第4話

「ままぁ、もういらない」

先程の屋台やパン屋こら予想していたけれども、宿屋の食事は食事とは言いがたかった。

とにかく火を通しすぎる、味付けが塩のみしかも塩のかけすぎで辛いコレでは咲百合の身体には良くない。

「あの、申し訳ないですが厨房をお借りできますか?娘が食べれるものを作りたくて」

給仕をしてくれたおじいちゃんにダメ元で頼んでみる。

実はさっき市場でミルクとチーズ、カボチャみたいな物を買ってみたのだ。

ちなみにアイテムBOXは珍しいけれども、リュックサック位の容量ならチラホラ居るらしいのでそれくらいの容量と言えば特に注目される事も無いとサンクート様に確認済みだ!


「おチビちゃんにかい?まぁ今日はもう使わないから好きに使って構わないよ。」

「ありがとうございます!」

「それじゃコッチおいで」

おじいちゃんは隣の部屋にある厨房に案内してくれて、必要な調理器具を出してくれた。

「水道はコッチでコンロはこれだよ。使い方はしってるよな?」

「すみません、田舎暮らしだったので使い方も教えてください。」

魔道具ぽい水道にコンロ!異世界って感じでちょっとテンション上がっちゃったのはナイショ…


危なくないところに咲百合を座らせて教えてもらったコンロに日を入れてまずはカボチャを煮ていく水煮を作るけれどもほんの少しだけお塩を入れて甘味を引き出してみる。

その間に硬くて食べれなかったパンをちぎってミルクに浸しておく、日本にいる時に咲百合に作った離乳食を思い出して作っているがパンが硬いので先にふやかしておかないと煮詰めすぎちゃいそうだし…


カボチャが煮えたので皮を剥いで実だけ潰していくが裏ごし器も無いし咲百合もいい加減お腹すかせているので簡単に済ませちゃう。

ふやかしたパンとミルクに潰したカボチャもどきを合わせて、沸騰しないように混ぜながら煮ていく、煮立ったら仕上げに塊で買ったチーズをナイフで薄くけずって入れ溶けたら完成。


「ままぁ、いいにおいだね!」

「そうね、久しぶりに作ったけど、上手くできたと思うから食べようか!」

娘と2人のほほんとしていると

「すまんが、ワシらにも少し食べさせて貰えないか?」

いつの間にかおじいちゃんとおばあちゃんが興味津々で見ていた。

「ええ、厨房お借りしたお礼に残り少ないですがそれでも宜しければ、どうぞ」

小さなお椀2つによそって2人に渡し、私たちはさっきのテーブルに戻る。


「おいしぃ!まま、さーちゃんこれスキ!」

「そうね、さっきのパンが食べやすくなっておいしいね」

可愛い娘の久しぶりに喜ぶ顔を見てこの世界に来てよかったのかもしれないとぼんやり思いながら私もパン粥を食べていく。


そんなのほほんとした時間は続かなかった…


「食事中にすまない、それを私にも食べさせて欲しいのだが、もちろんお代は払う!」

近くで食事していた男性に声をかけられたのだ。

「え?」

「あー!ずるいぞ私も食べたい、私にも食べさせてくれ!」

「アタイもたべたい!」


食堂で食事をしていた人達からお願いされてしまった。

「えっと…」

この人数分の材料は残っていないから困っていると

「うちにある材料を使っていいからなにかワシらにも作っ欲しい、あんなに美味しいものは初めて食べた。」

なんとおじいちゃんたちまでやって来て頼まれてしまった。ここは手持ち資金を増やす意味でもサンクート様から頼まれた食文化の発展のためにも引き受けてもいいのかもしれないわね。


「分かりました。材料の都合もあるので全く同じモノは用意できないかもしれませんが何か作ります。お金は作ったものによって後でお支払いをお願いします。」


咲百合はまだ食べていたのだけれども一緒に厨房に戻りさっき座っていたところで食事の続きをすると言うので早速材料をチェックしてみる。


やっぱり調味料は塩しかなく、小麦粉とミルク、数種類の野菜、お肉、パンがあった。

とりあえずジャガイモに似た芋があったのでフライドポテトを作った。

ホントはしばらく水にさらすんだけど時間がないので皮をむいて10分ほどさらしてから小麦粉をまぶして揚げる。

油を切ってから塩をまぶしお皿に盛ってそれぞれのテーブルに持っていく。


「とりあえずお酒を飲まれている方が多いのでおつまみを作りました。ほかにも作るのでコレを食べて待っていてくださいね。」


さっさと厨房に戻ったが食堂では大騒ぎだった。


「なんだコレ!芋がこんなに美味しいなんて、しかもエールによく合う。」

「ホント、サクッとしたと思ったらふわふわの芋がいいな!」

「ヤバいねコレは飲みすぎちゃいそうだわ」

「あのお姉さん何者だ!こんな凄い料理人初めてみたよ。王都の高級料理より上手い!」


由布子は、大騒ぎに気づかず次の料理に取り掛かっていた。


「うーん、パン粥もいいけどここはチーズフォンデュ風にしようかしら。」

子供に食べさせるならともかく酒飲みの大人にはこっちの方が喜ばれそうだし。


「えっと、さすがに作り方分からないしアプリ起動!チーズフォンデュ」

買い物から帰ってきて部屋で使い方を練習しておいて良かったわ。


スキルで調べたチーズフォンデュを作るのに塊チーズを削らないといけなくちょっと苦労したが何とか削り、おじいちゃんからウォッカに似たお酒があるそうなので貰ってニンニクもどきをフライパンに塗りたくり、細かく刻んでから、削ったチーズに小麦粉をまぶして(ホントは片栗粉を使うみたいだけど無いので)と合わせて入れてお酒を入れたら後は日に火にかける。

その間に蒸しておいた野菜を切って塩とニンニクで焼いたサイコロステーキとカリカリにトーストしたパンを盛り付けていく。

チーズが溶けたら盛り付けた具にチーズをかけて完成!


これってフォンデュじゃなくてラクレット風だっかな?なんて思いながら食堂に持っていくと、


「お!おねーさんこの芋サイコー!」

うん、既に酔っぱらいが出来始めてた…

「もう食べ終わっちゃって待ってたよ!次はどんなの!?」

お酒飲んでいない人も待ちきれない!と言わんばかりに食いついてくる。


「チーズが熱いので気をつけて食べてくださいね、チーズの下にパンやお肉、野菜が有りますからチーズを絡めてください。」

それぞれのテーブルに座っていたお客さんがいつの間にか集まって座っていたのでそれぞれにお皿を並べていく。


「あち!でもうまぁ!」

元気いっぱいで話しかけてきた冒険者風?なお姉さんがさっそく口の中をやけどしたらしい。いるわねこういうせっかちな子…


とりあえずみんな美味しそうに食べてくれるのは嬉しいわね。


咲百合もおなかいっぱいになったみたいで眠そうにしている。


宿屋の老夫婦もふたり仲良く美味しそうに食べてくれているしとりあえず部屋に戻って咲百合を寝かせてあげたいな。


「すみません、娘が眠そうなので私はそろそろ部屋に戻りますね。材料費が分からないのですが、ご主人に聞いて材料費だけは皆さんでキチンと渡しておいてください。」

ホントなら料理代として貰うべきなんだけど咲百合が優先だ!


「それはダメですよ!こんな素晴らしい料理を作ってくださったのに!材料費はもちろん宿屋のご主人にお支払いしますが私からあなたへの支払いとして少ないですがコレを」

そう言って最初に声をかけてきた男の人が銀貨1枚を差し出してきた。

大きなパンが銅貨10枚のこの世界で食事の材料費無しで銀貨1枚は高すぎると思う。

「え、こんなに貰えませんよ。」

「良いんです!二度とこんな料理に出会えないかもしれないので今日あなたとお知り合いになれたことへの感謝と今後また会えた時は何か作って欲しい下心もありますから。」

そう言って強引に銀貨を渡されてしまった。

「あー、アタイもまた作って欲しい!とりあえずお嬢ちゃん眠そうだからまた明日お願いします!って事でコレで良いかな?」

口の中をやけどしたらしいお姉さんは銅貨50枚、その他にもみんな銀貨1枚か銅貨数十枚を渡されてしまったが、ここは有難く受け取って咲百合と部屋に戻ったのだった。

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