歌集・青い時代の虐殺

尊野怜来

1. 微笑みたたえる白い庭


その一. 微笑みたたえる白い庭




こころ刺す青いハチドリ紅い花白い時間が笑うあの庭


青い鳥追いて迷える楽園の白い庭には戻れぬものを


はしり去るなにをか得んと人の世にぶちのめされる朝に戻れば


曼珠沙華十五の四季を重ねつつあの地この地で君も吾も泣く


瞼、雨。みどりを洗うスコールの青き晴れ間に木漏れ日の燃ゆ


青、みどり梢を踊る白い猿古いいしぶみ声もとどかぬ


戻らざる青き旅人風のぼる呼ばれ叫べよ命果てる前


旅人が凍てつくからだ飛びたてず弾むことなき身をなぐさめる


投げつける憎さ愛しさ哀れなる言の葉こころ刺し貫きぬ


声棄てる鳥も寄らない我が家の誇りなき闇落ちるなみだを


声棄てる痛む身体をさすりつつ風は呼べども春は来ないか


花香る生ぬるき世に一人居て祈る手の指ひとりなやめて


哭きながら顎を首へと押しつけて孤高の微笑をおのが手で描く


温くとも十字に残る古き傷埋める当てなくただ描き生かん


わすれない微笑みたたえる白い庭ここに抱えてあの地までゆく






その二. 愛しき国よ





愛してる轟く波のこころかな赤きまことを謀りかねても


君を呼ぶもう居ないとは知りつつも止まぬ泣き言腐れ果てても


愛よ愛、愛を叫んで年は過ぎ何を引きよせ抱くもさみしく


嘆くなよ日々訥々と生は過ぎひやり冷たく花は散りゆく


いきなさい彼方へ遠く道は在り嵐千切れてちまたひらける


きれいだねあんなに白く塗りこめてからを抱える絵描き語らず


中米の名もきかれないいしぶみに依りて声をぞ聴かんとおもふ


いしぶみの誰も読めない文字に聴くあの湖に神が居たころ


あまりにも赤すぎる花いにしえの噴水に咲くブーゲンビリア


しゃがみ込み拾う黒石語り来るここは昔のちまたなりとぞ


ナマケモノその枝に居て燦々と生けし生きるを連れて輝く


懐かしく愛しく慕う心臓をまっすぐ切り裂くはさみ残酷


あれは愛こたえる声のないままに涙はつたう春を聴きつつ


私には無い未来をぞ語りいく友は育む青き血潮を


俺は勝つ女神の声を聞いたときその一時期を忘れないまま


朝は来る静かに冷たく春の日に我を連れゆく「もう、往こうよ」と

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