第139話 アイスドラゴンとの邂逅

「お、どうやら目覚めたみたいだ」


 アイスドラゴンの覚醒にいち早く気付いたのは、当然の様にカズキだった。


「ミャー」

「ニ゛ャー」

「あら、本当ね」

「フニャ? ・・・・・・(ガツガツモグモグ)」


 次に気付いたのは、ナンシーとアレンとエルザ、そしてクレアである。

 

「全然わかんねー」

「「私もです」」

「僕も」

「「私もだ」」


 そして、声を揃えてわからないと言ったのは、カリムと、カズキと学院でパーティを組んでいるメンバーだった。

 本来この場所にいる筈がない彼らがいるのは、カズキがドラゴンがいつ目覚めるかわからない為、暫くは戻れないと彼らに事情を説明しに行ったところ、逆に彼らの好奇心を煽ってしまった結果である。


「カズキ、ドラゴンのいる正確な場所はわかる?」

「ああ。微睡んでいる時はわからなかったけど、今ならわかる。山の内部に広大な空間があって、そこが棲み処のようだ」

「私たちが全員で行っても平気そう?」

「広さの点で言えば問題はないかな。話が通じるかどうかは行ってみないとわからない。まあ、最悪戦う事になっても、問題はないけど」

「・・・・・・ドラゴンって、神に等しい力を持つって話じゃなかったっけ!?」


 カズキとエルザの会話を聞いて、ラクトが興奮しつつも困惑の表情を浮かべるという器用な事をしながら、傍らのコエンに話を振った。


「文献にはそう書いてあったな。だが、悪魔の王らしき存在が、カズキとクリスさんを見て神と言ったのだろう? しかも悪魔の王は、他の世界で神を倒したというような口振りだったそうじゃないか。それを歯牙にもかけないカズキからすれば、ドラゴンも取るに足らない存在なのではないか?」

「それもそっか」


 そして、コエンの話に納得して引き下がった。


「いよいよですね! 私、ドラゴンと会うのは初めてです! 話が通じるなら、色々と聞いてみたいですね!」


 他のメンバーもラクト同様興奮しているが、その中でも一際テンションが高いのがフローネだった。物書きの本能と興奮が相乗効果を齎し、エルザさえ気づかぬほどの速度で、ノートとペンを装備していた程である。

 

「ハイハイ! 気持ちはわかるけど、そろそろ行くわよ」


 それから三十分後。ドラゴンが目覚めたという情報だけで盛り上がって、まだなにもしていない事に気付いたエルザが、手を叩いて皆の注目を集める。


「じゃあカズキ、お願い」


 そして、我関せずとばかりに猫たちと戯れていたカズキを促した。

 



 【テレポート】で移動した一行の目の前には、切り立った山肌が聳えていた。


「カズキの事だから直接ドラゴンの所に跳ぶのかと思っていたけど・・・・・・」

「この崖のどこかに、ドラゴンの巣穴への入り口があるのではないか?」

「なるほど」


 不思議そうな顔で、ラクトとコエンがキョロキョロと周囲を見回す。だが、二人は勘違いしていた。


「何を言ってるんだ? 今、二人が無遠慮にペタペタ触っているのが、そのドラゴンじゃないか」

「「えっ・・・・・・」」


 カズキの指摘に固まった二人が、ギギギと音がしそうな動作で振り向き、他のメンバーの様子を窺うと、皆、一様に苦笑していた。そう、気付いていなかったのは、ラクトとコエンだけだったのだ。


「さて、鈍感な二人は後で鍛えなおすとして・・・・・・」

「「うっ」」


 そろりそろりとムーンウォークで後退してきた二人が、エルザの言葉に『大賢者式運動不足解消トレーニング』を思い出して、顔を引き攣らせた。

 

「全然動かないな、ねーちゃん」


 姉の言いたい事を察したカリムが、エルザと並んで崖(ドラゴン)を見上げる。


「そうね。また寝てるのかしら?」


 同様に見上げていたエルザが言ったその時――。


『起きておるぞ』


 という言葉が全員の頭の中に響き、岩肌に横に亀裂が二つ走った。そして、亀裂が上下に広がっていくと、そこに現れたのは――。


「大きな目! 二人が触っていたのはドラゴンさんの瞼だったんですね!」


 フローネが言う通りの物だった。


『うむ。正直くすぐったかったのじゃが、そこな二人を驚かせるつもりもなかったからのう。離れるまで待っておったんじゃ』

「「あ、有難うございます」」

『気にしとらんから謝る必要は無いぞ? それよりも、どうしてこんな場所まで来たのじゃ? 殺気が無い事から、名声欲しさに儂に挑みに来た訳でもなさそうじゃが』

「実は・・・・・・」


 ドラゴンが穏やかな性格をしていると理解したエルザが、ここに来た経緯を説明する。


『それは申し訳ない事をしたのう。なるべく人が近寄らないような場所を選んだつもりだったんじゃが・・・・・・』

「それっていつの事ですか!?」

『どの位眠っていたのか、自分でもわからんじゃ。じゃが、その時儂に挑んできた人間は、無駄に長い詠唱をして魔力を浪費し、魔法の発動前に気絶したり、世界樹の実を加工した武器で挑んできたりしておったな』


 ドラゴンの謝罪をスルーして、ペンとノートを手にしたフローネが質問すると、ドラゴンは気を悪くした様子もなく答えてくれた。


「古代魔法王国時代ですね! 少なくとも、千年以上は前です!」


 カズキがコエンに話した事で、世界樹の実が魔法金属だと知っているフローネが、ドラゴンが眠っていた期間を推測すると、当事者のドラゴンは深いため息を吐く。


『千年か・・・・・・。思ったよりも永く眠っていた様じゃのう。じゃが、その甲斐はあった。お主たちなら、を倒せるかもしれん』


 そして、エルザとカズキを見て目を細めた。

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