第6話 切り札は投じられる
・・6・・
同日午後3時過ぎ
東京都葛飾区新小岩地区
千葉西部方面迎撃新小岩急造防衛ブロック
『立川HQより新小岩DB。当該地域敵第四波、八割を撃破。第五波、約二五〇〇〇到達まであと一五分』
『新小岩DB、1SRBTR3より立川HQ。新小岩DBの外縁部は防衛線としての機能を先程喪失。セブンスからの命令により、当DBは外縁部を放棄。DB中央地区での迎撃を開始する』
『立川HQより新小岩DBへ。了解。既にセブンスから上申がありHQはこれを許可する』
『割込失礼。こちらICHQ(統合司令本部)。前線の諸君らに朗報を届ける。速達便は当初予定より配達が一時間早まる。投入予定時刻は
『立川HQよりICHQ。最高の朗報です。頼みます』
『ICHQより立川HQ。速達便チーフより伝言だ。我等は我等の務めを果たすまで。貴官等の奮戦に必ず報いる。以上だ』
『立川HQよりICHQ。了解。本通信は全軍に伝わっています。引き続き速達便のサポートをお願いします』
『ICHQ了解。通信以上』
孝弘達のいる新小岩DBを含め東京都心外縁部にて激戦を続ける将兵達に待ち望んでいた時が来た。しかも一時間早い配達。この通信に全将兵が歓喜した。
あと二時間があと一時間となったのだ。出発を早めてくれた者達に彼等は感謝し、ならばもうひと踏ん張りだと奮起する。
新小岩DBに到達した第四波のかなりを片付けたことで僅かながら休憩時間を与えられた孝弘達もまた、この通信を聞いていた。
「あと一時間! 助かる! 三人とも聞いたか!」
「ええ、それだけの時間で済むならまだやれるわ!」
「ホントにありがてえぜ! 魔力もカツカツだしな……!」
「孝弘くんが魔力残量四六パーセント。対物狙撃砲は残弾二マガジン。水帆さんが四八パーセント。大輝くんは四五パーセント。私が四二パーセント。五時までは余裕で戦えるにしても、心許なかったもんね……」
昼過ぎには火力投射の問題上で四人とも固まって攻撃を行っていたから、通信ではなく普通に会話を交わしていた。四つのマンション(砲座)が破壊されており、今彼らがいるのは地上一八階建てのマンションの最上階。四人は引き続き固定砲台としての任務を果たし続けていた。
「さて、あと五分は休めるから魔力残量以外の確認をしよう。大輝、ゴーレムは残り四体だったな?」
「おう。ここまでの戦いで一度に出せる一〇体全てを出して六体がやられた。手持ちの召喚符は三枚だけあるが、魔力残量を考えると余程が無い限り出せねえ。土人形将軍(ゴーレムジェネラル)は以ての外だ。カラッケツになっちまう」
「分かった。大輝は法撃はやや控えめで、敵の進路妨害を中心に頼む。防衛ラインが少しだけ下がってここが境界線だ。けど、進路を限らせればまだ下にいる人達も戦えるはずだ」
「おうよ」
大輝は胸板をどんと叩いて答える。
「水帆、知花。準戦術級を発動した場合、何発やれる?」
「私の魔力でもあと三発か四発。魔力切れで気絶してもいいなら五発ね」
「私はあと三発が限界かな……。面制圧の上級魔法なら何発か……。多くて一〇発」
「あと一時間とはいえ不測の事態に備えて少しは残しておきたい。二人とも準戦術を一発は撃てるだけは残しておいてくれ」
「分かったわ」
「了解だよ」
「頼んだ。俺は長浜少佐に今の話を伝える」
孝弘は長浜に通信を繋げて自分達の現状の話をしていく。
『了解したっす。四人のお陰で新小岩DBはかなり被害を抑えられてる。キミ達の戦い方はキミ達に一任するっす。あと一時間頼んだっすよ』
「了解しました」
『ああ、それと』
「? なんでしょう?」
『もう何ヶ月も戦ってる戦友なんすから、敬語は抜きにしないっすか? 私のこれはまあ癖みたいなもんですけど、同じ階級なんだから気さくに、ね?』
「わかり、了解。今までの話し方が抜けるまではちょくちょく敬語が出るけど、善処する」
『それでオッケー! 三人も同じっすよ?』
「ええ、分かったわ」
「おうとも」
「が、がんばってみる……!」
『はははっ! やっと同友っぽくなってきた。さぁ、あと一時間、戦い抜くっすよ!』
孝弘達四人は各々が返答をすると通信が終わる。
「第四波、九割を撃破みたい。でも、あれ。第五波だね。飽きもせずうようよいる。最前方、距離約一〇〇〇〇」
知花が第五波のCTを有視界に入ったことを告げると、全員の顔つきが変わった。
「第五波、距離約五〇〇〇!」
「まずは俺からだ」
第五波は時間通りに到達した。
孝弘は砲身冷却を終えた機関砲を伏せ撃ちの状態で狙いを定める。
「魔力チャージ。目標、超大型。距離約四五〇〇。火属性爆発系。――ショット」
「火を纏いし岩は、隕石のように降り注ぐ。抉れ、焼け。燃やし尽くせ。押し潰されよ! 『
孝弘の銃撃に続き、水帆は火属性と土属性の複合上級魔法を発動する。魔力節約の為に短縮詠唱だったが、威力は十分だった。
「気張れェ、ゴーレム!! 敵をぶっ飛ばせ!!」
大輝はゴーレムに硬化魔法と加速魔法を付与し、彼等に号令を出す。ゴーレム達は両方の拳をぶつけると、勇猛果敢に突撃していく。
「光の槍は神の裁き。穢れた命を浄化し、消し尽くす。数多の槍は降り注ぎ、断罪の使者達は訪れん。『
知花が短縮詠唱ではあるが上級光属性魔法を発動すると、天から降り注ぐ光の槍はCT達を貫いていく。
あと五〇分。
あと三〇分。
あと一五分。
誰もが必死に戦いながらも時計をちらりと横目で見ていた。
新小岩DBにおける死傷率は約八パーセントを超えている。二桁ともなれば今後に大きな影響を与えかねない。
一分でも早く、この戦いを終えたい。
その願いは確かに翼を持つ戦士達に届いていた。
『立川HQより総員へ。特殊爆撃飛行隊は高度一三〇〇〇を維持し静岡市上空に到達。到着まであと一〇分』
立川HQから切り札があと少しで着くことが知らされる。孝弘は戦いながらも賢者の瞳の広域レーダーで確認すると、爆撃機が六機と護衛だろうか戦闘機が一八機表示されていた。
(戦時体制とはいえ一日足らずで切り札含めてよく用意出来たもんだよ。空軍のCTに対する恨みは銚子で積もっているだろうし、さながらペイバックタイムってとこか。)
爆撃機編隊は順調に近付いてくる。新小岩DB含め各DBや東京方面の戦線、九十九里方面はもなんとか持ちこたえている。
『立川HQより総員。特殊爆撃飛行隊は東京方面と九十九里方面に分かれ、飛行中。東京方面には四機。九十九里方面には二機』
『ボマー1より東京方面各部隊へ。超高濃度魔力拡散反応弾の投下座標を送信する。誰もいないとは思うが効果直径内からの至急退避を求む』
孝弘の賢者の瞳にも投下座標が送られる。効果直径を示す半透明の赤い円は多数に広がっていた。戦線全てを覆うことは叶わなくとも、半分はおさめられている。一つの円は直径約一キロメートルと大きくはないが、それが多数なのだからそこそこにカバーが出来ていた。
(頼む。頼むぞ。これがあるだけで楽になる。勝てるんだ。)
『ボマー1より各DB。投下地域は戦線から約四キロと離れているが注意されたし』
爆撃機隊は投下コースに入った。
あと三分、あと二分。その間も法撃は続き、砲撃は止まず、銃撃の音は絶えず広がる。しかしそれは戦線から四キロ以内しか狙っておらず、それより向こうの攻撃はされなくなった。
あと二〇秒、あと一五秒。
「三人とも、対爆撃ショック体勢! 魔法障壁展開!」
孝弘は大声で水帆達に伝える。
一つの円が直径一キロなのだ。効果直径から四キロ離れていたとしても備えるに越したことはない。
あと五秒。二秒、一秒。
『特殊爆弾投下!!』
切り札は投じられた。爆撃機隊は投下直後に全速離脱を始め、護衛の戦闘機隊は爆撃機の護衛につきつつも、偵察のために何機かは残る。
高度八〇〇〇になると、投下されたそれぞれの爆弾から子爆弾が散らばっていく。
『レーダー誘導よし! 全ての子爆弾、投下予定地で間もなく起爆! 起爆高度五〇〇!』
高度四〇〇〇。三〇〇〇。二〇〇〇。
この頃には一キロ以内に近づいてきたCT以外の攻撃は止めていた。その攻撃も対ショック姿勢をとる頃には歩兵や砲兵の攻撃は中止している。戦車や自走砲だけは爆風に耐えられるからと攻撃は続けていた。
高度一五〇〇。一〇〇〇。
そして、五〇〇。
瞬間、目を覆わなければならないほどの光と凄まじい爆音が戦線全体を支配した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます