3.3.34 西方軍 雷雨(2)

――王国歴 301年 仲春 貴族連合討伐軍 第一王女私室


「いかがでございました?」

第一王女が隠し部屋から出てくるのを手伝いながらキュトラは問いかける。


「ザエラの男根が貴方の膣内ナカに叩き込まれて悶える様はぞくぞくしたわ。私との遊戯プレイで膜はないけど、男性は初めてでしょう?どんな感じだった?」

第一王女は右半面の顔を紅潮させながら潤んだ瞳で興奮気味に質問する。


キュトラはベットの端に腰を掛けると、

「気持ち良すぎて最後は姫様に見られていることを忘れて悶えてしまいました。あの方の魔力が全身の魔力回路に流れ込んで快感の渦に飲まれるような感じです」

と言いながら、両手で肩を抱きかかえてザエラとの情事を思い出す。


第一王女はキュトラの元へと近寄り、股から流れ落ちる白濁した液体を見つめる。

「これがザエラの体液スパームね。どんな味がするのかしら」

ペロリとキュトラの股から流れる液体を舐めると何とも言えない表情を見せる。


「姫様だけずるいですわ、どんな味なのですか?」

「実際に舐めて見るといいわ」

第一王女は舌で液体をすくい、キュトラと唇を合わせて舌を絡ませる。二人は微妙な表情のまま見つめ合い、くすくすと肩を揺らして笑い出した。


「……艶本の内容とは違うわね。さあ、貴方ばかり楽しんで不公平だわ。私にも分けてちょうだい」

「もちろんです。姫様、一生懸命奉仕いたします」

キュトラは第一王女を抱きかかえてベットへと寝かせると彼女の股へと顔を埋めた。


◇ ◇ ◇ ◇


二人はベットのシーツに包まり、体を寄せあいながら会話をする。

「アデルへの‟精神浸食マインドコントロール”は成功した?」


「はい、成功しました。私に乱暴した記憶を植え付け、サーシャ大尉を襲うように仕向けました。ザエラ様が到着した頃にはその結果を目の当たりにするはずです」

キュトラの言葉に第一王女は満足げに頷く。


「条件が厳しく手間が掛かるけれど、シュバイツ伯爵家に伝わる禁忌古代魔法の効果は絶大ね。白エルフしか理解できないので犯行が露見する恐れはないわ」


「サーシャ大尉と私が乱暴されたらザエラ様は激怒してアデル王子を敵対。彼が次期国王になるのを断固として阻止するため、私達の陣営に肩入れする……うまくいくでしょうか?」


彼の義弟カロルが言うには、彼は敵には残酷で容赦なく命を奪う人物らしいわ。総じて打算的な男だけど、アデルを敵と判断すれば、あらゆる手を使い排除するはずよ」


「そうですか、サーシャ大尉には可哀そうな役回りを押し付けてしまいますが、私達の悲願達成には仕方ありませんね」


「ええ、アデルの次期王位を防ぐにはこれしか手がないわ。それにしても貴方が他種族の女性を思い遣るとはめずらしいわね」

第一王女が指摘すると、キュトラはサーシャとの情事を思い出し、顔を赤らめた。


「ところで姫様、姿を消すのでしたら認識阻害の外衣マントが便利ですのに、どうして隠し部屋に潜んでおられたのですか?」


「彼には視覚を用いた魔法が効かないという噂を聞いたので、念のためにマントを使うのを避けたのよ。……さて、ザエラは今頃、彼女の宿舎に着いているはずだわ。どのような結果がでるか気になるわね」


――アデル陣営 サーシャ宿舎


ザエラがサーシャの宿舎を訪れると散々たる状況が目の前に広がる。部屋の中は本棚や机が倒され、書類が散乱し、ベットや天幕の布地はズタズタに切り裂かれている。


十数人の近衛兵が警備する中、手錠で拘束されたサーシャは地面に跪く。そして、顔に紫色の痣ができたアデル王子が椅子に座り、聖魔法の治療を受けている。


《サーシャ、これはどうした?》

《来てくれたのね、ザエラ……ごめんなさい、面倒なことになりそうよ》

サーシャは念話で事の成り行きをザエラに説明した。


サーシャの説明によると、彼女が寝ていると突然男性に襲われ、反射的に顔を殴り腹を蹴り飛ばした。明かりをつけてその男がアデル王子であることに気づく。彼は激昂して剣を振り回し、手あたり次第、斬り付けて暴れたそうだ。


《殴る前に魔力感知をして相手を確認しておくべきだったわ……。ところでどうしてここに来たの?呼び出されて来るには早いわ》

《キュトラ中尉が襲われて、彼女からサーシャも危険だと知らされたんだ》

《そうなの?……キュトラの香りはアデル王子から匂わないけど……不思議ね》

ザエラの話を聞くとサーシャは訝し気に念話で呟いた。


「アルビオン中佐殿ではないか丁度良い。貴公の部下の不始末について話がある」

アデル王子はザエラを見つけると大声で呼びつけた。


◇ ◇ ◇ ◇


アデル王子の叱責は長々と続いた。要約すると、サーシャから積極的に誘惑され深夜訪れたところ暴行を受けた。積極的な誘惑は事前合意に相当するため、彼女の暴行行為は正当防衛ではなく、王族に対する反逆行為にあたる。ついては、所属騎士団長のザエラについても同罪である。


「どうだ、アルビオン中佐、何か申し開きはあるか?」

アデル王子は勝ち誇ったようにザエラを問い詰める。


事前合意を否定するのは困難だろう……アデル王子の側近たちが彼に不利な証言をすることはあり得ない。しかし、サーシャに対する無礼な言葉は許さない、ザエラは腹を決めて、アデル王子に反論する。

「彼女は私の婚約者フィアンセです。積極的に誘惑することはあり得ません。事前合意に相当する証拠をお見せください」


雷が光るとしばらくして雷鳴が鳴り響いた。


「私の言葉が嘘だと申すのか?王族への侮辱罪だ。貴公は罪を重ねたいのか」

アデル王子は立ち上がるとザエラの腹や頭を蹴り飛ばす。ザエラは顔が血まみれになりながらもその場に跪く。


「お待ちください。アデル様、誤解がございます。私に釈明させてください」

サーシャの嘆願を聞き、じろりと彼女を見つめた後、アデル王子は椅子に戻る。


「私はアデル様をお慕いしていました。誘惑していたのは事実でございます」

《サーシャ、一体何を言ってるんだ?》

ザエラはサーシャの言葉に頭が混乱してきた。


「そうであろう、では、なぜ、私を拒んだ?」

「アルケノイドは晩秋から初冬の発情期以外は肉体関係を拒む種族でございます。そのため、昨日は無意識にご無礼を働いてしまいました。誠に申し訳ございません」

「そうか、では、お前の贖罪の態度次第ではこの件を許してやろう」

アデル王子が靴を差し出すと、サーシャはそれに唇を近づけようとする。唇が靴に触れようとした瞬間、彼はサーシャの顔を引き寄せ唇を重ねる。


「俺について来るか?」

「はい、お許しいただけるならお傍にいさせてください」

アデル王子は合図すると近衛兵はサーシャの手錠を外した。


「アルビオン中佐、お主の婚約者フィアンセは俺を選んだぞ。今回の件は俺と俺の女の間の単なる痴話喧嘩だ。お主には関係ない。侮辱罪も不問にしてやろう」

アデル王子の上機嫌な笑い声が響く。


サーシャは指から何かを外すとザエラの前に落とし、

「婚約を解消します……さようなら」

《今はこれしか方法はないわ……私のことは気にしないで》

と言い残して、アデル王子の元へと戻る。


全員が現場を後にし、ザエラ一人が取り残された。彼は目の前に落ちているピンクダイヤの婚約指輪を握りしめ、大声で叫ぶ。


雷鳴と地面を叩きつける雨音に混じり、ザエラの叫び声がしばらく続いた。


◇ ◇ ◇ ◇


こうして、第一王女とキュトラの策は、期待以上にザエラのアデル王子に対する憎しみを生み出した。

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