第13話 隊長格への尋問
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マジックジャミング装置は知花が既にある程度の目星をつけられていたから、そう苦もせず発見された。
見つかった装置は機械仕掛けではなく直径五〇センチの水晶型で、まるで古典的な占い師が使うようなものであった。
装置が破壊されると、各方面から複数の探知方式が回復し八王子市街周辺が見渡せるようになった報告が入る。
敵を見通す視界を取り戻し、陸空魔法軍本来の万全な連携を使えるようになった各部隊の侵攻スピードは早まっていく。
昼過ぎになると八王子中心市街地を奪還。さらに北進して北八王子駅周辺や豊田駅周辺まで進出していく。
南部方面についても高尾や片倉方面から八王子みなみの駅周辺まで進出し、CTを駆逐していった結果、東京工科大学から東に位置している北野台等も確保するに至った。
ただし、南部方面については確保であって完全に制圧した訳では無い。この辺りは住宅が多数集まっているいわゆるニュータウンと呼ばれる密集住宅街で、家の中に入り込んでいたCTまで対処するとなると時間がかかるからだ。
これらを
さて、このように夕方までには八王子市街周辺まで進出し翌日には日野方面の進出や相模原方面への進出も現実的になった各部隊。その中で孝弘達は朝の激戦や昼過ぎまでの戦闘に参加していた事もあり、以降は八王子駅周辺で魔力回復を兼ねた休憩を取りながら味方の後方支援を行っていた。
特務連隊自体も一部の部隊を除いて八王子中心市街地周辺の警備や大休憩を行うなどしており、朝の激しい戦闘の参加者は互いを労いあっていた。
ただ、連隊指揮官たる七条璃佳はその場にはおらず、別の場所にいた。捕虜の軽度封印をしておりこの解除は彼女しか出来ないこと。部隊指揮官の高級将校として捕虜の尋問を行う必要があったからだ。
そして、璃佳は自分がいる高尾の前線司令部付近にとある人物を呼んでいた。孝弘である。
『軽度封印対象尋問の為、四人を代表して米原少佐は仮尋問施設へ向かわれたし。特務連隊長・七条璃佳』
璃佳からこの通信を受け取った孝弘は三人にこの旨を伝えた上で、たまたま近くにおり司令部付近に行く軽装甲車両に同乗して向かうことにした。
道中ではまさか富士と甲府の英雄が同乗を頼んでくると思わなかった。万が一があったとしても俺達は絶対死にませんね。等と言った冗談を交わしながら、あれこれと雑談をしている内に高尾駅付近にある、臨時司令部施設になっている高層ビル――わざと爆撃をせずに残していた。初日にCT掃討済み。――に到着した。
「ありがとう。助かったよ」
「とんでもない。家族に自慢出来ますよ。逆にサインまで貰ってしまって、ありがとうございました」
「まさか自分がサインを書く立場になるとは思わなかったけどね。皆、今日からも気をつけて」
『はっ!』
孝弘は同乗していた兵士達に礼を言うと、すぐそこにある司令部施設ビルへ歩く。
入口には孝弘を呼び出した人物である璃佳と、副官の熊川がいた。
「急な呼び出しになって申し訳なかったね、米原少佐」
「いえ、大丈夫です。内容が内容でしたし、自分も対象については気になっていたので」
「君ならそう言うと思ったよ。じゃ、早速向かおうか。仮設尋問室は地下にあるから」
「はっ」
司令部施設前に立っている歩哨の敬礼を受けて答礼した三人は司令部施設内に入る。作戦二日目ながらビルの中は司令部としての体裁を整えつつあり、多くの将兵が屋内を忙しそうに行き交っていた。
途中、孝弘は二人と会った時に気になっていたことを質問する。
「七条大佐。茜の姿が見えないのですが、召喚解除されましたか?」
「まあね。彼女の召喚ランクだと私の魔力でも三日以上の維持はきつくってね。召喚時に魔力を一番消費することを踏まえても、そろそろ解除しとこうかなって」
「なるほど。いくら七条大佐でも、戦術級ともなれば相応に消費するわけですね」
「私だって人間だからね。その私だって、君達の事は大概だと思ってるよ。特に高崎少佐。砲兵隊も真っ青の魔法火力なんて、人の域超えてると思うんだけどなあ」
「ははは……。自分も水帆の保有魔力と効率運用は桁違いだと思いますよ」
「やはりあちらでの経験か?」
「ええ、熊川少佐。こっちじゃ絶対に経験出来なかった戦場にかなりいましたから」
「そうじゃなきゃ説明がつかないだろうな。魔法は使えば使うほど効率運用が可能になる。見たところ相当手馴れていたし、不要な詠唱部分をカットもしていた。戦時じゃ無ければ教導隊から教官職を熱望されてたろうさ。勿論、君含めた三人もだが」
「ありがとうございます。戦時でなければ良かったのですが、仕方ありませんね」
思わず本音が出た孝弘だったが、熊川も璃佳も咎めはしなかった。
話を変えた方がいいと感じたのか、璃佳は本題を切り出すことにした。
「米原少佐、今から尋問する相手は私達が交戦した近衛部隊の隊長格。それは知ってるよね?」
「はい。簡易情報を大体は目を通しました。先に尋問をされていたとのことですが、何かめぼしい情報は手に入りましたか?」
「微妙、かな」
璃佳は芳しく無さそうな表情をしていた。どうやら簡単に口を割ってはくれていなかったらしい。
「喋ってくれたのは、名前と所属。それに階級。あっちにも捕虜になったら喋るなって規則があるのかもね。ちなみに私達の階級でいうと大尉って事までは分かった。けど、近衛騎士団に関する情報もあんまりかなあ。このまま遅々として進まないのであれば、自白剤や魔法自白剤の投与の必要があるかもね」
「なかなかに口が硬いようですね。本人の言葉通りなら近衛ですし、ペラペラ喋らない辺り訓練されているのかもしれません」
「だろうね。逆に人類側の方が捕虜になった時に喋っているかどうかの方が心配かも。あっちに言語解析機能機器や魔法があればの話だけどさ」
「日本軍もですが、各国軍でも敵に捕縛された例がごく少数ながらあるようですね。CTと交戦する事がほとんどですから数える程しかありませんが、現に我々が理性のある敵と度々接触している以上、想定される事態ではありますが」
「上は生存を絶望視しているのもやむ無しって所だね。恐らく理性のある敵が本司令部機能を持った上でまとまった数でいるのは前線から奥の方だし」
「今はまだ救出作戦が出来る段階ではありませんからね……」
「そゆこと」
自分達が少数ながらも敵と交戦し捕虜を得ているのと同じように、敵側に人類側の将兵が捕縛されている情報はここ一ヶ月で手に入るようになっていた。敵の捕虜から得た情報ではなく情報解析の結果であることがほとんどだが、その点も一定以上の階級者であればほぼ知っている事実であった。
「ああ、そうだ。もうちょっとしたら尋問室に着くから先に伝えておくけど、今回の対象は君達のアレ《アルストルム》とはほぼ無関係だと思うよ。他の捕虜からも情報が無いのもあるけどね。ただ、隊長格がほとんど話さないから確定とは言えない。今回の尋問はカメラ無しだし、私と熊川の他に人はいない。安心して」
「ありがとうございます」
三人がいくつかの話をしているうちに地下区画にある尋問室――元はただの小さい倉庫室だった部屋――に到着する。
「お待ちしておりました、大佐」
「ご苦労様。ここから先は知っての通りだから」
「はっ」
歩哨の兵士と短くやり取りをすると、三人は尋問室に入る。
ドアが閉められ、高度な防音魔法を熊川が施した。
孝弘の目の前にいたのは朝に交戦したばかりの
、顔を俯かせている隊長格だった。戦闘時は軽鎧で体格等が分かりづらかったが、こうして目の前でみると意外と普通の人間だった。髪の毛はくすんだ金髪。軍人として鍛えているのもあるのか、がっしりとした体格ではあった。ただし、俯いているせいなのかほりょになったせいなのか、意気消沈としている事で随分と小さくも見えていた。
「…………マタ新シイ尋問者カ。誰ガ来テモ話サナイゾ」
「その手の尋問じゃないから安心しなよ。ま、そのまま口を割らないっていうならこっちも手段があるから覚悟しておくことだね」
「拷問カ。野蛮ナドトハ言ワン。我ラモ戦争デアレバ当タリ前ニスル」
「あっそ。さ、米原少佐」
「はっ」
璃佳が孝弘の苗字を口にしたが、隊長格は反応しなかった。この時点で孝弘は隊長格がアルストルムとは無関係である可能性が高いと考えた。無論、知っていたとして表情に出していない可能性も皆無とは思っていなかったが。
孝弘は椅子に座ると、口を開く。アルストルムでも何回か尋問は経験した事があるが、今回はあえて威圧的にはしないことにした。
「今回尋問を担当する米原だ。何でもいいから話してくれる事を期待するよ」
「…………フン」
孝弘による尋問が始まった。
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