第147話 上手くいかない事もある

『・・・・・・馬鹿め。何のつもりなのか知らんが、わざわざ傷を癒やしおったわ。確かに奴は強いが、五体満足ならば、逃げるだけなら可能だという事に気付いていないらしい』


 痛みに呻いていたフレイは、突然軽くなった体に、自身の体が元の十全な状態に戻った事を知った。


『『リントヴルム』が復活すれば、奴も否応なく戦いに巻き込まれる。ロイスやエリア、エクレールも戦うであろう。放っておけば、世界が滅びるからな。あの時は失敗したが、『リントヴルム』によってダメージを負った奴らを隙を見て喰う事が出来れば、俺様だけで『リントヴルム』を倒す事も可能なはずだ。そして、『リントヴルム』をも喰らってギャアアアアアアア!』


 そして、カズキに再び尻尾を切断されて悲鳴を上げる。散々痛めつけられたのにも関わらず、フレイはまだカズキを過小評価していた。


「カズキさん! さっきと微妙に味が変わってます!」

「ミャー♪」

「どれどれ? へぇ、本当だ。こうなると、他の部位も試したくなるな」


 悲鳴を上げるフレイを一切顧みる事無く、カズキは淡々と剣を振るう。そして、味見が終わるとフローネが再び【リペア】を使い、それをまたカズキが切断した。

 それでも最初の数回は隙を見て逃げ出そうとフレイは頑張った。

 だが、回を重ねる毎に動きは鈍くなり、最終的に『悲鳴が五月蝿い』という、実に身勝手な理由でカズキの魔法で眠らされ、意識を失ったまま【次元ハウス+ニャン】の中にある食材保管庫に移される。

 同族を喰らって生きてきたファイアドラゴンは、皮肉にも誰かの食料になるという結末を迎えたのだった。

 



「「「「「魔力が回復する!? 凄い発見じゃない(か・ですか)!」」」」」


 カズキの魔法で昏睡状態のフレイを【次元ハウス+ニャン】の養殖場に移したカズキは、ジュリアン達と合流し、ランスリードへ帰還した。

 そこで、フレイとの戦い(一方的な蹂躙とも言う)の一部始終と、生肉の効果に言及すると、魔法を使えないエスト以外が歓喜の声を上げる。

 魔力切れで昏倒する前に生肉を食べる事が出来れば、魔力の消費を気にする必要がなくなり、理論上は無限に魔法を使う事が出来るようになるからだ。

 

「まぁそうなんだが、一つ問題があってな・・・・・・」

「問題? ワイバーンのように、一個体につき一口目だけしか効果がないとか?」


 異世界産ワイバーンの生肉は、不確定ながら、口にすると魔力が僅かに上がるという性質を持っている。ラクトはその事を言っているのだ。


「それはない。フローネが散々試したからな」

「そうなんだ! ・・・・・・アレ? じゃあ問題ってなに?」

「ドラゴンの肉は保存が効かない。切り離してから十分経つと、冷凍してあっても跡形もなく消え失せる。ついでに言うと、リバウンドで魔力が増える事もない」

 

 カズキの言葉に、フローネ以外の魔法使い達から溜息が漏れる。

 『リバウンドで魔力増やしたい放題』という夢が、一瞬にして潰えたからだ。

 

「そうそう美味しい話がある筈もないか。魔力が回復するという効果だけでも破格なのだし」

「現状ではカズキの傍にいないと、その恩恵には与れないけどね。まあ今は魔力も枯渇気味だし、カズキもいるから丁度良いわ。早速、その恩恵に与らせてもらいましょう?」


 気を取り直したジュリアンが未練を断ち切る為に言うと、エルザもそれに頷く。

 街全体に回復魔法を使い、その後は重傷者の治療をしていたエルザは言うに及ばず、その他の面々も人々の救出などで魔力が心許ない状態だったので、誰もがエルザの言葉に賛成した。




 養殖場へと移動する一行の耳に、金属を打ち合わせるような、キィン! ガキン! という音が断続的に聞こえてくる。

 その音は、山のような巨体を持つファイアドラゴンの足元から響いていた。

 音を鳴らしているのは両手に鋭利な包丁を持った男で、その名をアルフレッドという。継承権を放棄しているが、現国王セバスチャンの弟で、れっきとした王族である。

 若い頃はあちこち旅して料理の腕を磨き、現在はランスリードの王城で料理長を務めているのだが、最近はそれもほったらかして、カズキが魔法で創り出した養殖場に入り浸っていた。

 自分では調達できない食材が、ここには溢れているから、というのがその理由だ。


「カズキ! 固すぎて刃が通らねえじゃねえか!」


 そんなアルフレッドが、カズキの姿を認めて包丁を振るう手を止め、怒鳴り声を上げる。

 料理人として、自らの手で食材を解体できないのが悔しかったらしい。


「そんなに固かったですか?」

「魔力を込めて、全力で振ってるのに傷一つ付かねえ! ・・・・・・悔しいが、頼む」

「わかりました」


 血の涙を流すアルフレッドに頼まれ、カズキが愛用の剣を振るう。

 何の抵抗もなくドラゴンの体を剣が通り抜けると、見事に前脚が切断された。

 

「ほう、これがドラゴンの刺身か」

「美味い!」

「美味しいです!」

「おお! 本当に魔力が回復した!」

「これはいいわね。持ち歩きたい位だわ」


 生肉を食べ、魔力が回復した面々は、ついでとばかりに焼肉を始める。

 そこへ、匂いに釣られたセバスチャン達も合流し、その日は宴会になった。

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