魔王の書斎から Ⅱ

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妻は強し


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 魔王城の書斎



 いつもの様に魔王が仕事に励んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。


「入れ」


 ドアが開き、訪問者が入ってくる。


「こんにちは魔王様」


 入って来たのはラディオンの妻、パシーパだった。


「パシーパか。今日はどうした?」


 パシーパは身を低くして頭を下げる。


「この間の件でうちの夫が大怪我した時に手厚い治療をして下さったお医者さまから魔王様が薬を用意してくださったと聴きまして、そのお礼に」。


「その事か。怪我をした部下に適切な治療を受けさせるのも王として当然の義務だ。気にする事は無い」


「いえ、恩を貰ったままという訳には参りません。しっかりと返してこそ礼儀だと思っております」


「そうか。ならばありがたく頂こう」


「ありがたき幸せ」


 魔王はパシーパを見つめながら肘をついた。


「…………というより、そこまで畏まらなくてもよいのだぞ。パシーパ」


 パシーパは顔を上げて魔王と向き合う。


「ははは、やっぱり柄じゃないですか?」


 照れくさそうに指で頬を搔いた。


「そうだな、自然体のパシーパで良いぞ」


「そう言って頂けるとありがたいです。まあ形式上やっておかないと怒られちゃいますので」


「そんな事を言う者がまだいるのか……。世話を掛けるな」


「いえいえ、お気になさらず」


 パシーパは元々スパルタンの兵団長として活躍していた。そのため魔王と何度も面会する事があり、ラディオンと結婚してからはプライベートでも交流するくらい親しい仲である。


「それじゃあ早速お礼の品をどうぞ」


 『収納空間』から大きな瓶を取り出した。中には大量のミルクが入っている。


「ミルクか」


「はい! 私のミルクです!」


 満面の笑みで自分から搾った宣言をしてくる。ミノタウロス族の女性にとって当たり前かもしれないが、他種族の異性からするとちょっと思うところがある。


「そうか、後でゆっくり頂こう」


 しかし魔王は動じない。如何せん何度もミノタウロス族のミルクを飲んだことがあるからだ。


 ミルクの入った瓶を受け取り、【収納空間】へ仕舞った。


「しかしこんなに貰っても大丈夫なのか? 搾乳は決して楽な物では無いだろう」


「大丈夫です。うちの旦那が毎日直飲みしてますから慣れっこなんですよ」


 ラディオンのプライバシーが侵害されたが前回の反省を生かして敢えて何も言わない。


 ふと、魔王はある事に気付く。


「……ここまで出るのはもしや、妊娠か?」


「あ、気付いちゃいました?」


 そう言って巨大な乳を両腕で持ち上げると、お腹が少し大きくなっているのが見えた。


「2ヶ月なんです。今回はその報告も兼ねて来たんです」


 パシーパの笑顔につられて、魔王も優しく微笑んだ。


「おめでとうパシーパ。ラディオンと共に大事に育てるのだぞ」


「はい! ありがとうございます!」


 パシーパはお腹を意識しながら乳を戻した。


「これで第5子か。賑やかになるな」


「まだまだですよ。あと100子は産んでやるつもりです!」


 大笑いしながら先の長い目標を宣言した。


「…………程々にな」


 魔王は呆れつつここにいないラディオンを心の中で応援するのだった。



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お読みいただきありがとうございました。


次回『魔王の書斎から Ⅲ』

お楽しみに。


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