恋愛小説、みたいな。
吉野の御祖母様の御住まいは割と簡素な庵で、家人もあまり居ない。
わたしも暮らすならこれぐらいの所でいいなぁとか思うけど、そうすると一生家の援助が必要になるわけで。
御父様が御存命のうちなら良いけれどその後は……。
援助が無くなりあばらやで過ごすのは、寂しいな。
ここでの暮らしもそろそろ一年。今夜は中秋の名月が望めそう。
わたしが生まれたのも丁度この時期。満月の夜だったという。
ということでそろそろ17歳。花も恥じらう乙女、とは言い難いか。
心は乙女のつもりだけど、あいにく身体は言うことを聞かない。
子供時代の虚弱体質が幸いし、今でも華奢でチビなおかげでそんなにおとこおとこした体型にはなってないものの、確実に二次性徴はやってきた。
声は、これも、発声に気をつけ声変わりがわからない程でおさまっているけれど、少納言のような可愛い声じゃないのはかなしい。
綺麗なお声ですよと少納言は言ってくれるけど、たぶんお世辞が半分だろうとは思うのだ。
恋も仕事も望めない今のわたしにできる事はあらゆる書物の写本くらいで、もう源氏物語も枕草子も書き上げた。般若心経も阿弥陀経も諳んじられるくらいに覚えてるから、将来は田舎でこっそり僧にでもなって供物でも頂いて過ごすかな。小さな畑を耕しながら過ごすのも悪くない。
と、すっかり心が枯れてたわたしなのですが、ひとつだけ趣味で楽しみにしていることがありまして。
それは。
少納言が書き綴る、『月明かり物語』というおはなし。
一年前のわたしと何処かの公達との出会いにインスピレーションを得て、という、
『女装して育つことになったとあるやんごとなき若君と、天子の皇子でありながら母系の権力が弱く冷遇されている宮さまとの、禁じられた恋』
をテーマにした物語だ。
まあ、前世で言えばBLジャンルかな。
これがもう、とにかく面白い。
一帖書き上げると読ませてくれるんだけど、もう続きがまちどうしくて仕方なくて。
わたしがモデル? だという話だけど、わたしはこんなに素敵じゃない。
だからこそ、こうなれたらいいな、って気持ちがより感情移入させてものがたりにのめり込めるのかも、しれないな。
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