胎内回帰・聖誕の地

―――――――


シャイターンの母なる光の世界


―――――――


 「〈領域〉、讃頌」



 シャイターンは分身体を介し、迫りくる魔獣達に〈領域〉を発動する。


 シャイターンから光が発せられ、魔獣達を包み込み、優しい世界へ案内される。


 その世界の名は、



 『胎内回帰・聖誕の地』



 アズラエルが『拒絶』ならば、こちらは『許諾』。何もかも受け入れてしまう領域だ。


 この中では永遠の平穏がもたらされ、安らかで、そのまま何もしなくてもいい。とてもとても優しい世界になっているのだ。


 それは獰猛な魔獣も同じで、本能に感じたままに、その光へ導かれた。


 争いも無い、恐怖も無い、温かな世界に取り込まれ、魔獣達は赤子へと戻り、魔素となって消えて行った。



 

 やがて光は無くなり、大量に溢れていた魔獣は一体もいなくなっていた。


 魔獣だった魔素は空へと帰り、自然へと帰って行った。


「これでおしまい。それじゃあ帰りましょお」


 シャイターンはニコニコしながら帰って行くのだった。



 ・・・・・・



「領域を安易に使うなと言って置いたはずだが?」


 アズラエルとシャイターン(分身体)は魔王に呼び出されて説教されていた。


 領域は世界に少なからず影響を与える。良い方向に転ぶことは決してない。それらの影響を修正するのも一苦労なのだ。


「……今回は小規模の地震と多数無性交妊娠で影響が済んだから良かったが、これ以上は許容しかねる。以後、我の許可なしでの使用を禁ずる。異論は認めん」

「うぬ……」

「はあい……」


 流石の2名もしょんぼりした様子で反省していた。


 地震は特に被害は無かったが、妊娠の方はいきなり臨月になっていた者までいたので、今後のメンタルケアなどの対応を付けておいた。


 魔王は溜息をついて、


「話はここまでだ。下がるといい」

「その前に一つ、報告があるのじゃが」


 アズラエルは魔王にある物を見せた。何かを人差し指と親指でつまんでいるが、小さすぎて見えない。


 魔王は目を凝らしてつまんでいる物を見てみる。そこには、僅か0.5mmも無い異界で言う『機械』の飛行ユニットだった。


「……これは、異世界の技術兵器か?」

「そうじゃな。しかし中身は空間圧縮されて100m四方の部屋になっておる。魔力を使わずにな」


 魔王は眉をひそめる。


「魔力を使わずに……、いや、魔力とは別の力で空間圧縮をしているのか」


 アズラエルはニヤリと笑う。

「その通りじゃ。それも魔力にかなり酷似したな」

「ならば奴に詳細を聞くしかあるまい」


 

 ・・・・・・



 デウスエクスマキナと同じ世界で戦った異世界人『バーン』。


 彼は前いた世界でデウスエクスマキナと相打ちになり、死と共に力を失った。その力の代わりとしてこちらの世界に適応した物をスラーパァから貰っていた。


 こちらの世界において、デウスエクスマキナを知る唯一の存在である。しかし、


「いやー、俺も難しいことはサッパリなんですわ!! 申し訳ない!!」


 何も知識がないのだ。記憶を消されたとかそういう訳ではなく、単純に頭に入っていない。ようは馬鹿だ。


 魔王が最初から当てにしていなかったのはそのためである。今回は流石に自身も使っていたであろう力だから何かかしら知っているだろうと思ったが、徒労に終わった。


 魔王とアズラエルは真顔で軽く失望していた。シャイターンは仕方ないよね、と言った残念顔だった。


「…………よく分かった。下がるといい」

「うっす!!」


 バーンは元気よく挨拶して帰って行った。


 魔王は溜息をつく。


「よくあれで倒せたな……」

「周りが優秀だったのじゃろ」


 アズラエルは気を取り直して、


「この未知の力を『ハイネス因子』と仮称して、これを観測できるようになれば必然と敵に辿り着ける筈じゃ」

「そうだな。ならば大量のハイネス因子を集めなくてわな」

「ならあ、私の出番ねえ」


 シャイターンが手をかざすと、ハイネス因子が集まりだした。


「収集魔術は得意だからあ、あっという間よお」


 シャイターンは攻撃系の魔法、魔術、スキル全般が使えない。自身の『母なる威光』が原因でそういった物が一切使えないのだ。


 その代わり、防御系、精神系、収集系のスキルが誰よりも特化している。


 本当にすぐに集め終わり、直径3m位の光球が出来上がった。これら全てがハイネス因子だ。


「これだけあれば十分だろう。すぐに計測機の準備だ」


 魔王は【念話】で近くにいた魔王城に勤める者達に呼びかけ、すぐに準備に取り掛からせる。他にも研究員にも連絡を入れ、招集をかけた。シャイターンはハイネス因子を持って魔王城の研究施設へと向かって行った。


「これでハイネス因子の調査のめどはたった。それまでに敵がどう動くかだ」

「それなんじゃが、おそらく敵を送り込んでくるかもしれんぞ」


 アズラエルは【無限収納】から資料を取り出した。


「実は勝手にあの中身を調べたのじゃが、この世界には無い魔導具、技術兵器が入っておった。亡者を作り上げたりするための製作所だったのじゃろう」

「それで?」

「ここからは推測じゃが、敵はこちらの関係者をぶつけて少しはダメージを与えられると高を括っておったじゃろうが、見事に失敗しておる。なら手を変えるのが定石、こちらを観察していたのなら尚更対抗に特化したのを作ってくる可能性は高いじゃろう」

「なるほどな」


 アズラエルの意見も一理ある。こちらの戦闘情報を集める理由、それは対抗できる手段を作り上げるため。そう考えるのが妥当だろう。


「アズラエルの考えは分かった。……それと同時に聞きたい事がある」

「何じゃ?」


 魔王はアズラエルを睨んだ。


「何故中身の事を報告しなかった?」


 先ほど部屋があると言っていたが、その中身の話を一緒にしていなかった。普通なら部屋の中に何があったのかも一緒に報告するものだ。なのにそれをしなかった。


 アズラエルは目を逸らして、


「あー、それはじゃな、……中を確認した瞬間、自壊してしまったんじゃ。部屋ごと」


 気まずそうに報告する。勝手に中を見て自壊させてしまったために報告しずらかったのだろう。


 魔王は眉間をつまむ。


「お前と言う奴は……」

「わ、悪いとは思っておる! じゃが、気になるじゃろ! 未知のエネルギーでできた空間がどうなっておるのか!」


 アズラエルは昔から好奇心旺盛な面があり、3000年以上生きててもこういうヘマをすることがる。魔王もこの癖には時々頭を悩ませていた。


 魔王は過ぎた事はもう仕方ないと思い、


「構わん。成果は出しているからな。……今後は気を付けるように」

「う、うむ……」


 少し気まずい空気が流れたが、すぐに仕切り直す。


「さて、どう来る……」


 敵の新たな襲撃を、堂々と待ち構えるのだった。





―――――――




お読みいただきありがとうございました。


次回は『Deus Ex Machina : Second stage』

お楽しみに。


もし気に入って頂けたなら、☆☆☆からの評価、♡の応援、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る