第8話 郡山市街戦(1)

 ・・8・・

 二月一日に激しい攻勢をもって郡山市を半包囲した日本軍は二月二日に敵密度の薄い郡山市東部に進軍しこれを確保。北西部や南部でも敵の反撃があったもののこれを跳ね返し、この日のうちに郡山市への包囲をほぼ完成させた。

 ちなみに二日には市街戦準備作戦として大規模な砲撃と爆撃機・戦闘機・攻撃ヘリ・フェアル部隊による空爆作戦が実施されている。これは単一の都市に対して行われたもの――CT大群決戦を除く――としては最大級で、丸一日を費やしてひっきりなしに投入された火力は凄まじく、特にCTに対して集中的に行われた。その結果CTが大きく数を減らすことになった。

 三日の朝には、包囲された郡山市街と郊外に残った敵軍はCTが約一八〇〇〇と神聖帝国軍が約七〇〇〇。対して日本軍は郡山北部から襲来する可能性のある増援対策として部隊を北部に移しつつも包囲を強化して、ついに郡山市街戦へと移行するのだった。


 補足であるが、一日の戦闘で多大な活躍を果たした関知花魔法中佐は単独広域魔法探知による副作用(一時的な頭痛と平衡感覚の異常など)で四日間の後方送致措置が取られ、一時戦線離脱している事を加えておく。



 ・・Φ・・

 2037年2月3日

 午後0時半過ぎ

 福島県郡山市喜久田付近


 朝から始まった郡山市街戦は昼には各戦線が約一キロ程の前進を果たしていた。想定より遅い進軍となっていた理由は敵が設置したトラップが原因だった。

 市街に入った途端あちこちに魔石地雷(魔石に魔力を充填しておき衝撃が加わると爆発するもの。原理は単純だが厄介なシロモノである)が設置されており、死体にもトラップがあったのだ。昨日の爆撃によってある程度は誘爆したようだがまだまだ残されており、これらの対処に手間取っていた。もし丸一日の大規模砲撃と爆撃が無かったらと思うとゾッとする、とは後に前線で戦った将兵達が口を揃えて言った発言である。

 敵の対抗手段はそれだけではなかった。

 孝弘達特務小隊はその内の一つと交戦中だった。


『SA8(宏光)よりSA1へ。郡山富田方面の奥より新たに召喚生命体が発現。数は一個大隊程度。距離は約一五〇〇。種族は…………、ゴブリン及びオーク……! 内一部には魔力反応があり、余りにもファンタジーですがゴブリンメイジかと!』


「SA1よりSA8へ。了解。オークは俺が片付ける。歩兵部隊等に注意喚起をしてくれ」


『了解!』


 知花が戦線離脱している間の代理として彼女の役目を果たしている宏光から通信を受け取った孝弘は矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。

 神聖帝国軍は相変わらず孝弘達のいる郡山北西部や北部方面に幾つも対抗策を敷いていた。そのうちの一つが召喚士による召喚生命体の召喚だった。

 どうやら郡山市北西部には優秀な召喚士が何人かいるらしく、中隊から大隊規模の召喚生命体を投入していた。今孝弘達がキャッチしたののは三回目の召喚生命体だった。


「水帆、二人で固定砲台役だ。俺は三〇ミリで、水帆は法撃で対処してくれ」


「了解よ。これで三回目だったかしら。CTだけじゃなくて召喚生命体もいるんじゃラチがあかないわね。まだ一キロちょっとしか進めていないわ」


「トラップあり。地雷あり。おまけに巧妙に隠された野戦砲まであっちゃ仕方ないさ。しらみ潰しにやるしかない」


「敵指揮官は随分市街戦を研究していたみたいね。厄介だわ」


「全くだ。ったく、敵の嫌がる事を率先して組み込みのはいい指揮官だよ」


 孝弘は今の状況を皮肉って言いながら、試製三六式のマガジンを交換する。賢者の瞳のレーダーには召喚されたオークが表示されていた。数は一五。オークの体長は六メートルと非常に大きく、放っておけば装甲車両すら持ち上げ破壊される可能性も加味すれば優先して倒す目標だった。


『SA3よりSA1。悪ぃ、正面のCTを相手にしつつ神聖帝国軍ともやりあってっからそっちの対処は難しい。茜も一緒にいるが、手が空かねえ様子だ。頼むぜ』


「了解。その代わり正面はよろしく」


『任せとけ!』


「とまあ、この状況だ。SA5、そっちの三人は撃ち漏らしをよろしく。ゴブリンもいてオークもいて加えてCTだ。数が多いったらありゃしない」


『了解しました。ゴブリンやCTはお任せください。オークや大型CTはお願いします』


「SA1了解。SA16から20はSA5から7と協力して対処を」


『了解!』


 さて、一通りは指示を出し終えたか。と孝弘は確認しながら、彼は銃口をオーク達の方へ向ける。魔力チャージも終わっていた。隣にいる水帆も並列処理をして二つの詠唱準備を完了していた。


「目標ロック。貫通系風属性を設定。ショット」


 戦場に一発、三〇ミリ狙撃砲らしい大きな音が響く。三〇ミリの砲弾は一体のオークを貫通し、後ろにいたもう一体にも命中した。もちろん即死である。


「ヒット。見事ね。――『炎槍フレイムランス一六重射出ヘキサデカインジェクション』。続けて『豪風刃ストームブレイド一六重射出ヘキサデカインジェクション』!」


 水帆の法撃は面制圧系だった。放たれた炎の槍や風の刃は上空に打ち上げられるとある地点から急降下してオークや周りにいたゴブリンに次々と命中していく。

 その間にも孝弘は三発放ち、慎吾達も法撃を行っていくことでオークとゴブリンはみるみるうちに数を減らしていく。CTも戦車等が次々と倒していった。


『SA8よりSA1、召喚生命体は半数まで減少するも未だ前進。CTが後に続いています。航空支援要請を出します』


「それが適切だな。頼む」


『了解しました』


 宏光が航空支援要請をすると、上空にいたフェアル部隊がすぐに対応した。フェアル部隊の一〇人が一斉に法撃し、ゴブリンを中心にいくつか吹き飛んだ。

 ゴブリンやオーク達は仲間が次々と倒れていっても気にしない様子だ。それどころか隙を狙って反撃もしてきた。


『警告。オーク一体がガスボンベ二本を手掴み。投擲姿勢に移行』


「おいおいマジか……」


 孝弘は賢者の瞳の機械音声を片耳で聞きながらすぐ対応した。

 目標を狙い、発射。既に投げられたガスボンベを撃って爆発させ、もう一個を投げられる前にもう一発を撃った。

 三〇ミリの砲弾はガスボンベに命中。爆発はオークとその周りを巻き込んだ。


「っぶねえ……」


「ナイスキルよ、孝弘」


 孝弘は自分の攻撃が間に合ったことに胸を撫で下ろす。CTと違い召喚生命体は簡単な命令をこなすから有り得る攻撃とはいえ、少しヒヤッとさせられた。


『SA8よりSA1、お見事でした。召喚生命体の数は残り四割弱まで減少。これならいけそうですね』


「ああ。そう思いたいよ」


 孝弘は心の底からの感想を口に出す。市街戦開始から僅か数時間で多数の召喚生命体が三回も出てこればそう言いたくもなるだろう。大隊規模の召喚ともなれば一度に複数人の召喚士が術式を行使して召喚した可能性が高い。となると、神聖帝国軍の兵数内にそれなりに優秀な召喚士が最低でも小隊単位でいることになるから、孝弘はため息の一つもつきたくなるわけだ。


(召喚士の絶対数が少ないからって見積もりを間違えたか……。いや、手札を出してこない限りは流石にそこまでは分からないから考えても仕方ないんだけどさ……。)


 孝弘は心中でそう思いながら四度目はやめて欲しいな。と独りごちる。水帆にはそれが聞こえていたようで、同感よ。とぽそりと呟いた。


「聞こえてたか」


「そりゃ隣にいるもの」


 孝弘のささやかな願い。しかし、現実は非情だった。


『SA8よりSA1、奥羽大東方面より新たな魔力反応キャッチ! 非常に分かりやすい、召喚反応です!』


「あったわね、四度目」


「そろそろ神聖帝国軍の指揮官をおもっきしぶん殴りたくなってきたな……」


 その四度目の召喚。現れたのは二体だったが、倒すのが面倒そうな個体だった。


『距離約一三〇〇出現した二体は黒い体毛を持つ熊の魔物らしき生命体。ただし、その体長は一〇メートルを越えます。召喚体特有の魔力以外の魔力反応キャッチ。法撃行使の可能性もしくは身体強化魔法を使う危険性あり。です』


「…………ったく、いつから地球は異世界ファンタジーになったんだか。てか、なんだよ、一〇メートル越える熊って……」


 孝弘は今日一番大きい悪態をついた。

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