だった上に、『真・アーネスト号EX』に【アイギス】が搭載されている事を、アーネスト同様、すっかり忘れていたからである。
「やっちまった。折角のチャンスだったのに・・・・・・」
「? なあアーネスト。クリスの奴はどうしたんだ?」
その場で蹲ってのの字を書き始めたクリスを見て、カズキが怪訝な表情をする。
「わからん。が、直前で肉を食いたいとか叫んでいたから、それが関係してるのかもな」
「そういえば、『門』から現れていたのは喰えない魔物ばかりだったな。成程、それでか」
正確には、アーネストがそれらを無差別に消滅させてしまったのだが、余裕のなかったアーネストと、この場に来たばかりのカズキにはその事はわからなかった。
「まあクリスは放っておくとして、カズキが来たのはやっぱり『リントヴルム』絡みか?」
「ああ。正確には『リントヴルム』の居場所を知っているであろう、『ラウムドラゴン』の目覚めか近いっていうのが正しいんだけど。ロイスやアレンの話だと、ラウムドラゴンが休眠から目覚める間際には、他のドラゴンがブレスを吐くのとは違って、一か所に集中して『門』を開けるんだと」
「そいつは傍迷惑な話だな。下手したら世界が滅ぶぞ」
「全くだ。まあ昔はドラゴンがいっぱいいたから、それ程問題にならなかったらしいが。・・・・・・おっと、また始まったか」
再び出現し始めた『門』を見てカズキが呟くと、アーネストはウンザリした表情になった。
「またか。最初に『門』が出現してから、かれこれ五時間くらいは経ってるぞ」
「もうそんなに経ってたのか。ナンシーが外の空気を吸いたいと言ってなかったら、未だに気付かないままだったな」
「時間的にランスリードは真夜中か。そんな時間まで【次元ハウス+ニャン】に籠って何やってたんだ?」
「ファイアドラゴンを生け捕りにしたから、試食会という名の宴会をしてた」
「宴会! 俺の肉は!?」
のの字を書いていたクリスが、『宴会』という単語に反応してカズキに詰め寄る。
「ある訳ねーだろ。宴会を抜け出してきたんだから」
「ショボーン(´・ω・`)」
そして、周囲に現れる『門』を無視して、再びのの字を書く生活に戻った。
その後、何とか持ち直したクリスは虎視眈々と高級食材を狙ったが、その全てをカズキにインターセプトされて、『高級食材で借金を返済しよう』という杜撰な計画は失敗に終わったのだった。
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