第29話 紗良の宝物
春輝は、鞄の中から題字案を机に並べていた。
「サイン会用の題字を4パターンで作って見ました」
「おぉ、もう出来たのか。流石は東條くんだな」
小田霧はテンションが上がっていた。
「とりあえず、縦書きと横書きのものを作ってきたんで、好きなの使って下さい。気に入らなかったら書き直すんで」
「いや、十分だ。いつもながら、カッコいい。イメージにぴったりだ」
小田霧は喜んでいた。
「それなら、良かったです。僕としては、どれを使って貰っても嬉しいので」
そう言うと、題字案のデータ化したものを笹井と小田霧に送った。
「今、お二人にデータも送っておきましたので」
「相変わらず仕事が出来ますね」
「流石だ東條くん!!」
二人はスマホの画面を眺めていた。
そこから、30分程協議して、今回使う題字が決定した。
「では、よろしくお願いします」
空が夕焼けに染まり始めた頃、春輝は出版社を後にしようとしていた。
「さて、疲れたなぁ」
駅に向かって歩き、電車に乗り、15分ほど揺られる。
最寄り駅に到着すると、そこから、更に10分ほど歩いて自宅へと向かう。
「ただいまー」
玄関の鍵を開けて中に入る。
「おかえりなさいー」
紗良がバタバタと、階段を降りてきて、出迎えてくれた。
「ああ、ただいま。あと、これ」
春輝は、鞄の中から魔法学院の最強賢者の書籍を取り出した。
「これは?」
「小田霧先生からサイン貰っといた」
「本当ですか!?」
紗良は受けとると、表紙をめくった。
そこには、『紗良ちゃんへ 小田霧 読んでくれてありがとう』と書かれていた。
「ありがとうございます。嬉しいです。兄さんのサインもください」
そう言って、春輝に書籍に手渡してきた。
「小田霧先生の隣に書いちゃっていいの?」
「はい、そうしたら、世界にひとつだけのものになるでしょ」
「分かったよ。座って書いてもいいか?」
「はい!」
春輝は、リビングのソファーに腰を下ろすと、ペンケースから、筆ペンを取り出した。
小田霧先生のサインの横に『書家 東條零』とサインを入れた。
「ほらよ。これでいいか?」
「ありがとうございます。家宝にしますね」
紗良は、満面の笑みを浮かべていた。
「そんな、大袈裟な」
「私にとっては宝物です。ところで、4巻からって貸してもらってもいいですか?」
「お、読み終わったんだな。ちょっと持ってくるよ」
春輝は自分の部屋に行くと、4巻から6巻を手に、階段を降りた。
「はい、どうぞ」
三冊の書籍を手渡した。
「ありがとうございます」
「あ、それ、七巻がもうすぐで出るよ」
「そうなんですね!!」
「俺の所にも見本誌が届くはずだから、楽しみにしておいて」
春輝と小田霧がこだわっているのは、巻ごとに題字も変わるという所だ。
毎回、続刊が出ると、春輝が書き下ろしている。
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