第2話 共同生活の始まり

 顔合わせをしてから数週間後、うちに大量の荷物が運び込まれてきた。

どうやら、今日から一緒に住むことになったらしい。


「よいしょっと」


 紗良はその華奢な体で段ボール箱を運んでいた。


「ああ、俺がやるよ」

「で、でも、私の荷物ですし、」

「いいから、女の子に重いもん持たせるのも気が引けるし、その白い肌が日焼けでもしてみろ。せっかくの美少女が台無しになっちまう。お茶でものんでろ」


 今日は直射日光が強い。

紗良が日焼けするのだけは許せない。

紫外線はお肌にとっては天敵というし。


「か、可愛い……あ、ありがとうございます」

「いいよ。兄妹なんだし、このくらい」


 俺は腕まくりをすると車に積まれていた残りの段ボール箱を運び込んで来た。


「よし、これで最後だな」


 段ボール箱をとりあえず玄関まで運んだ俺は首に掛けていたタオルで額の汗を拭った。


「いやぁ、助かったわ。男手があると違うわね」


 美咲さん、俺の母親が微笑んでいた。


「いいんすよ。こういうのは男の仕事っすから」

「あ、兄さん、これ」


 この時から、紗良は俺のことを『兄さん』と呼ぶようになっていた。

紗良はコップに麦茶を注いで持って来てくれていた。

美少女に兄さんと言ってもらえる優越感といったらたまらない。


「お、ありがとな」


 麦茶を受け取ると春輝は一気に飲み干した。


「さて、あとはこれを紗良の部屋と母さんの部屋まで運びますか」


 親父から部屋割りは聞いていたので荷物を運ぶ為に立ち上がった。


「いえ、ここからは私たちがやりますから」

「ああ、いいからいいから。二階だし重いもの持って階段上がるのはしんどいだろうしな」


 紗良は自分がやると言ったが、俺のは譲らなかった。


「よいしょっと」


 段ボール箱には紗良と美咲と書かれているのでその通りに部屋へと運び込んで行く。


「終わったぁ」


 俺は運び終えるとリビングに居るであろう紗良と母さんの元へ行った。


「荷物、運び終わりましたよ」

「あ、ありがとうございます。助かりました。ところで、明さんは?」


 明というのは俺の父の名前である。


「ああ、昨日、江ノ島に写真を撮りに行くって出ていきましたよ。まさか、親父、母さんにも言ってなかったんですか?」

「は、はい……」

「相変わらずだな、親父は。多分またしばらくは戻らないと思います」

「そうなんですね。ほら、私も仕事で家にはほとんど戻れないと思いますので……」


 新しい母さん、美咲さんは警察官僚なのだ。

家にはほとんど帰れない生活を送っているそう。

そういう所は親父とよく似ている。


「まぁ、親父が居ないのはいつもの事ですし、紗良の事は俺に任せて下さいよ」

「あら、若いのによく出来た子ね」


 母さんはご機嫌だった。


「ご飯にしましょう! 春輝くんもお腹空いたでしょ?」

「そういえばそうですね」


 時計をみると13時を過ぎていた。


「はい、どうぞ」


 ダイニングテーブルに三人分の冷やし中華が置かれた。


「お、美味そう」


 手作りのご飯を食べるのは久しぶりな俺は母さんが作った冷やし中華に舌鼓を打つのであった。

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