第7話 喜多方・会津坂下の戦い(2)

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 第一〇一魔法旅団戦闘団の二個大隊に孝弘達特務小隊と、神聖帝国軍召喚士が召喚したゴーレム一五体にCT増強一個連隊規模約三〇〇〇(大型CT五〇を含む)は阿賀川南岸で激突した。

 実はこの時点で一〇一の二個大隊等は作戦目標の一つを達成している。会津坂下に迫っていたCTの数は約七〇〇〇。その内の半数近くを二個大隊等のみで誘引したのだ。いくらフェアル部隊と戦闘機部隊の航空支援があっても、空挺投下された海兵隊と陸軍だけでは対処困難な数である。そのうち半数近くを自らの方に向けさせ、今も会津坂下方面に向かっていたCTを引き付けたのだ。既定路線だったとはいえ、海兵隊と陸軍の将兵は胸を撫で下ろしたという。

 一〇一の二個大隊等は大輝が作りだし、他数名の土属性魔法能力者が補強した渡河用経路を渡って高速突撃を敢行。強烈な初撃を与えんが為、各員が詠唱を終えていた。


『各員、敵前面に対して各個法撃!』


 大量の初級魔法、中級魔法がゴーレムとCTに降り注ぐ。小型のCTは吹き飛び、中型のCTは身体に穴を開け地面に沈んでいく。

 雪と粉塵で作られた粉塵を抜け出してきたのは敵のゴーレムだった。


(敵のゴーレム、中々の硬度をしてやがるな。だが、オレのゴーレムの敵じゃあねぇ)


 大輝はあまり数が減らなかった事を確認すると、魔法陣を五つ作り出す。現れたのは土属性魔法で作られた巨大な薙刀。ゴーレムが持つには適度なサイズだった。


「土の武士よ、使いな!!」


 魔法で薙刀をゴーレム達に渡すと、受け取った彼等は胸を叩いて感謝の意を伝えると勇猛果敢に敵のゴーレムに突っ込んでいく。


「やったれぇ!!」


 五体のゴーレムはそれぞれの目標に向けて叩きつけるような斬撃を与える。

 敵のあるゴーレムは左腕を切断させられ、あるゴーレムは胸部をバッサリと斬られ地面に崩れ落ちていった。またあるゴーレムは二撃目に柄の部分で殴打をくらい吹き飛ばされると、刃を顔面に突かれ行動を停止していった。

 もし全てのCTに感情があったのなら衝撃の光景だったろう。タンク役も果たすはずのゴーレムという壁は脆くも崩れ去ったのだから。

 あっという間に敵ゴーレムの半数が潰れたことで一〇一の二個大隊等は戦いやすくなった。それぞれの部隊員が法撃を繰り出し、それでも接近するCTはアルトを始めとする近接戦に長けた者達が斬り伏していく。


「水帆、大型CTが接近!! 数は四!!」


「任せなさいな!!」


 孝弘の報告を聞いた水帆は短縮詠唱をすると、


「――『炎弾乱舞フレイムダンス』!!」


 多数の炎の弾が大型CT四体を襲い丸焦げになった。


「撃破!」


「よし! 特務小隊、さらに押し込め!!」


『了解!!』


『NBTL2《北特団第二大隊長》より、SA1へ。四〇〇メートルより先の突撃は控えてください。左右から私達でクロスファイアを行い、敵を分断。その後に突撃を。共に突っ込みます』


「SA1よりNBTL2へ。了解。近傍の敵撃破優先に切り替える。頼みます」


『お任せを』


 無線が切られると、左右に分かれていた北特団第二大隊は目標をロック。松坂はほんの少しだけ敵を引きつけると、


「第二大隊総員、交差法撃クロスファイア。純白の大地を真紅に染め上げなさい」


『サー、イェッサー!!』


「放て」


 北特団第二大隊の真髄、大隊統制集中法撃が始まった。

 四〇〇メートルより先にいた複数の大型CTを含む一群に目掛け、火属性中級魔法が降り注ぐ。まるで大量のナパーム弾が投下されたかの如く大爆発が巻き起こった。


「ふん、造作もないですね。消毒には丁度いいでしょう。さぁ、もう一発。消え失せなさい」


 松坂は満足気な顔つきで頷くとすぐに二発目を命じた。再び大爆発が生じた。


「うっわ……」


「あれじゃあ塵も残らないでしょうに……」


 近くにいた敵を銃で倒した孝弘と法撃で数体のCTを刻んだ水帆は少し向こうで起きた現象に少し引いていた。敵単体の防御力だけを考えれば明らかにオーバーキルの威力だった。

 北特団第二大隊がまとめてCTを吹き飛ばした結果、形成は一気に孝弘達優勢に傾く。この頃には大輝のゴーレム達が敵のゴーレムを一体残らず撃破していた点もあるが、三〇〇〇いた敵は半数近くまで減っていたからである。

 こうなればあとは精鋭達の独壇場である。

 水帆や知花、慎吾に宏光がCTを吹き飛ばし。

 孝弘やカレンが中距離で大型CTなどを貫き。

 アルトや大輝が近接戦でCTを叩き切る。

 二個大隊と特務小隊によってCTは大小の区別無く次々と屠られていき、さらに数を減らしていった。

 だが、敵もタダでは終わらせないようだった。


『SA4より各部隊へ。部隊一〇時方向と一二時方向より新たなCTの一群を確認。数は二〇〇〇と一五〇〇。一〇時方向の一群にはエンザリアCTの反応も確認。これまでのエンザリアより魔力反応がやや強い。数は九。エンザリアCTが先行、速度五〇。距離三三〇〇』


『SA4了解。SA1よりNBTL2及びSBTL1《特務連隊第一大隊長》へ。一〇時方向の射線を開けるように。SA3、万が一に備えて魔法障壁を俺の前面に。SA2、4。左右の各二体任せた。中央五体はまとめて吹っ飛ばす。距離一五〇〇で同時攻撃。特務小隊各員、俺の周辺を頼んだ』


『NBTL2了解しました。こちらは後方のCT群を対処します』


『SBTL1了解。頼んだぜ』


『SA3了解。任せとけ』


『SA2了解したわ』


『SA4了解だよ』


『了解っ!』


 知花の報告の直後、孝弘は速やかに各位へ連絡をした。部隊長の二人は孝弘の射撃の腕を知っているからすぐに孝弘の射線を開けるよう部隊を動かしていく。大輝は孝弘の横に立ち魔法障壁を展開。水帆と知花は法撃の準備にかかり始めた。特務小隊は射撃に集中して無防備になる孝弘のカバーにまわり始める。

 孝弘は背負っていた対物魔法ライフル――これがあったから孝弘はあまり機動戦闘をしていなかった――に武装を切り替えると身体強化魔法を自身に付与。いつものような伏せ撃ちではなく、片膝をついた姿勢をとった。


「なあ孝弘。撃てそうか? 三キロ先なんざ見えないぜ?」


「雪で視界が悪いな……。あまり使ったことは無いけど、コイツが一番だ。『賢者の瞳、エンザリアCTを魔力波長探知形式でマーク』」


『魔力波長探知形式、エンザリアCTのマークを完了』


 無機質な音声が孝弘の耳に届くと、彼の視線にはエンザリアCTのいる方に小さな四角形が表示された。雪によって目視では確認できなかった敵だったが、これであれば孝弘ならば狙うのは容易かった。


「五体は比較的密集しているな。よし、新式弾薬ならいける。大輝、耳の保護を」


「おう」


「魔力ハイチャージ。属性、火属性爆発系近接爆発方式。距離、二〇〇〇。まだ引きつける。一七〇〇、一六〇〇。今。ショット」


 孝弘が対物魔法ライフルによる射撃をしたのと同時に、水帆の火属性爆発系中級魔法と知花の光属性中級魔法がエンザリアCTに向けて飛んでいく。

 孝弘が放った銃弾は中央にいるエンザリアCTの眼前で爆発。水帆の法撃は着弾と同時に爆発し、知花の法撃はエンザリアCTを貫通した。


「九体オールクリア」


 エンザリアCTが排除されたことで一〇一の将兵達から少しの間だけ歓声が上がる。


「これで脅威度は低下したな」


「オレの出番が無くて良かったな。エンザリアCTの光線系魔法は受けずに済むならそれが一番だからよ」


「ホントにな。とはいえ、まだCTはうじゃうじゃいる。安全に橋頭堡が構築出来るようにする為にも、まだまだやるぞ」


「おうよ!」


 それから数十分の間CTとの戦闘が続いたが、さすがにバケモノ達の流入量も緩んだからか順調に数は減っていき、一時間半後には会津坂下地域のCTは粗方撃滅された。

 そう経たないうちに会津若松方面からCTの侵入が予想されているものの、この少しの時間は橋頭堡構築部隊にとっては何事にも変え難い貴重な作業時間となり、加えて喜多方と会津坂下の二つの橋頭堡を結ぶ戦線も繋がったのであった。

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