第28話 ソフィアは古代魔法を覚えた
ワイバーン討伐記念焼肉パーティが終わった。
参加者は皆、満足気な表情でカズキ達に礼を言い、それぞれの仕事に戻っていく。
後に残されたのは、焼肉の材料となったワイバーンとカズキ達だけとなった。
「・・・・・・これ、どうやって持ち帰るのですか?」
騎士や冒険者が遠慮なく食べたにも関わらず、肉は大半が残っていた。
聞けば、所有権は全てカズキに有るらしい。
全部持ち帰れば一生遊んで暮らせる額の大金が入るが、そもそもの目的は猫たちのご飯確保のためなので、売るという選択肢は最初からない、とマイネは聞かされた。
ワイバーンは死後一日経つと急速に腐敗する。マイネは首尾よく討伐出来たら、雇った冒険者と協力してワイバーンを持ち帰り、壊滅した村の復興資金に充てようと画策していた。
その目論見は巨大化したワイバーンによりあっさりと潰され、雇った冒険者共々全滅の危機にあったが、窮地を救ってくれたのが、邪神を倒した英雄たちであった。
「氷漬けにする。一日経つと腐っちまうからな」
事も無げに答えたのは、大賢者であるカズキだった。
「これを?」
マイネには信じられなかった。全長30mのワイバーンを氷漬けにする。口で言うのは簡単だが、必要とされる魔力がどの位なのか、見当もつかなかったのだ。
「ああ。少し離れてた方が良いぞ?」
カズキの言葉に、皆が思い思いに距離を取った。
それを確認したカズキが魔法を発動すると、瞬く間にワイバーンの氷像が出来上がる。
「・・・・・・え!?」
魔法の発動を感知できなかったマイネが、驚きの声を上げる。
「今、魔法を使ったんですよね?」
傍らで食い入るようにカズキを見ていたラクトに、マイネは確認した。
「・・・・・・ワイバーンが凍っているからそうなんでしょうね。くそー! 発動が分からなかった! ねえカズキ!今のはなんて魔法なの!?」
「【コキュートス】だ」
「「【コキュートス】!」」
水系統の最上位の魔法で、神話級と呼ばれている魔法である。
何故そんな大層な呼び方をされているのかと言うと、詠唱の必要ない古代の魔法使いが、わざわざ詠唱しないと発動できなかったと古文書に残っていたからであった。
「神話級の魔法を無詠唱で使うなんて! カズキさんは古代の魔法使いよりも実力が上なんですね!」
興奮しているマイネの勘違いを、カズキは訂正した。
「実力がどうかは分からないけど、神話級と呼ばれている魔法は、完成してなかっただけだぞ?」
「そうなんですか? では、それを完成させたカズキさんは、やはり凄い方です!」
何を言っても称賛が返って来るので、カズキは何か裏があるのかと思い始めていた。
「なあラクト。先輩は何を企んでるんだと思う?」
「企む?」
「ああ。さっきからやたらと持ち上げられるから、何か裏でもあるのかと思ってな」
「それは無いんじゃない? 単に感動してるだけだと思う。僕もそうだったから」
「そうなのか?」
「うん。ていうか、先輩は普通の反応をしてるだけだよ。カズキ達の感覚がずれてるんだと思うな」
ラクトは他の面子を見回した。
聖女、剣帝、大賢者が揃っていて、エルザ程ではないが、カズキを召喚したフローネもいる。城に帰れば天才と呼ばれているジュリアンもいた。
誰も彼も規格外な連中ばかりである。一般人とは感覚がずれて当然なのかもしれない。
「そうかぁ?」
カズキは首を捻っていたが、ラクトは確信していた。
「ところで、氷漬けにしたのは良いけど、どうやって持ち帰るかはまだ聞いてないよね?」
「ああ。【次元ハウス+ニャン】の中で魔法の練習をしただろ? あそこに保管するから」
「あそこ? もしかして入口ってどこにでも作れるの?」
「もちろん。そうじゃないと家具が運び込めないだろ?」
「それもそっか」
ラクトは自分の部屋にあった家具を思い出す。
どうやって運び込んだのかと思っていたが、今の話で納得した。
「今日はもう移動しないだろうから、さっさと片付けて休むか」
カズキがそう言うと、次の瞬間には見覚えのある空間が広がっていた。
「ここは!?」
「次元ハウスの中。フローネ、先輩を案内してやってくれ」
驚きの声を上げるマイネに至極簡単な説明をすると、フローネにマイネを押し付けるカズキ。
「分かりました。マイネさん、こちらへ」
「は、はい!」
呆然としているマイネを伴って、フローネは去っていった。
「フローネさんに押し付けた・・・・・・」
その通りだったので、カズキは何も言わなかった。
「今日はこれで解散ね。お風呂に入りたいから私は部屋に戻るわ」
エルザはそう言って立ち去った。
「俺も部屋に戻る。二人はどうするんだ?」
動こうとしないクリスとラクトに、カズキが声を掛ける。
「俺はもう少し肉を食う」
「僕も」
「・・・・・・まだ食べるのか?」
カズキが呆れた顔になった。
この二人は休むことなく肉を食べ続けていたのだが、まだ満足していなかったらしい。
「好きにしてくれ。ついでに解体しといてくれるか? 城に戻ったらお裾分けするから」
「任せとけ」
クリスが即答した。その目は既にワイバーンを向いている。
「ニャーン」
そこにナンシーが現れた。カズキはナンシーを抱き上げて頬ずりをする。
「迎えに来てくれたのか? ナンシーはいい子だなぁ」
「ニャー」
「ああ、マイネに会ったのか。新しく仲間になったんだ」
「ニャー」
「撫でてもらった? そうか、悪い人じゃなさそうだな」
この時点で、マイネに対するカズキの印象が定まった。
「・・・・・・あれ、本当に会話できてるんですか?」
去っていくカズキとナンシーを見て、ラクトがクリスに聞いた。
「兄貴が言うには出来ているんじゃないかという話だ。運命の相手が動物の場合、使い魔にすれば能力が格段に違うという話は知っているだろ? そうでなくても、ある程度は精神的な繋がりがあるんじゃないかと言っていた。実際、俺達がナンシーを預けて邪神を倒した後、城に戻って来た時に町の外までカズキを出迎えに来たからな。ナンシーの様子を見て、城の人間は俺達が帰還したことを知ったそうだ」
「へえ、そうなんですね。使い魔じゃなくてもそんな事が可能なんだ。でもクレアは?」
クレアはナンシーとは違って、旅も初めての筈であった。それなのに、お行儀よくナンシーと一緒に歩いていたのだ。普通は動くものを追って、あちこち駆け回ってもよさそうな物なのに。
「分からん。俺も心配していたんだが、母とフローネがカズキといれば大丈夫と言っていたから大丈夫なんだろう。実際その通りだったしな」
「カズキだから」と言っておけば、どんな事も解決してしまうという認識が出来上がっているらしい。
「まあ、『猫』なんていう属性が付く位ですからね。案外それが関係しているのかも?」
「かもな。まあそれは良いんだ。それよりも今重要なのは、内臓が美味いかどうかだ」
「内臓? 食べられるんですか?」
「ああ。貴重な薬の材料になるとかで、前回は食えなかったからな。今回はこれだけ大きいんだ、少しくらいは良いだろう?」
「それで解体に乗り気だったんですね」
「そういう事だ」
クリスは言って、剣を抜いた。
そしてワイバーンに向かって無数の斬撃を繰り出す。
数分後、肉は見事に切り分けられ、二人の前に積みあがっていた。
「さて、これが内臓か。このままじゃ食えないから焼いてみよう」
二人が本来の入口がある部屋に行くと、そこにはフローネとマイネがいた。
「お兄様? どうしたんですか?」
「内臓を食べようと思ってな」
マイネがクリスの言葉に反応した。
「内臓を? 薬の材料になるとは聞いていますが。それが?」
「ああ。二人も食べるか? まだまだ一杯あるからな。遠慮する必要はないぞ?」
「「では、少しだけ」」
興味をひかれた二人も合流して、四人で肉を焼く。香ばしい匂いが部屋に充満し、一同の期待をこれでもかと高めた。
その場にはクレアもいたが、腹いっぱい食べたからか、見向きもしない。
「「「「いただきます」」」」
そう言って口にした途端、クレアが興味を示さなかった理由が分かった。
「「「「に、苦い・・・」」」」
慌てて水を飲む一同。この時、カズキの作ったマジックアイテム(水が出るコップ)が無かったら、外に出る事も出来ず、カズキの元に押しかけていただろう。
「・・・・・・ひどい目にあったな。口直しにこっちを食べよう」
クリスがそう言って、次元ポストから肉を取り出した。ちゃっかり確保していたらしい。
「生肉を確保してたんですか?」
「ああ。こいつで最後だ。みんなも食べるだろ?」
「「「いただきます」」」
そして再びパーティが始まる。生肉はあっという間になくなり、冷凍肉に移行するのに時間は掛からなかった。その肉も瞬く間に消費し、その度に切り分けたワイバーンを取りに行く事になる。
翌朝。カズキとエルザ(とナンシー)が顔を出すと、満足した表情で眠りこける四人(と一匹)の姿があったという。
「ただいま戻りました」
王都に戻って来たマイネは、学院に行く前に実家に顔を出した。
自分の救出依頼を出してくれた礼を言うためである。
「心配したぞ! 無茶な事をしでかして!」
開口一番そう言ったのは、マイネの父でセンスティア公爵であるアインであった。
「申し訳ありません。自分の力を過信していました」
「そうだな。世界は広いのだ。学院で優秀でも、外にはもっと強い者が大勢いる。私もかつてはお前と同じ失敗を犯したものだ。幸い命を拾う事が出来たが、今でもあの時の事は忘れておらん。今回の事は、お前にとって良い経験になった事だろう」
マイネの父は、セバスチャンやソフィアと同級生であった。昔は学院でパーティを組み、卒業後も暫く冒険者として活動していたのだ。
その為か、今でも夜な夜なセバスチャンと街に繰り出し、場末の酒場で酒を酌み交わす姿が目撃される事があった(セバスチャンはお小遣い制なので、ツケにしてもらうためにしばしば土下座をしている)。
共にAランクの冒険者でもあるので、護衛を付けなくても問題が無いのだ。
「はい。私は気絶していたので仔細は分かりませんが、カズキさんとクリスさんが倒してくださいました」
「大賢者に剣帝、それに聖女もいたのだろう? 彼らの戦いぶりが見られなかったのは残念だったな」
カズキが自分の世界に帰っていないのは、セバスチャンからの情報で知っていた(返す手段がない事も含めて)アインが言う。
「邪神クラスにまで成長していたという事です。後で話を聞いて、背筋が凍る思いをしました」
「何だと!? それを事も無げに倒したというのか!」
「はい。私が目覚めた時には焼肉パーティが開かれていました。誰も疲れた様子がなかったです」
「それ程の力を持っているとは・・・・・・。成程、彼らに手を出すなというお触れが回って来る訳だ」
「お触れ・・・・・・、ですか?」
「そうだ。彼らというより、カズキ殿の機嫌を損ねたら、何が起こるか想像も出来ないという理由でな。引き籠ってくれるならまだいいが――というかそっちの可能性が高いという話だが、万一敵に回してしまった時に、誰も止める事が出来ないらしい」
「クリスさんでもですか?」
「そうだ。当人がそう言っていたらしいから、まず間違いないだろう。最悪エルザ様と共に寝返る可能性もある」
そうなった未来を想像して、マイネは身震いした。
エルザは間違いなくカズキに味方するだろう。それは見ていて分かった。彼女はカズキを溺愛している。
クリスは分からないが、どの道勝てないのでは意味が無い。
「まあ、仮定の話だ。ソフィア様とフローネ様がいる限り、そのような事にはならないと言っていたからな。ともあれ、カズキ殿に無理強いをしなければいい話だ。個人的な付き合いで明かされた事は、誰にも話さない様に。無論、私にもだ」
「畏まりました」
クリスやエルザにも同じような事を言われたのを思い出しながら、マイネはそう返事をした。
「ところで、それは? 随分大きな箱だが」
マイネが持っている物を見て、アインが不思議そうな顔をする。
それは木箱に入っていて、冷気を発していた。
「ワイバーンの肉です。カズキさんが分けて下さいました」
「何と!? 随分気前がいいのだな」
「はい。どうせタダだし、なくなったらまた狩ればいいからと。騎士団の方たちにも持たせていたようです」
「ワイバーンをただの獣扱いか。もう訳がわからんな」
「そうですね」
「それよりもせっかくのカズキ殿のご厚意に甘えるとしよう。陛下に話を聞いて、一度は食べてみたかったのだ」
アインはそわそわと落ち着かない様子で、足早に厨房へ向かった。
王城に帰ったカズキ達は、大歓迎を受けていた。
ジュリアンによって、ワイバーンを倒した事が既に広められていたからである。
カズキは厨房に寄って肉を渡した後、真っ直ぐにソフィアの部屋に向かった。
「お帰りなさい、カズキ。またワイバーンを倒したんですって?」
「はい、運よく巨大化していたので、暫くは補充する必要もないかと」
「ありがとう、後で頂くわね。エリーも良かったわね?」
「ニャーゴ」
「久しぶりだね、エリー。会いたかったよ」
カズキはそう言ってエリーを抱き上げた。エリーは嬉しそうにカズキの頬を舐めている。
「「ただいま戻りました」」
「二人共、お帰りなさい。無事で何よりだわ。ナンシーとクレアも」
「「ニャーン」」
二匹がソフィアに甘えに行く。そこにカズキから解放されたエリーも加わった。
「ニャー?」
エリーによく似た猫が、カズキの足元にすり寄って来た。
ナンシーの姉妹であるミリアである。
「おー、ミリアも来たか。久しぶりだなー」
カズキはその場に座り込んでミリアを撫で始める。
それを皮切りに、他の猫も続々とカズキに集まって来た。
「いつ見ても凄い光景だな」
たちまち猫まみれになるカズキを見て、クリスが呟く。
「そうですね。お母さま以外でこんな光景を見られるのはカズキさんだけです」
幸せそうな表情で猫たちにされるがままになっているカズキを見ながら、フローネも答えた。
「うわぁ」
何故かついてきたラクトも、その光景を見て衝撃を受けていた。
「あら? もしかして、あなたがラクトさん?」
声を聞いたソフィアが、ラクトに声を掛けた。
「ご紹介します。学院の同級生で、私たちと友達になってくれた、ラクト・フェリンさんです」
フローネの紹介に、ラクトは姿勢を正した。
「初めまして、ソフィア様。いつも次元屋をご利用いただき、ありがとうございます」
そう言って頭を下げるラクト。抜け目なく自分の実家の事をアピールする事も忘れない。
「まあ、次元屋の? それはこちらもお世話になっています。いつもありがとうと、お父様に伝えてくれるかしら?」
「はい! 必ず!」
「そんなに緊張しなくても良いわ。この子たちが友達を連れてきたのは初めての事なの。これからも気軽に遊びにきてちょうだいね?」
「はい!」
ラクトはそう言って頭を下げた。心の中ではガッツポーズをしながら。
「帰ったか、みんな。今回はご苦労だったな」
そこにジュリアンが現れた。
「兄貴? 学院はいいのか?」
「学院長と言っても仕事は殆ど無いからな。今日はこっちにいたんだ。そうしたらミリアが急に駆け出したから、きっとカズキが帰って来たのだろうと思って戻って来たが、案の定だったな」
「カズキは猫限定のフェロモンでも出しているのでしょうか?」
ラクトが冗談交じりにそう言うと、ジュリアンも苦笑交じりに頷いた。
「可能性はあるな。或いはそれが『猫』という属性を持っている証拠かもしれんが」
「あら? カズキも『猫』の属性持ちなの? 私と一緒ね」
そこにソフィアが爆弾を投下した。
「「「「え!?」」」」
カズキとソフィア以外の声が綺麗に揃った。
「やっぱりソフィア様も俺と同じだったか。なんとなくそんな気はしてたんだよなー」
そこに聞こえる、カズキの呑気な声。
「母上、『猫』という属性の魔法は使えますか?」
ジュリアンの師はソフィアである。にも関わらず、今まで聞いた事がなかったのは魔法が存在しないからではないかと推測した。
案の定、ソフィアは首を横に振った。
「使えないわ。そもそも学院の水晶しか『猫』って出てこなかったの。だから今まで忘れていたわ」
「そうですか。カズキは作ってしまったのです。『猫』魔法を」
「それってマジックアイテムにしてくれた奴? どうもカズキが使うより少しだけ効果が弱い気がするのだけど・・・・・・」
「それは恐らく汎用性の犠牲になっているのでしょう。マジックアイテムは誰にでも使える分、効果は少し劣るようなので」
「そういう事なのね。それなら私も猫魔法を覚えたいのだけど、どうかしら? やっぱり自分で魔法を使ってあげたいじゃない?」
ソフィアに言われて、ジュリアンは考え込んだ。
ソフィアの魔力は、マイネとジュリアンの中間位のレベルにある。魔法使いなら誰もが羨む魔力量である。
古代魔法の習得に必要な魔力を調べる意味でも、やって損はないという結論に達したジュリアンは、カズキにお伺いを立てた。
「カズキ、どう思う?」
「ソフィア様が望むならやる。それが俺の正義だ」
「そうか」
古代魔法が駄目でも、新しい魔法を創りそうな勢いであった。
ともあれ、カズキの同意を得たので、次元ポストからカズキの創った水晶を取り出した。
「これに触れてみてください。魔力が基準に達していれば、古代魔法を覚えられる筈です」
差し出された水晶にソフィアが触れると、目を閉じた。
そのまま暫く動かないでいたソフィアは、不意に顔を上げて、おもむろにかつお節と皿を取り出す。
一同の見守る中かつお節が削られていき、猫が集まってきた。
「・・・・・・これが古代魔法なのね。なんだか不思議だわ。それに神話級の魔法もそんなに難しくないのね。古文書に書いてあった事は、嘘だったのかしら?」
その言葉でソフィアが古代魔法の習得に成功したことが分かった。ついでに猫魔法を使える事も。
「それは違います。神話級はカズキが完成させたので」
「まあ! カズキは凄いのね!」
そう言ってカズキの頭を撫でるソフィア。マイネの時とは違い、カズキも素直に受け入れた。
「ふむ。どうやら母上レベルの魔力の持ち主から古代魔法は覚えられるようだな。とはいえ、そうそういないだろうが・・・・・・」
「そうなんですか?」
「うむ。母上レベルの魔力を持つのは、エルザとフローネしか私は知らない。だがこの二人には才能が無いからな。可能性があるとしたら、マイネかラクト君位だろう」
「本当ですか!」
「ああ。何故か知らんが、魔力が急激に増えているな。この調子で行けば、30年後位には使えるようになるかもしれん」
膨らんだ期待が急速に萎んで、ラクトは膝を付いた。その様を楽しそうに眺めるジュリアン。相変わらずの人の悪さであった。
「冗談だ。それはともかく、何があったか教えてくれないか? 何故君たちの魔力が上がっているのか」
ラクトはワイバーンの生肉を食べた話をした。
「そんな事があったのか。それは惜しい事をしたな。だがその情報は貴重だ。センスティア公爵と相談して、調べる事にしよう」
「話は終わった?」
「はい」
ソフィアの問いに、ジュリアンが頷く。
「なら学院での話を聞かせて? ラクト君も今日は泊まって行きなさい。部屋を用意するから。それとも【次元ハウス+ニャン】の方が良いかしら」
「その事で聞きたかったのですが、母上はその魔法は覚えられましたか?」
「私では無理ね。他の猫魔法は覚えられたようだけど」
「そうですか・・・・・・。やはり、カズキでないと使えない魔法がまだまだありそうです」
「それは仕方無いわ。根本的な魔力量が違うのだもの。私ではあの子の上限が分からないの。あなたはどう?」
「私もです。古代魔法を覚えて、ようやくカズキの凄さが分かりました。彼は遥か高みにいる」
「そうね。でも目指すんでしょ?」
「勿論。もしかしたら協力をお願いするかもしれませんが」
「構わないわよ。私もこの年で古代魔法を覚えてワクワクしているから」
物騒な会話をしている親子をよそに、ラクトはそっとその場を離れた。
「あーあ。母さんも古代魔法を覚えちまったか。カズキといると、ホント退屈しないぜ」
「そうですね。私も毎日が楽しいです。ここにいては経験出来ない事ばかりですから」
クリスとフローネもそんな会話をしていた。
「やっぱりここはおかしい。規格外しかいないじゃないか・・・」
やはり自分は正しかった。ラクトは改めてそう思ったのだった。
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