第4話 九十九里浜南部方面上陸作戦開始
・・5・・
目新しいタイプが出てこないとはいえ相変わらず数の暴力で押してこようとするCTに対し孝弘達や今川中佐達が善戦する中で、九十九里浜沖に控えていた上陸部隊はついに動き始めた。
午前五時四五分。九十九里浜方面上陸軍の最先鋒、海兵隊一個師団が続々と上陸を果たしていく。それからやや遅れて――実際は海兵隊第一陣と第二陣の間だが――魔法軍一個連隊も上陸。慎吾と双子兄妹はこの一個連隊に同行していた。上陸ポイントは六つに分けられた中の真ん中。北にも南にも行動しやすい位置だった。
時刻は間もなく日の出を迎える午前六時五〇分。各ポイントに上陸した海兵隊諸部隊は既に橋頭堡構築の為に前進する部隊と防衛陣地構築を任とする部隊に分かれ行動を始めており、海兵隊と同行した魔法軍の一部も魔法を用いて陣地構築を行っていた。
その中で慎吾と双子兄妹は、目の前に広がっている殺気立った将兵達の覇気を目にして二つの感情を抱いていた。
「懐かしい空気だなあ。のんびり過ごしたかったのに行かざるを得なかった戦場で味わった雰囲気だよ」
「速やかな上陸後の展開。規律と連携の取れた行動。最新鋭の兵器。末期症状だったあの
「だろうねー。もしアレが無かったらCTがぞろぞろ出てきただろうしー」
「まあでも、奥にはうようよいるんだろうな。何せCTの数は有象無象なんだし」
「大網白里辺りまでならともかく、そこから北や西はマジックジャミングでまだ分かんないんだっけ。油断せずに行かなきゃねー」
慎吾は転移してからの事を思い出して懐かしみ、アルトとカレンは友軍の精強さに感心する。
「アルト、カレン。上陸作戦は時間の勝負だ。予定通り、連隊に合流するよ」
「はい、先生」
「了解しました、先生ー」
二人は上陸をしてから付近にいる魔法軍の連隊――魔法軍師団第五一旅団第五〇一連隊――と合流する為に前に進む。
目的の連隊は比較的すぐに見つかった。
装甲車等も続々と上陸をしている中で慎吾は連隊長を見つけると、
「柊木大佐! お待たせしました、鳴海です!」
「おお、鳴海大尉! すぐに会えて良かった! 上陸の際にちいとばかし手間取っちまってな、混雑してて予定より上陸ポイントがズレたんだ」
慎吾達が合流したのは第五〇一連隊の連隊長、
慎吾と柊木はかれこれ三年定期的に顔を合わせる仲である。
帰還後からしばらくして慎吾と双子兄妹は政府の帰還組保護チームによって様々な援助と仲介を受けていたが、そのうちの一つが非公式ながら魔法軍との訓練だった。
帰還者は戻ってからの定職を探すのが難しい。慎吾のようにかつての常識を維持しており大人としての振る舞いが取れている者ならともかく、そうじゃない者もいる。そこで政府は就職援助や帰還者だからこそ出来る役目を提案しているのだが、慎吾は双子兄妹が学校に通いたいという希望もあり早めに金策が必要となった為、魔法軍の訓練相手として定期的にこの連隊と交流があったのだ。それが三年の仲の理由である。三人がこの連隊に配置される事になったのも、旧知の仲だからであった。
「総員、鳴海家が来てくれたぞ!」
「おおお!! それは心強いですね!!」
「鳴海家が来てくれたんなら鬼に金棒だ!!」
「アルトくん、今日は頼むぜ! 背中は任せな!」
「はいっ、お願いします!」
「カレンちゃん、今日もカッコイイし可愛いぞー!!」
「ありがとー。私は皆を守るし、皆も私を守ってねー」
『もちろんさ!!』
連隊の面々はアルトやカレンとも何度も会っているから、この通り仲良さそうに会話を交わしている。戦場に身を置いているからか、いつもよりややハイテンションだが。
「慎吾大尉、来てくれて早々に悪いが行動確認だ。連隊のヤツらにゃ伝えてあるが、あんたらには細かい事までは話してない。早速行動に微修正が入った」
「了解しました。アルトくん、カレンさん。こっちに」
『はい、先生』
アルトとカレンが慎吾の所に来ると、柊木は賢者の瞳――三人はもちろん装備している――を使って説明を始めた。
「俺らが上陸したのはここ、ポイント3だ。ここに上陸した部隊は白子と上総一ノ宮方面に分かれるんだが、俺達が向かうのはそっちじゃなくて白子の方だ。無人偵察機によると、上総一ノ宮や茂原の方は想定していたよりCTがおらんみたいでな」
「なるほど。では、上総一ノ宮を経由して白子ではなく、直接白子にということですね」
「そういうことだ。連中はそろそろ俺達が上陸した事を察知しているはず。となると、首都方面からの出入口が広い大網白里や敵根拠地の一つに近い銚子方面からゾロゾロ敵が出てくるはず。てわけで、早めに俺らは大網白里方面に向かうってわけだ」
「了解しました。白子や大網白里方面の敵はどうですか」
「白子は先の準備攻撃でかなり片付けられてるそうだが、生き残りが向かってるらしく海兵隊の最先鋒と魔法軍のフェアル部隊があと一時間くらいで交戦ってとこだ。大網白里は案の定CTがゴロゴロいやがる。こっちも準備攻撃でそれなりには片付いたがその内千葉方面や銚子方面から来るだろうから、俺らが大網白里の手前に来たあたりで本隊も来るんじゃねえかな」
「ありがとうございます。大体把握しました」
「ほんと話が早くて助かるぜ。つーわけで移動だ。連隊もほぼメンバーはそろったからな。あんたらは俺に付いてきてくれ。途中からは最前面についてもらう」
「了解です。アルトくん、カレンさん。状況は把握しましたか?」
「はい先生」
「大丈夫ですー」
「よし! んなら行くぞ!」
『了解!!』
簡単な作戦説明を受けた三人は柊木と共に、揚陸を終えた指揮通信車に乗り込んで白子に向けて移動を開始する。
白子に向かう道中で、海兵隊や魔法軍の軍人とすれ違う。空には魔法軍のフェアル部隊。日の出の眩しい空の中で頼もしい姿を見せてくれていた。
午前八時半。慎吾達を含む第五〇一連隊は先鋒隊が白子に到着。既に残党狩りはおわっているようで、柊木はこの地に連隊の一時拠点を置くことに決める。
「じゃあ、こっから先は頼むぜ。向こうには海兵隊が一個連隊、魔法軍も先遣隊がいるはずだ。陸軍も続々と上陸を始めているからすぐに後ろから友軍はやってくる。俺達もすぐに向かうから安心して戦ってくれ」
「分かりました。では、また後ほど」
「おう!」
有望な戦力である慎吾達はここには留まらずさらに先に進む。
近くにいたの魔法軍の装甲車に同乗し、三人は最前線に向かう。
「慎吾大尉。今のところ海兵隊の一個連隊と先に進んだ別の旅団のうち先遣一個大隊がここから三キロ先でCTとの交戦をしています。徐々に敵が増えているそうなので、到着してから早々ですみませんが、火力を叩き込んでやって下さい」
「了解。そのための僕達だからね。任せてくれ」
男性士官から短く状況を聞くと、慎吾は頷いて返答する。
装甲車は戦場では無意味と化している法定速度を無視した速度で飛ばし、すぐに最前線に到着した。
迫撃砲。機関銃。小銃。ロケットランチャー。法撃。上空からのミサイルと機関銃。大量の音に支配された最前線だ。
「ここで降ろしてもらおうかな!」
「了解! よろしく頼みました!」
装甲車は一時停止すると、慎吾達は降車。三人は前線へと走っていく。
「アルトくん、カレンさん、戦闘準備!!」
「了解です先生!!」
「はーい!!」
三人は駆ける。
慎吾が左手に持つのは魔法長杖。
アルトが右手に持つのは斬撃に魔法が宿るようにと魔法石と宝石が散りばめられた魔法長槍。
カレンが背面に背負っているのは魔法攻撃を可能にする為に魔法石が埋め込まれた
「前線部隊とCTとの距離、約四〇〇。火力不足だねえ。敵の数が多すぎる。僕達で押し潰すよ。アルトくん、一番近づいたヤツらを槍で切り伏せて。カレンさんはアルトくんに近づくCTを射殺すように。僕は近づくCTをぶっ飛ばす。オーケー?」
「了解、先生」
「任せてー、先生」
「では、戦闘開始」
友軍との距離が約三〇〇になった時点で三人は身体強化術式を発動して一気に加速。特に前衛であるアルトは時速約七〇と自動車並みの速度で走り抜ける。
「友軍へ通達。一番敵が迫ってる部分の射線を開けるよう!!」
「あ、ああ、了解!! 射線を開けろ!! 味方が押し通るぞ!!」
「味方だって!? 助かった!!」
慎吾が無線で前方の部隊に連絡すると、すぐさま前にいた海兵隊の部隊はCTが最も接近している所の射撃が止み、アルトが進む通路が出来る。
「ありがとう!! バケモノ共は俺に任せな!!」
味方とすれ違いざまにアルトは獰猛な笑みで言うと、さらに加速。その速さは時速約八〇。高速道路を走る自動車の勢いでCTの前に現れると。
「バケモノ共に葬送の一撃を!!『
アルトの得意属性は雷。彼が長槍を横凪ぎすると同時に生じるは雷の光。瞬後、落雷を思わせるような雷鳴が鳴り響く。
アルトの横凪ぎの範囲にいたCTは直撃を受け、丸焦げと化す。
もちろん、それで終わるはずもない。間髪入れず、次の攻撃が行われる。
「一つは二つ。二つは四(よ)つ。四つは八(や)つ。八つからさらに分かれよ。風の矢は豪雨の如く降り注ぐ。『
アルトの前面にいたCTに襲いかかるのは、カレンがコンパウンドボウから空に向けて放った一本の矢は二本になり、四本、八本、十六本と増え、頂点に達すると大雨のように降り注いだ。それも、風属性を伴って。
カレンの得意属性は風。コンパウンドボウの特性上、通常の弓より射程距離が長いのだが彼女が放った矢は風属性で射程がさらに伸び、小銃並の射程まで届いていた。
無数の矢は多数のCTに刺さり絶命へと誘う。アルトの周りにいたCTは数をかなり減らしていた。
双子兄妹による凄まじい攻撃は二人が限りなくSランクに近いA+ランクに相応しいものであった。
だが、まだ終わらない。二人が攻撃し、海兵隊の軍人達が射撃を行うなかで慎吾は詠唱のほとんどを終えていた。
「――魔弾よ、僕の故郷を侵す不埒の輩を貫きたまえ。バケモノ共は蜂の巣に。バケモノに相応しき末路を用意せよ。無型三式、『
慎吾に得意属性は無い。基本五属性はある程度使えるが、応用二属性は使えない。魔法障壁の密度に目を見張る所はあるが、彼の持ち味はそれではない。
彼が得意とするのは無属性。つまりは魔力弾。魔力密度を極限まで練り上げて作られた、純粋な魔力による暴力。
この時発動されたのは一発ではなく複数。それも数十。慎吾が魔法長杖を振り下ろした時、大量の魔弾はCTに襲いかかった。
無属性の魔力弾は『魔弾』の名に相応しく一発足りとも敵を逃さない。全てが必中。計四五発が顕現された魔力弾は四五体のCTを見事屠ってみせたのである。
「僕達で約一〇〇を撃破。でもまだまだ後続が来るよ。慢心せず、確実に。いいね?」
『はいっ!! 先生!!』
三人が援軍として駆けつけた事によりあわや危機となりかけていた前線部隊は反撃へと移る。
慎吾達がいる部隊だけでなく、次々と上陸した陸軍や魔法軍の各部隊も着実に奪還領域を広げていく。
だが、九十九里浜南部方面における上陸作戦はまだ始まったばかり。進んだ先に何が待ち受けているのか、もちろん誰も知るよしもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます