第4話 魔法とは

「ここが資料室や」

 ガーリーさんに連れられて二人で資料室に入る。

 ちなみにガーリーさんの受付に並んでいた人達は解散させられたらしい。なんだか申し訳ないことをしてしまったような気もする。

 部屋は決して広くはない。細長く、六畳もない程度だ。学校のなんとか準備室程度の部屋の片側に本棚が並べられ、そのうちの二つほどに図書館でみた図鑑のような分厚い本が幾つも入っていた。

 また他の本棚には単に紙を束ねただけのものがびっしりと本棚にささっていた。こちらは資料とは違うのだろうか。

 そして奥と、本棚の向かい側に机と椅子がそれぞれ一つずつ置かれていた。

 ガーリーさんは先に室内へと入り、私をちょいちょいと手で呼ぶ。

「魔法についてやったな。せやったらこの辺かな」

 ガーリーさんに案内されて、本棚の前に立つ。

 分厚い本を一冊手に取り、机に置いて開いてみる。

 案の定こちらの言語であったが、ぱらぱらとめくっても全てが日本語で脳内変換されていった。本当にこれは便利なスキルだ。


≪スキル【言語理解】のレベルが4になりました≫


 この程度でぽんぽん上がるのもありがたい。

 さてさて、大事なところはどこかなーっと。

 目次も特に見当たらないので仕方無く最初から読むことにする。

「じゃ私はあそこにおるから、好きに読みぃな」

 ガーリーさんは扉のすぐ横にある椅子を指差す。

「はい、ありがとうございます」

「ええなぁ。エリィちゃんみたいな別嬪さんならいつでも大歓迎やで。アッチの方も」

「はぁ……」

 ガーリーさんは腰を前後にリズミカルに揺らす。えっそれどゆこと?まさかそゆこと?

 何この人やっぱり私に対してそゆこと考えちゃったりしちゃってるの!?

 ……何も気付かないふりをして適当に返す。でもガーリーさんも元気っ娘で割と可愛いと思うのでまあアリといえばアリか。

 いやいや年齢というか見た目的にはかなりアウトだと思うのだが。やっぱり彼女は成人しているのだろうか。良く分からない。

 しかし女性同士ってこの世界では大丈夫なのだろうか。向こうだと宗教的にアウトだったりしたと思うのだけれど。

 まあその時はその時だ。魔法もそうだけどこの世界での常識や慣習などの知識も得ていかないといけない。

 そんなことを思いながら私は魔法に関する本へと目を落とす。

「なになに……」


 本にはこう書かれていた。

『魔法の力とは頭の中にある想像の力である。そして生命の息吹の根源を成す力こそが、森羅万象の理を曲げることが可能となるのである』

 なるほど。

『生命の息吹の根源とは、つまるところ交尾である』

 えっちょっと待って。なんか凄い単語が出てきましたよ。

 私は目をゴシゴシとこすり、再度同じ箇所に目を通してみる。

『生命の息吹の根源とは、つまるところ交尾である』

 ……間違っていなかった。間違っていたのはこちらの常識か。この本か。それとも私の常識なのか。

 おそるおそるその先を読んでみることにする。

『交尾に至るまでの性的な妄想、そしてそれらにまつわる体内循環の力こそが、魔力の元となるのである』

 私の脳が理解をすることを拒否しようとしたが、恐らくこういうことなのではないかと。

 ……つまり……もしかしてもしかすると、エッチな妄想をすると魔法が使えるってこと?

 ……ホントに? ……ホントに!?

「すみません……これ本当ですか?」

 私は椅子に座ってまったりとしていたガーリーさんに確認する。

「私は魔法を使えんから私に聞かれても困るっちゅーねん。少なくともここにある本はみんなちゃんとした本やで」

「そう……ですか……」

 私は再び本に目を落とし、読み進めていく。

『目を閉じ、自らの交尾の様子を頭に浮かべる。するとはらの奥、へその奥に力が溜まっていく。それこそが魔力の源である』

 流石の私も頭が痛くなってきた。魔法の本を読んでいるはずなのに気持ちいいことに目覚めちゃった男子中学生みたいなことが書いてある。てか魔法の練習したいけどこれどこですればいいのか分からない。少なくともここではやめておこう。ガーリーさんに見られながらはちょっと……。

『その溜まった力を解放するように解き放つ際に必要なのが、どのような魔法を発動させるかという想像力と、その想像力に繋がる呪文である。呪文とは結果を常に確定させる為に、想像力を補うものである為、特定の詠唱の文言は存在しないが、師から弟子へと連綿に受け継がれているものもある為、無闇に公開すべきではない』

 なるほど。いちいち妄想とか想像しなくてもいいようにショートカットキーみたいなものが呪文、詠唱ってことか。でもこの書き方だと、しっかりと想像出来るなら呪文を詠唱しなくても大丈夫、ともとれるな。この辺は実際に試してみる必要があるかも。

 あとこの本の著者さんは割と秘密主義者なのだろうか。魔法の発展の為にはそういうのって公開していった方がいい気もするんだけど。

『なお、不特定多数の相手に見られて興奮する諸兄においては、この限りではない』

 前言撤回。なんだこの本。露出狂はもっと見せてけなんて書くなよ……

 とりあえず魔法の根っこは分かった。そのあとももう少しぱらぱらめくったけど大半が自身の自慢話と弟子の不甲斐なさで締めくくられていた。すげーなこの人。強いモンスターが出てきて魔法の威力を上げたいからっていきなり脱ぎ出さなくても……おまけに全裸になったら威力がかなり上がるのでオススメ!とか書いてて眩暈がしてきた。

 本を閉じて自分の格好を見つめる。

 自身の腰から下を確認することの出来ないサイズのおっぱい。正直、そこまで大きくしたつもりは無かったけれども、やはり私も一人の男だったというべきだろう。

 そしてスレンダー気味の体格にすらりと伸びた足。心許こころもとないミニスカートに、えっちなガーターベルトと吊り下げられたシルク風のタイツ。元おじさんとしてはヒールの高さも相まって歩きにくいショートブーツに包まれた足は、女性としての美しさを保ちながらも、私に対しては疲労を激しく訴えていた。そりゃああれだけ歩けば疲れもする。

 未だにこの姿が私自身だと認識するのに抵抗があるが、今日みたいに初対面の多くの人からやれ綺麗だ別嬪だなどとちやほやされていれば、いつかは慣れてしまうものなのだろうか。

 ……なんだか自分の身体を見てるだけのはずなのになんかむらむらしてきた。

 これはやはり、精神的にはまだまだ男性なのだろうな、とも思うし、今後は精神も肉体に引っ張られるのだろうか……と少し考えると、まあかんがえても仕方ないので、取り敢えず今日の魔法に関する読書は終了とする。

「ありがとうございました。あと他にも幾つかよろしいでしょうか」

「ええで。とことん付き合うで」

「あとは魔物、植物、鉱物などの図鑑があれば見たいのですが」

「図鑑やったらこの辺やなー」

 ガーリーさんは一番奥の棚の一番下、分厚い本が幾つも置いてある辺りに案内してくれた。

「基本は絵と説明文が。あとは生息地とかも書いてあるけど、生息地なんて時代によってまちまちやから、全てを信じたらあかんで。なんなら特徴とかも時代や地域によって変わったりするから、あくまでも雰囲気を掴む程度にしとき。実践、体験こそが全てやからな」

「ありがとうございます」

 私はそう返答をして、図鑑をパラパラとめくった。とりあえず初心者の私でも倒せそうなモンスターと、逆に現状だと命の危険があるモンスターをある程度把握しておけば今のところはいいだろう。

 植物図鑑と鉱物図鑑もしっかり読みたかったが、流石に時間が無かったのでまた今度にすることにした。とりあえずは【探知】と【鑑定】があれば何とかなるだろう。

「ありがとうございました」

「お、もうええのん?」

「取り敢えず、今日は。今後またお願いするかもです」

「いつでもゆーてや。ウチでなくても職員の誰でも言えば開けてくれるさかい。あっでも朝と夕方の受付が混む時間は人足らんて断るかもしれんけど堪忍な」

「分かりました。色々親切にして貰って」

「なにゆーてんねん。『初心者笑うな誰もが通る道』って言葉もあるしな。この分はこれからキッチリ依頼料で稼がせてもらうでな」

 ガーリーさんは親指と人差し指で丸を作る。どうやらこちらでもあれはお金、金銭を表すジェスチャーのようだ。

「はい。よろしくです」

「ほななー」

 私はギルドを出て宿屋へと向かう。

 宿屋ではハラールさんと女将さんが優しく出迎えてくれた。

 仕込みも間に合ったようで何よりだ。

 一階のロビーと一緒くたになったような食堂で晩ご飯をいただく。

 少し薄味だったが美味しかった。

 やはり塩は貴重品なのか。また砂糖や香辛料もそうなのか。テンプレではよくある話だが、この辺の貴重な食料品や日用品などをスキルで何とか出来ると金策が楽になるのだろうか……その辺は今度少し考えてみよう。

 ちなみに帰り道も食事中もじろじろ視られた。帰り道はもう暗くなっていたのでそこまででもなかったが、食堂は明るいので端っこで一人で食べていたのもあって中々に視線が落ち着かなかった。

 世の中の女性はこんなのを味わっていたのか……と思うと、元男性としては少し申し訳ない気持ちになる。

 でもなー男側の気持ちをいえばなー、目が吸い寄せられちゃうんだよなー。

 はぁ。ダメなおじさんだ。

 そしてこの異性からの性的な視線が、女性になってからの最初の夜を、それはもうむらむらとさせてくれた。



 夜は一人で初体験の嵐だった。

 女の子って、すごいね。

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