第85話 出版おめでとうございます!!

 打ち合わせから一週間後、出版社のホームページに俺の小説の特設ページが作られた。

そこには、発売日など詳細な情報が載せられていた。

ちょくちょく、リア友からもメッセージが来ていた。


『あんた、小説にまで手をでしたのね』


 これは莉緒だ。


『春輝、おまえ本出すのかよ。出たら買うぜ!』


 これは和也だ。


『先輩、本出たら買いますよw』


 これは、書道部の後輩からだった。


 まさかとは思うが、こいつらは俺のSNSをチェックしているのだろうか。

俺が本を出すことまでバレてしまった。



 ♢



 そしてそれから更に1週間後、家に出版社から段ボール箱が送られてきていた。


「お、これはもしや」


 期待を胸に段ボールを開ける。


「おおー!!」


 俺の予想通り、それは献本だった。

自分の書いたものが、こうして本になるのは凄く感動するものだ。


「紗良、見て!! 献本届いた!!」


 リビングに居る紗良に献本の入った段ボールを持って行った。


「そんなに大きな声を出さなくても聞こえていますから」


 俺のテンションの高さに呆れたのか驚いたのか、紗良が言った。


「すまん、ちょっと嬉しくなってしまって……」

「まあ、気持ちは分かりますよ。兄さん、頑張ってましたもんね」


 紗良は、優しい微笑みを向けてくれる。


「ありがとう。ということで、これ紗良にもあげるね」


 そう言って、献本の中の一冊を紗良に渡した。


「え、いいんですか?」

「ああ、もちろん。紗良には応援してもらったからな」

「ありがとうございます」


 紗良は、その一冊を受け取ると、表紙をジッと見つめていた。


「あ、兄さん、サイン書いてくださいよ」


 そう言って、俺の渡した本を差し出してきた。


「え、いいのか?」

「はい、だって作者さんがここに居るんですから!!」


 そう言って、嬉しそうにしている。


「分かったよ。ちょっと待ってて」


 俺は、自室に戻り筆ペンを取って戻ってきた。


「じゃあ、書くね」

「お願いします」


 俺は表紙をめくると、そこに『東條零』とサインを書き込んでいった。


「はい、どうぞ!!」

「ありがとうございます!」


 サインを書いた本を渡すと、紗良は嬉しそうな表情を浮かべていた。

そんなに喜んでもらえるなら、作者としても嬉しいものである。


「後で、ちゃんと読みますね!!」

「おう、ありがとうな」


 そう言うと、俺は紗良の頭を優しく撫でた。

そして、ついに発売まで一ヶ月を切ったのだった。



 ♢



 時の流れというのは早いものだ。

あっという間に、発売日となってしまった。

今日から、続々と書店に並んでいく。

また、ネット通販サイトでも販売が始まり、電子書籍版も後から出る予定である。


「めっちゃ、緊張する!!」


 俺は自分の部屋でSNSをチェックしていた。

どうやら、本当に書店に並んでいるらしい。


『買いました』という報告が何件も寄せられていた。


 担当の朝桐さんからも、発売おめでとうございますという内容のメッセージが届いていた。

それだけではない。

小田霧や氷室先生、莉緒や和也などリア友からもメッセージが入っていた。

莉緒と和也はご丁寧に写真付きだ。

本当に買ってしまったらしい。


 それに返信し終わると一息ついた。


「小田霧さんと氷室さんには献本を送っておくか」


 お世話になったので、送っておくべきだろう。

まあ、小田霧さんには直接渡せるから、送る必要もないのだが。



 ♢


 一ヶ月後、朝桐さんから電話がかかってきた。


『お疲れ様です。今、大丈夫ですか?』

「ええ、大丈夫ですけど、どうかしましたか?」


 朝桐さんからの電話ということは、出版関係のことだろう。


『先生の作品が好調のため、二巻の制作が決定しました!』

「本当ですか!?」

『はい、おめでとうございます!!』


 こうして、早くも二巻制作の話が決定したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る