第22話 彼等の活躍に報いるために

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 時は少し遡り、孝弘達が結界に閉じ込められ今川達が救出に向かった頃のこと。

 シュレイダーの置き土産であるドラゴンの大群が仙台方面軍と沖合にいる海軍艦隊に襲いかかった。その数は約五○○。いやらしいことに一度に襲いかかるのではなく三波に分かれてやってきていた。これによって日本軍は地上戦と航空戦の二面作戦を強いられることになる。


「総員に命令! 一○一旅団戦闘団フェアル部隊は全力出撃! 数が数だから私も出るよ!」


『艦載機は上げられる分だけ全部空に出せ!! 整備が終わりそうなものも全てだ!!』


『小松コントロール、緊急通報を確認。即応待機部隊を迎撃に向かわせる』


『百里コントロールも緊急通報確認! こちらも即応待機部隊を迎撃に向かわせ、二次予備部隊も迎撃準備にとりかかる!』


『入間コントロール、通報を確認した! 緊急事態対応Bを発令。すぐに向かわせます!』


 いち早く対応したのは七条璃佳率いる第一○一旅団戦闘団と空母『大鳳』の艦載機部隊だったが、直後には小松・百里・入間の空軍戦闘機部隊と無人攻撃機部隊も迎撃機を出し始めた。


 数分後。ドラゴンの大群は仙台上空に到達し一○一旅団戦闘団フェアル部隊や空軍部隊等と交戦開始エンゲージ。海軍機動艦隊の矛であり盾でもある艦載機部隊も艦隊から北方約五○キロ地点で交戦を開始した。


 ドラゴンとも交戦可能なフェアル部隊である一○一旅団戦闘団の特務と北特大は連日の戦闘で多少の消耗はあったが、戦闘開始が早朝で一応の休息は取れていたから空戦の序盤はいつも通り戦うことが出来ていた。

 海軍艦載機部隊も前日に輸送艦からの補給物資が届きミサイル等の弾薬類が充実していたという偶然の要素があったから、能力を十分に発揮出来ていた。もし二日前にドラゴンの襲撃を受けていたらこうはいかなかっただろう。

 空軍戦闘機部隊や無人攻撃機部隊も不測の事態に備えて迎撃プランが練られていたから、ドラゴンの大群襲撃の報を受けても慌てることなくしかし速やかに迎撃機部隊を出せていた。


 ただ、この奇襲を受けて苦戦を強いられることになったのが地上部隊である。

 理由は三つ。一つ目はドラゴン奇襲に呼応してCTと帝国軍双方が攻勢を始めたこと。二つ目は約五○○もの大群を相手にするためかなりの航空部隊が迎撃にあてられ、地上への航空支援攻撃能力が大幅に低下したから。三つ目は地上にいる虚ろ目のエンザリアだけでなくドラゴンという強敵も警戒せねばならなくなったこと。

 これらの要素は陸軍と海兵隊に地上の魔法軍へ出血を増させることになってしまった。


 交戦開始から約三○分が経過した辺りで、ドラゴンはその数を約半分にまで減らしていた。フェアル部隊、海軍艦載機部隊、空軍戦闘機部隊、無人攻撃機部隊は精鋭の名に相応しい活躍を果たせていた。だが、彼等とて無傷ではない。むしろ以前より損害率は少しではあったが増していた。


『総員へ警告! 空飛ぶクソトカゲは地上のエンザリアを利用している! 気をつけろ、コイツら学習しているぞ!』


 ファンタジー世界を描いた創作においてドラゴンは賢い生物で戦いを経て学習すると言われているが、今回もその例に漏れることは無かった。洗脳が施されたドラゴンとはいえ教育は可能らしく、ここまで交戦データを敵側も送っていたようだった。

 これは交戦を終えてから分かったことだが、ドラゴンが地上にいる味方の攻撃を利用して回避や火炎放射等の法撃を行った結果、これまでと比較して日本軍の損害率は約三パーセントほど増加してしまっていたという。


 交戦開始から約四○分が経った頃になると、空軍部隊や無人攻撃機部隊は燃料低下と武装が残り僅かとなり、二次即応部隊と交代。海軍艦載機部隊の中でも損傷した機体は現状では空母『大鳳』への着艦は危険と判断され、緊急措置として近隣の山形空港や福島空港へ着陸することとなった。

 ドラゴンの残存数は約二○○にまで減っていたが、このタイミングで璃佳に通信が入った。今川からだった。

 それは璃佳にとっても信じられない報告だった。


『ウェストウィザードよりセブンスへ。SA部隊の救出に成功。二目標の殺害に成功するも、被害は甚大。部隊は壊滅判定』


「ウェストウィザードへ、いま、なんて.......?」


『.......繰り返します。SA部隊は任務を成功させましたが、結界内で連戦を繰り広げ戦死六、重傷三、軽傷二、軽微な負傷は二。無事な隊員も魔力のかなりを消耗している状態でした。継戦は不可能です。交戦区域から一旦離れられておられるようなので、戦闘データを今から送ります』


「分かった.......」


 璃佳はこの時、報告を受けたのが空戦を一度終えて補給を受けている状態で良かったと心底思ったという。隣にいた熊川も後に、「七条閣下が手を震わせ絞り出すような声になったのを聞いたのは二度目です。一度目は神聖帝国の連中が侵攻してきた時。SA部隊の壊滅は、それほどの衝撃だったのでしょう。私も最初は、信じられませんでした」と語っている。


 戦闘データを目にした璃佳は驚愕したと同時にいかにSA部隊とはいえよく生き残れたと思った。

 結界に封じられただけでも混乱に陥るというのに、その後に大量の虚ろ目のエンザリアを相手にし、加えて謎の意思あるエンザリアまで出現する始末だ。前者との交戦だけでも並の部隊なら潰滅するし、後者に至ってSランク能力者がいたから倒せたようなものである。SA小隊が壊滅判定を受けるほどの被害になってもおかしくはなかった。


「ウェストウィザード、彼らを助けてくれてありがとう。貴官達が救助に駆けつけてくれなかったら、重傷者は丸々戦死になっていたと思う.......」


『閣下にそう言って頂けるのならば本望です。ただ彼等には今の戦況は伝えておらず、知れば駆けつけかねないかと思いまして』


「無理をしてでも動こうとするなら私の命令ってことでSAはこっちに来させないようにして。逆らえば軍法会議とまで言っても構わない」


『.......了解しました。賢明な判断かと思います』


「彼等は十二分に務めを果たしたからね。よろしく頼んだよ」


『はっ! では、失礼致します』


 璃佳は今川からの通信を終えると、空を仰ぎみた。

 半数以上が死傷する激戦を生き残った彼等の元へ駆けつけたいが、戦況がそれを許すはずもない。ドラゴンは未だ残り、地上戦はより激しさを増している。補給を終えたらすぐに空へ舞戻らなくてはならないのだ。

 璃佳は普段余り扱わないフェアル部隊員が携行する機関銃の補給を終えると、熊川のもとへ歩く。


「終わるまでこのことは伏せるよ」


「.......了解しました。我らは我らの、成すべきことを成しましょう」


「当然よ。..............だからさ、まずは空飛ぶクソトカゲ共をぶっ殺すよ」


「サー、イエッサー」


 璃佳と熊川は空を強く強く睨む。絶対に殺してやると言わんばかりに。

 再び仙台上空へ戻った璃佳はそれから、共に戦う者たちが『一人一個連隊の鏖殺姫』の二つ名に相応しい戦いを目撃し、その姿に勇気づけられ戦い抜いたのだった。

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