第3話 郡山奪還作戦(1)

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 二月一日。郡山市奪還に向けた作戦が始まった。南からは第一戦線の部隊が攻勢を開始。さらにやや後に西からは第三戦線の部隊が攻勢を開始。郡山にいる神聖帝国軍の指揮官がこれまで相対してきた者と違い優秀である可能性は共有されていたから、今まで以上に徹底的な火力投射で圧倒しようとする。

 その中で孝弘達第三戦線の部隊は自分達の兵力からして過剰な戦力に対し、非常にシンプルな方法で撃破を試みようとしていた。


『直前空爆完了! 空域クリア!』


『よしっ! 空挺強襲部隊、磐梯熱海から安子ケ島区域に対して一斉法撃! 中級魔法で統一しなさい! 消し炭も残らない火力をぶっ食らわせてやれ!』


『了解ッッ!』


 璃佳の命令を受け取った第一〇一の強襲部隊は目標をロックすると、低高度侵入そのままに一斉に法撃を始めた。

 眼下に広がるCTの群れに対して放たれた法撃火力は今までの倍以上。非常にシンプルな方法とは、相手が想定していた以上の火力をぶつけるというものだった。

 火力こそ正義。数で優っていたとて、魔法の火の力で圧殺してしまえばそれまで。戦場の女神が拍手喝采を送るような圧倒的な火力がCTを襲うと、化け物であろうとも等しく命を吹き飛ばしていった。


『磐梯熱海区域クリア!』


『安子ケ島区域、敵がやや残る!』


『間髪入れずに第二撃だ! 放て放て放てェ!!』


 息付く間もなく一個大隊規模の一斉法撃が放たれる。次々と法撃に貫かれ、焼かれ、刻まれていくCTはバタバタと倒れていき、冬の朝に骸を晒していく。


『安子ケ島区域クリア!』


『喜久田方面の敵が早速反応した!』


『SA部隊展開! 頼んだよSA1!』


「SA1よりセブンス了解。周辺部隊、着陸後は順次援護を頼みます」


『了解!』


『任せてください!』


『サー!!』


「フェアル部隊へ。上空援護をお願いします」


『了解した!』


『了解!!』


「SA総員、安子ケ島駅東に着陸。以後、喜久田から迫る敵に対して法撃火力投射。SA3、部隊全面に土属性の壁を作った上で魔法障壁の展開を」


『SA3了解! 任せな!』


 第一〇一魔法旅団戦闘団のうち地上を任された部隊が次々と着陸していく中で、孝弘達も安子ケ島駅の東に着陸していく。


『さぁさぁ、俺が来たからにはここが難攻不落だ! 土壁は土壁にあらず、それは鉄壁なりってな!』


 大輝は土属性中級魔法を発動。友軍がこの後通る道と攻撃の為に必要な場所を除いて高さ一メートル半を越える土壁を作り上げる。土壁がない所には特務小隊の面々や着陸した旅団戦闘団の隊員達が展開していく。即席の防衛線を僅かな時間で作ってみせたのだ。


『どうせこの先でも同じことするから臨時みたいなもんだけど構わねえよな?』


「それでいい。大輝が作る本気のヤツをここで作ってたらいくらお前でも魔力が足らないだろ?」


『そりゃそうさ。ま、ここで敵を迎え撃って区切りがついたら先に進もうぜ』


「ああ」


 大輝と少し先の予定まで再確認していくと、孝弘は対物ライフルの用意――敵の数が数だけに途中までは三〇ミリの試製三六式を使うつもりだった――をしていく。


『セブンスよりSA1。そっちに茜を送った。安子ケ島で一緒に迎撃し、途切れたら喜久田まで突撃しなさい』


「SA1よりセブンス、了解。増援感謝します。茜がいるならとても心強いです」


『切れる札は早々にベットするに限るからね。状況に応じて私も向かうからよろしく。あと、南からの装甲部隊が今向かってるからそれまではSAの火力を頼りにしてる』


「了解です」


 璃佳との通信を終えると、孝弘は特務小隊の全員に簡単に命令を伝えていく。

 孝弘達が即席防衛線で敵を待ち構える間も上空のフェアル部隊は迫るCTを法撃、銃撃する音がけたたましく響いていた。


『SA4よりSA1。CT第一波が接近。一個連隊規模だよ。一〇時方向の敵別働CTも接近中。こっちは二個大隊規模』


「最初から遠慮無しとは大歓迎だな。SA4はレーダー観測に集中。友軍に情報提供を続けてくれ。併せて南の装甲部隊とも連絡を」


『了解だよ!』


「水帆、一人砲兵隊になってくれ。あの数を今いる人数で支えるにはとにかく火力が欲しい」


「任せなさいな。私が皆の女神になってあげるわ」


「よろしく頼む」


「ええ」


「数日ぶりじゃの、孝弘や」


 孝弘が指示を出しながらマガジンに砲弾を装填した頃、今ではもう聞き馴染みになった声音が聞こえる。先程通信にあった茜が早速到着してくれたのだ。


「思ったより早い現着だな」


「主の命じゃからの。儂がおれば千人力じゃろ?」


「千人力どころか万人力さ」


「嬉しい事を言うてくれるのぉ。ならば、張りきるとしようか」


 迫るCTがいる方向に視線を移して牙を見せる茜。既に彼女の周りにはいくつもの狐火が漂っていた。


『SA4よりSA1。第一波の距離、もうすぐ一〇〇〇切るよ!』


「了解。総員、九〇〇で攻撃開始だ」


『了解!』


 距離九〇〇を着る時はすぐ訪れた。

 孝弘は試製三六式の砲弾を放ち、水帆は詠唱準備をしてきた中級魔法を発動。大輝は周りが準備をしている間に顕現させたゴーレム五体を向かわせる。慎吾やアルトにカレン、宏光など特務小隊の隊員達に防衛線にいた者達も一斉に法撃を始めた。


「火属性爆発系ハイチャージ。目標ロック。ショット」


「焼け、焼け、焼き払え。地を燃やせ。『豪炎放射グレートフレイム』」


「祭りじゃ祭りじゃ! 狐火達の祭りじゃぞ! 舞え、踊れ、苦しんで死ぬが良いわ! 『狐火大祭典きつねびだいさいてん』!」


「武士達、やっちまえ!! 首を切り落としてやれ!」


 孝弘、水帆、茜の攻撃は前方にいるCTを吹き飛ばし、燃やしていく。大輝のゴーレム達はバターを切るように容易く大型CTの首が飛んでいく。


『――魔弾よ、僕らの故郷を侵す不埒の輩を貫きたまえ。バケモノ共は蜂の巣に。バケモノに相応しき末路を用意せよ。この地にお前達の生きる場所は無し。無型三式、『魔弾達バレッツ舞踏会ダンス』』


『一つは二つ。二つはつ。四つはつ。八つからさらにさらに分かれよ。風の矢は豪雨の如く降り注ぐ。『暴風矢ストームアロー』!!』


『雷神の槍は今我の手にあり。雷神の槍は全てを貫き、防ぐ術は無し。『雷神投槍ライトニングスピア』!』


 慎吾、カレン、アルトの法撃は孝弘達の法撃をくぐり抜けたCT達を地に伏せさせていく。三人の法撃を食らったバケモノ達は二度と立ち上がることは無かった。


『地獄の炎は遍く全てを等しく消し去る。さあ裁きの時だ。目の前から消え失せろ。『煉獄火焔パーガトリーフレイム』』


 宏光の火属性・闇属性の二属性混合魔法は大型CTから小型CTまで区別無く焼き消していく。

 特務小隊の者達が、フェアル部隊の隊員達が、ここにいる全ての魔法能力者が放つ攻撃がCTを襲う。一個連隊と二個大隊のCTは殲滅されていった。


『BCTCRより旅団戦闘団各員へ。第一波を殲滅。ただし第二波が既に前進を開始。五分の間を置いて来ます。引き続き警戒を』


『セブンスより前線各員。前線を喜久田駅北西方面から郡山インター方面まで拡大しなさい。第二波が到達する前後で装甲部隊が合流出来るからとにかく押しまくれ。火力は一切緩めるな』


 璃佳の命令を受領した各隊は、一個の巨大生物のように東へ、南東へとCTの死体には目もくれず動いていく。


『こちら第七〇一戦車連隊。間もなくそちらに合流する。連隊麾下機械化歩兵部隊は道中の友軍部隊がCTとの戦闘中に数が必要になったから少し置かねばならなくなってな。作戦予定より少し減ったが、こちらも合流可能だ。ただそちらへの増援目的でやや強引に突っ込んできた。しばらく戻るつもりはないから弾薬の補給など面倒をみさせてくれ』


『セブンスより第七〇一戦車連隊へ。増援感謝する。こちらは橋頭堡構築からまだしばらくも経ってないからすぐの補給は不可能。ちょっとの間は自給出来そうか? 特に戦車砲弾は当初予定補給通りにしか出来ない』


『構いません。ウチも歩兵部隊もしばらくは手持ちでいけます』


『了解。強行軍ご苦労だった。ありがとう』


 そこそこに無理やりにやってきたらしい戦車連隊と麾下の機械化歩兵部隊――パワードスーツ部隊ではなく、機動戦に参加することを前提とする部隊のこと――は郡山西部第二工業団地の近くまで辿り着いていた。

 磐梯熱海には西から陸軍や海兵隊の部隊が少しずつ到着していく。

 相変わらずCTの数にはため息を吐きたくなるが、火力で押し切る作戦は上手くいっていた。

 だが、神聖帝国軍とて易々とやられるつもりはないようだった。

 孝弘達最前線の部隊が喜久田駅付近まで展開し、大輝が即席の防衛陣地を作り終えた時だった。


『…………えっ?! うそ?! SA4よりSA1へ緊急連絡!! 郡山北西域及び北部域……、いや、郡山市中心街以北の全域がレーダーダウン!』


「なんだって!?」


『でも通信は感度が少し悪くなったけど使えてる……。これって……。ああ、分かった! SA1、神聖帝国軍は簡易マジックジャミングに類似した何かを使ったかもしれない!』

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