第34話 俺が調教する
「訂正したまえ」
わ、あわ、ディーちゃんのお父さんが……いつも優しいけど、今だけは怖いぐらい睨んで……
「何を? 見る目がねえって言ったことか? だって、そうだろ? 危険? 娘の幸せを考えて? この三人が持っている一芸は危険なスキルじゃねえ! ギフトだ! 才能だ! 制御できない危険な? 制御なんてしないで解放しちまえばいいんだ! もったいねぇ!」
だけど、セカイくんは全然怯んでないよ! って、セカイくんにとって聖勇者は憧れじゃないのぉ? なんでそんな態度できちゃうの?
「な、なんて口の利き方なのかしら……ディヴィアスちゃん……あなたこんなお友達が……はぁ、封印を解除したのも彼にそそのかされたのね」
「ま、ママ! 違う、私は自分が……」
「まったく、養成学校はどういう教育しているのかしら? 今度保護者会から担任の先生へクレームを入れないとね」
「やめ、やめてよ……違うの……」
セカイくんにそそのかされた。それはその通りだと思う。
でも、なんか嫌。
セカイくんのことを嫌な目で見てそんなこと言われるのは……
「家庭の事情に口出さないでもらおうか。それに、君も魔法騎士を目指すのであれば、目上の人に対する口の―――」
「目上? 笑わせんな。聖勇者? ロートルになるまで魔王軍を倒せてないってことは結局その程度ってことだろうが。何を大物ぶって登場して、才能あふれる娘を否定してんだよ」
「な、なに?」
「家庭の事情? 他人の家庭よりも魔王軍をぶっ潰すほうがこの世界において何よりも優先すべきことだ。大体、将来共に魔王軍を滅ぼす仲間に他人もクソもねえ。人の家の事情だから空気読んで黙ってる? そんな空気を読めるお利口さんなら、俺はこんな風になってねえよ」
って、セカイくんも全然引き下がらないよぉぉおおおお!?
「ちょ、セカイくん、流石に言い過ぎだから!」
「セカイ、相手は聖勇者の大魔導士ですよ!」
「まって、パパ! こいつはちょっと口悪いけど根は……だから怒らないで! 悪いのは私で……それに、セカイも! あんた、魔王軍を倒したいんだったら、パパに嫌われてもいいことないわよ!」
この帝国、ううん世界を見渡しても聖勇者相手にこんな口の利き方をする魔法騎士候補はいないよね。ってか、魔法騎士にもいない。
だからこそ、流石にこれはまずいと私たちは慌てて止めるけど、セカイくんはニヤリと笑って……
「ああ、俺も最初はお前らの両親に取り入って、魔王軍のクソどもを打倒しようとした。だが、もうその必要はない。お前らの方が……使える」
「「「え……?」」」
「お前らほどのギフトを使わせねぇで生涯過ごさせるって言うなら、俺がもらう」
「「「…………え?!」」」
使える……もらう!?
いや、セカイくん! 言い方言い方! 勘違いされる!
あくまえ魔王軍と戦う戦力としてでしょ?
なんか、今の言い方だと「娘さんをいただいていきます」っていう感じで勘違いされるよ?
「セカイ……い、今のは……プロポーズ……」
「ば、ばか、あんた何を……なにを……わ、私は別にあんたのことなんか……」
ほらあ! 勘違いしている1号2号! いや、私も結構ドキドキっとしたからアレだけど……でも……
「い、いや、いきなり娘を貰っていくと言われても……娘の将来のことはしっかりと我々が考えてだね……」
初対面の男の子に「娘はもらう」なんて言われて、流石に大魔導士と呼ばれていてもおじさんも戸惑ってる。
だけど……
「ピンク。それにお前らも。お前らが将来なりたいものがあるってのは分かってる。それに、ぶっちゃけ戦争行かずに平和に過ごしたいなら、お前の両親が言ってることは間違いねえ……が……お前は……お前らは使える。もったいねぇ。お前らがギフトを伸ばせば……魔王軍も魔界ごと滅ぼせる!」
「セカイ……あ、あんたまたそれ……だから、私にはそんなつもりないし! そ、それに、パパも言ったように……私はコントロールまでは……危険だって……」
「危険じゃなくてギフトだって言ってんだろ! もう、貞操帯なんてはめるんじゃねえ! 俺がお前らの傍に居て、俺がお前たちのギフトをとことん伸ばしてやる! いいか? 逆に魔王軍に攻め込まれて、地上が滅ぼされたらどうなる? 将来も結婚もへったくれもねえ! お前らが終止符を打つんだよ!」
セカイくんが、何の根拠があって言ってるか分からないけど、どこまでも自信に満ちた……いいや、ちょっと待って?
娘の幸せを考えて結婚させようとしている両親と、戦争の戦力にしようとしている男の子の意見……どう考えてもセカイくんの方が間違ってない?
間違ってるよね?
でも……
「なりたいものになれる世界を手にするんだよ。そのために戦え、俺と一緒にな」
あまりにも自分勝手すぎるよ……私たちの事情や気持ちも無視して、戦えだのなんだのって……っていうか、戦争しなくていいって両親公認ならウェルカムだよ……でも……
「そして、世界も歴史も変えてよ……お前らを谷間の世代だなんだのと陰口叩く無能な連中を……使えねえ娘だと思い込んで戦争に参加させず結婚でもさせとけとか考えてるバカ親たちの……度肝を抜いてやれッ!! その果てでなりたいもんや、結婚したい相手と勝手に結婚してろ!」
なんだろう……私たちのギフトを伸ばして世間の度肝を抜けとか……なんか……ワクワクする!
「……君は……一体……」
そして、セカイくんの何の根拠もない滅茶苦茶な言葉……だけど、何かを感じ取ったんだと思う。
ディーちゃんのお父さんもお母さんも、少しセカイくんを見る目が変わっている。
そして……
「つーか、ピンク。丁度いいじゃねえか」
「え?」
「お前の両親が今ここにいるなら、まずはお前の信頼ややる気を得るための……報酬を支払ってやる」
「ッ!?」
「昨日の夜、クラスのビッチ共から逃げ帰ったあと……体調悪い中で必死に習得したんだぜ?」
セカイくんが何かを企んでそうな悪い笑顔をまた浮かべて、突如……
「セーシュンジュハーチキップトシンカーンセン……」
「「「「「ッッ!!??」」」」」
なに!? なんか詠唱を始めたセカイくんの体からすごい魔力があふれ……ディーちゃんほどの総量じゃないけど、でも、こ、これ……
「な、なんなの!?」
「セカイ、一体何を!?」
思わず私たちもゾクッとするような波動……研ぎ澄まされた密度の高い魔力が……
「なに? な、こ、この魔力は……なぜ、養成学校の生徒がこれほどの!? しかも、この詠唱はまさか……古代呪文の……たしか……ッ!!」
「うそ!? あ、あなた……こ、これは……」
聖勇者であるディーちゃんのお父さんまで驚いている。
い、一体、何が?!
「長距離移動魔法・ジェイアルー……出発、トティモトーイ王国行き!!」
「……え?」
そして次の瞬間、私たちは突如現れた黒い渦のようなものに吸い込まれてしまった。
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