第5話 郡山奪還作戦(3)

 ・・5・・

 孝弘が設定した七分まであと六分半。

 郡山北西部ではあちこちで猛攻撃が発生していた。既にフェアルで翔ける二個大隊が中型装置一つと小型装置二つが置かれている地区の周辺で交戦していた。

 しかし彼等とて瞬く間に装置を破壊出来てはいない。装置の周辺にはエンザリアCTがピンポイントに集中配置されていたからである。その数、中型装置の周辺に約二〇から三〇。小型装置の周辺には約一五から約二〇。郡山北西部の上空には攻撃ヘリでは迂闊に近づけない程に濃密な対空攻撃が敷かれていたのである。

 そのような激しい戦闘の中で、孝弘達は着実に郡山インター付近にあるマジックジャミング装置の方に近付いていた。


「SA4からの情報更新有。郡山インターポイントのマジックジャミング装置、ホームセンター内で確定。ここからの距離は距離約四〇〇〇。SA2、直接照準でピンポイントに当てるならどれくらいまで近づけばいい?」


「インターの向こうよね……。距離三〇〇〇までいけば建物ごと蒸発させられる法撃もアリだけれど」


「流石にそれは不味い。高速道路が数百メートルも消し飛んだら工兵隊の人達の仕事が恐ろしいことになるからな……。ちなみにだけど高速道路に気を遣って出力を落とすと、ちょっと照準を外すとこれだ」


「うわ……。可燃物が盛り沢山の工場じゃない。引火したら……」


「どっちにしても工場が吹っ飛んで高速道路も仲良くだな」


 少なくとも旅団戦闘団の工兵大隊長は勘弁してくれと言うだろう。


「うへぇ……。空からはどうかしら?」


「ポイント周辺にはエンザリアCTが十数体いる。SAはフェアルに不慣れか普通にしか使えないから、一度に撃たれるとしんどい」


「そうなるとある程度は近づかないと難しいわね。精密法撃は賢者の瞳とレーダーに頼っていたから、今は使えないし……。帰還する前の経験じゃ今の水準のピンポイントはやったことないもの。敵も中々嫌らしいとこに置いたわねえ……」


「郡山の敵指揮官が只者ではない証拠だな」


 孝弘は敵が嫌がることを率先してやれのやられる側を痛感して思わず舌打ちをする。

 距離は約三五〇〇まで近付くが、残り時間は六分を切った。SA小隊が、旅団戦闘団の部隊が、戦車連隊と随伴の歩兵部隊が猛進するが今のペースだと七分で済ませられるかというと微妙なラインだ。


『SA5《慎吾》よりSA1。提案があります』


「SA1より5。提案とは?」


『距離三〇〇〇を切れば自分の精密法撃でホームセンターだけ吹き飛ばす事が出来ます。SA6と7に座標観測してもらえば可能です。ただ』


「ただ?」


『エンザリアに迎撃されると効果が減衰します。無型三式は約五〇発近く放てますが、迎撃されればどれだけ着弾するかは未知数になります』


「となると、確実に破壊出来る保証は無いってとこか……。フェアル部隊の支援は……、無理だな。どこも手一杯だ。…………仕方ない。やるか。七〇一連隊長!」


『SA1、我等をお呼びかな?』


「セブンスと今からやり取りをするのでカバーを。あと、話した内容を始めたら援護をお願いしたく。時間が無いのでセブンスとのやり取りを聞いて頂ければ」


『何かいい案があるんだろう。相分かった』


「SA1よりセブンス。郡山インターポイントを解決するために承認を頂きたいです」


『セブンスよりSA1。聞こうか』


「今から私とSA2で郡山インターポイントをフェアルで超低空強襲します。その際、ポイント付近のエンザリアCTと周辺敵部隊の数を減らします。すぐに後続としてSA11~15が同様に超低空強襲。エンザリアCTの数をさらに減らし周辺にいる部隊も叩きます。これとほぼ並行してSA5が法撃観測支援のもと無型三式を発射。ポイントのマジックジャミング装置を破壊します。これで郡山インター付近のレーダーは回復します。Sランク二人とSAの中ではフェアルの扱いに長けている五人で実施する作戦です」


『よしんば作戦が成功しても、後続部隊がそこに着くまでどうするつもり?』


「SA3のゴーレムにSA8《宏光》、茜などを鋒として旅団戦闘団で一点突破。戦車連隊に全力でこれの支援を行って頂き、少なくとも郡山インターの手前まで来て頂ければ脱出可能です」


『脱出しなくて結構。私が前に出るから矛にもう一人追加しな。この際だから一気に郡山インター辺りまで確保する。海兵隊と陸軍が続々と到着してるし、橋頭堡はもう大丈夫。熊川、代理頼んだよ』


『了解しました』


「陸軍と海兵隊の仕事が早くて助かります」


『向こうも気合いが入ってっからね。その代わり必ず作戦を成功させなさい。責任は私が取る。旅団長の仕事だよ』


「ありがとうございます閣下。では、手筈通りに」


『Sランクの真髄を見してやりな』


「はっ!!」


 孝弘は璃佳との通信を終えると、彼は強襲に指定した者達を集める。


「事前の相談も無しに指名して悪いけど、貴方達だから出来ると信じてる。頼んだ。SA11、設楽中尉を分隊長とする」


「勲章一個貰いですね。任せてください」


「水帆、背中を預ける」


「相棒でもあるんだもの、任せなさいな」


「ありがとう」


 孝弘は水帆達に礼を言うと、この場に残る特務小隊の面々にも作戦を伝える。なるべく早めに来てくれると助かることを言うと、隊員達からは快諾の声が上がった。


「茜、主と共にこの場をお願いするよ」


「うむ。派手にやってくるが良い」


 ニコリと笑う茜に孝弘も微笑む。


「SA3、ゴーレムで派手に暴れてくれ」


『単純明快な作戦は大好物だ! 任せとけ!』


「第七〇一連隊長、急にすみません。お願いします」


『戦車の本分が果たせるんだ。文句なぞない。パパっと終わらせてきてくれ』


「了解しました。じゃあ行くか、水帆」


「ええ!」


「SA11以下五名は一分間を置いて来てくれ」


『了解!!』


 孝弘は一通りの説明を済ませると水帆と共にフェアルを起動。上空一〇〇メートル未満の超低空飛行で一気に郡山インター付近に接近する。


『警告。エンザリアCTから高密度魔力反応』


「早速かよ。随分と仕事が早いことだな!」


 孝弘は接近戦に備えて二丁拳銃の安全装置を外す頃にはすぐにエンザリアCTが反応した。


「SA2、着陸したら一気に叩くぞ」


『了解! 詠唱準備はとっくに済んだわ!』


『警告。光線魔法射出まで五秒』


「回避の後、着陸して攻撃!!」


『オーケー!! 楽しいパーティーにしましょ!!』


『三、二、一』


「回避!!」


 エンザリアCTのうち、孝弘と水帆を捕捉した七体が一斉に光線系魔法を放つ。二人はこれを回避。続けて九体からも光線系魔法を放つが、水帆が並行して詠唱していた魔法をデコイにしてギリギリ防ぐ。それでも光線系魔法が掠って孝弘は二枚を、水帆が三枚ほど魔法障壁が破壊されるがすぐに魔法障壁を展開し直していたから問題無かった。

 そして、ホームセンターまで到着。


「こんにちは、堕天使達」


「でもすぐ、さようならの時間よ!!」


 七分を迎えるまであと三分半。二人の猛攻が始まった。

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