第4話 無茶振り合法ロリ大佐が命じた四人への任務
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七条璃佳。二九歳。
日本魔法軍中央本部直轄第一特務連隊連隊長であり、日本における九つの魔法名家『九条術士』の内、『七条家』直系の証たる『七条』の苗字を持つのが彼女である。
外見は街で見かければ中学生と思うのではないかというほどに小柄で、体型が尚更幼く見えさせていた。
だが、幼く見えるのは外見だけである。彼女は魔法名家『七条』の名に相応しいどころかここ数代で一番の能力持ちであり、全国で極わずかしかいないSランク能力者の一人だ。故に能力さえあれば男女関係無く受け継がれてきた七条において、次代当主筆頭と言われている。
家柄だけではない。彼女はその才覚から若くして魔法軍本部が即応で動かせる第一特務連隊の連隊長であることから、Sランクと共にその能力の秀でている様がうかがえる。
なお、可憐な見た目と裏腹に戦い方は苛烈である。仮想現実訓練や各演習、そして不安定な中東地帯での戦闘の姿から付いた二つ名は『一人一個連隊の
孝弘達四人の前に現れた七条璃佳とかそのような人物だ。
その彼女が四人に言ったのだ。今日から自分が上官だと。
そして、続けてこうとも言った。
「今回きみ達に受けてもらう任務は入隊試験を兼ねていてねー。実は富士宮北部において、富士東側の侵攻に呼応してCTの動きがあったわけ。その数、一五〇〇〇から二〇〇〇〇。きみ達はバケモノ共を富士宮に展開している五〇〇〇の部隊と共にこれを撃破。今の戦線を維持してねー」
さらに続けて。
「ホントはきみ達の顔を見る為にそっちに行きたいんだけど、あいにく私達はバケモノ共を北杜市で抑える上に韮崎まで押し返すのに忙しくてさー。北杜でバケモノぶっ殺して韮崎を取り返したら向かうから、それまで頑張ってね♪」
そう言われた四人はポカンとしていたという。
・・Φ・・
10月1日
午後4時半
富士宮市北部・国道469号線を境目とした防衛線から南4キロ付近
「俺、つい思っちゃったんだけど、これがゲームのチュートリアル後ならとんでもないミッションだよな……」
「それは言っちゃダメなやつよ……。私も思ったけどさぁ……」
孝弘のついポロリと出た愚痴に、水帆は慰めの言葉をかけつつも同意する。大輝は苦笑いで、知花に至っては空笑いである。
時は数時間前に遡る。
AR画面越しに現れた七条璃佳について、魔法能力者である彼等は当然彼女の事を知っていた。彼女が率いる『第一狂ってる特務連隊』(注:第一狂ってる団こと陸軍第一空挺団に並んで逸話に事欠かさない魔法軍第一特務連隊の俗称のこと。一個連隊で二個師団相当なんて言われるから、ネットでは真偽は定かではないが色々ないわく付きの話が多い。)についてもよく知っていたし、七条家のことも知っている。
問題は彼女が自分達に告げた任務の内容だ。
簡潔に纏めると以下のようになる。
・富士東部の戦線を支える為に富士宮北部から兵力を一部抽出(約三〇〇〇)するからその代わりになってね。
・富士宮北部に展開している兵力は陸軍と魔法軍の混成一個旅団。対して敵の数は最低でも三倍から四倍以上。国道を境にして防衛線を構築しているから、国道から南に侵攻させないこと。
・侵攻させないこと。は、あくまで最低条件だから敵を殲滅しても構わないよ。
・きみ達さっきまで民間人だから魔法軍の軍服でサイズ合いそうなのを見繕ってもらったよ。ちなみに階級は大尉にしておいたよ。Sランク能力者なら最低限以下の階級だから入隊試験クリアしたら少佐に格上げするし、正式に軍服も作ってもらうよ。
・魔法杖は持ってるみたいだからそれ以外の武器は貸与するよ。一般的な魔法小銃でごめんね。入隊試験をクリアしたら特注品を発注するね。
・軍用端末はとりあえず貸与の形にするね。何かあったらきみ達の身分証明になるよう、きみ達は第一特務連隊の私直属の部下にしてあるからそれを見せるように。私の名前を見せれば大抵なんとかなるよ。色んな意味で。
・私がいる北杜市方面の戦闘は早めに終わらせるからそれまで頑張って生き残ってね。まあきみ達ならよゆーでしょ。
と、普通の魔法能力者では無茶振りもいいところの任務を七条大佐は四人に命じたのである。孝弘が愚痴りたくなるのも無理もない。
とはいえ、無茶振りの代わりに貸与された武器はかなり充実していた。
新品の魔法軍軍服一式。
魔法軍で制式採用されている、魔法属性の付与が可能な『二七式魔法小銃』。
四人の軍人としての身分証明が登録されている『総合戦闘支援パッケージシステム』。
魔力の回復速度を高める飲料型魔力回復薬が七本。(注:一日使用限度量は一〇本)
魔法軍士官が護身も兼ねて持つ『〇九式魔法拳銃』。
軽装型ではあるもののフル装備を四人は受け取っており、朝まで着ていた私服から着替えていたのである。
話を戻そう。四人のやり取りを聞いていて、口を開いたのは翔吾だった。彼は四人を戦線に送る為と前線の指揮官へ引き継ぎの為に同行していた。
「まさか再会した翌日に軍人になって、その上いきなり大尉だなんてね……。まあ、あの魔力値なら大尉ですら低めの扱いだから七条大佐が言うのも分からんではないけど」
「帰還を知ってるお前だから言うけどよぉ、向こうでもこういう無茶振りは少なかったぜ……?」
「少ないってことは、あったんだね、大輝……」
「おうともよ。こんだけ武器揃ってりゃ恵まれてるさ。オマケに『賢者の瞳』もあるなら楽も楽だぜ」
「ううん、詳しく聞きたいのに詳しく聞きたくないなぁ……」
「まぁ、その話はおいおいな。ところで翔吾。富士宮北部の指揮官ってどんな人なんだ?」
大輝の当たり前の質問に、翔吾はなぜだか気まずそうな顔をした。当然大輝を含む四人はどうしてそんな顔をするのかと疑問を持つ。
「あそこの指揮官は、『
『あー…………』
四人、納得である。
「ちなみに七条璃佳大佐の無茶振りは間違いなく当主たる真之様の耳にも入るだろうから、当主様直々にお詫びの言葉とかあるかもね……」
『うっわぁ……』
四人、唖然である。同時に当主様に対して同情の念が湧く。四人は当事者のはずなのだが。
「まあ、真之様はいつになるか分からないとして裕貴准将閣下にはもうすぐ会えるさ。ほら、あそこが司令部だ」
軽装甲車を運転する翔吾が指差したのは、富士宮北部の最前線部隊を指揮する司令部が置かれている運動公園だった。
「着いたら僕が案内するよ」
翔吾の言葉に四人が頷き礼を言う。
司令部にはすぐに着き、司令部指揮所が置かれているテントへ到着したのは比較的すぐだった。
なお、四人が指揮官であり事情を既に聞いていた七条裕貴准将に平謝りされたのは言うまでもなく、その場にいた副官や参謀の面々は真相を聞かなくとも裕貴准将の謝罪で何となく事を察していたのだった。
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