第24話 寸止め戦争
「ちょっとちょっと~、私ら早く遊びに行きたいのに~」
「でもいいじゃ~ん。だってゲームで勝ったらセカイくんが校長に交渉してくれんでしょぉ?」
「セカイくんってよく分からないけど、編入試験もすごかったって話だし、なんか色々と発言力あんのかな?」
昨日までなら、グループワークという名目で各自自由に遊びに行ったり、家に帰ったりしていた私たちのクラス。
だけど今日だけは全員が運動着に着替えて校庭に集合している。
「いいか、三ゆる生徒共……今からやるゲーム……それは『寸止め戦争ゲーム』だ」
それも全ては、私たちのクラスに対するイライラが溜まりに溜まったセカイくんが怒って提案したことだった。
「寸止め戦争ゲーム?」
「ぼく、聞いたことない」
「私も~」
「なにそれ、寸止め~、なんかエロくない?」
「ちょっ、やめなよ……」
私たち全員に対してセカイくんが提案する『寸止め戦争ゲーム』……私も聞いたことないや。
「アネストちゃんやディーちゃんは知ってる?」
「いいえ」
「知ってるわけないでしょ? なんなのよ、そのゲームは。相手を無力化して寸止めとか何とか言ってたけど……」
ゲームって言うからにはそんなに危ないような感じはしないし、寸止めって言ってるから痛いことも無いんだろうけど……でも、戦争って言葉が気になるし、何よりも教室でセカイくんは「ケンカ」って言いかけたのが気になる……
「ゲームは簡単だ。今からお前らは魔法でも拳でも武器を使ってでも何でもいい。俺を取り押さえて無力化する。それでお前らの勝ち。逆に俺がお前ら全員を無力化したら勝ち」
セカイくんが軽く柔軟して拳をポキポキ鳴らしながらする説明。
でも、あまりにもザックリしすぎてまだピンと来ない。
「セカイ、私たち全員があなたにというのは……」
「そう、全員だ。今からやるゲームは、ハンデで……お前ら全員がかりで俺にかかって来い。どんな手を使ってもいい。攻撃してもいい」
「はぁ!?」
「それでまあ、俺をぶっ倒すことでもできりゃ、それでもお前らの勝ちでいい」
え!? わ、私たち全員!? 三十人以上いるのに!?
「ちょっ、セカイくん、それはなんか……大丈夫なの!?」
「そうよ、私たち全員って……あんた流石にそれは舐めすぎなんじゃない?」
「え? っていうか私たち全員で……それで勝ったら、校長先生に交渉してくれるの?」
「おいおい、それなら何とかなるんじゃない?」
「ああ、向こうは一人だし、それにこっちは、バカだけど身体能力最高のシャイニや、優等生のアネストさんやディヴィアスさんがいるんだし」
セカイくんがすごいことは昨日分かった。
でも、流石に三十人全員対一はやり過ぎだと思う。
それなら何とかなるかもしれないって、皆も思い始めて、顔が少し笑ってる。
「へへ、一人だってよ。俺らは仮にも魔法騎士候補だっていうのに、舐めすぎじゃないか?」
「よっしゃ、田舎からのおのぼりさんに舐められねえように、やってやろうぜ」
「言っておくけど、もう前言撤回なしだからな、セカイくんよ~。あと、ちょっとやられすぎても、イジメとか言うなよな~?」
「よし……なぁ、そもそもあいつ、編入したばかりのなのにいきなりデカい顔したり、出しゃばったりでウザかったし……ちょっと、やっちゃおうぜ」
「ああ。言い出したのは向こうなんだしな」
それに、特に男子も女子も編入したばかりなのに態度の大きいセカイくんに良い印象なかったみたいだし、これを機に……って空気を感じる。
「ちょっと……本当に大丈夫なの? それに、無力化とか寸止めとかっていうのがよく分からないんだけど……」
「それもまたある種のハンデだ。お前らは俺をぶっ殺すつもりで攻撃してきていいが、俺はお前らに攻撃は一切しねぇ。だから怪我もさせねえ。でも、攻撃しないで無力化にするってなると、分かりやすい基準が必要だから……」
「必要……だから?」
そして、最後の疑問である「無力化」と「寸止め」っていうのがまだ分からない。
たぶん、捕まえて拳を私たちの顔に寸止めしたりとかそういうことなのかな?
すると、ディーちゃんの問いに対してセカイくんが放ったのは……
「お前ら全員の服を脱がして素っ裸にして無力化する」
「「「「「……………はっ!?」」」」」
……ふぇ?
その瞬間、ヘラヘラしていたクラス皆の顔が固まった。
「素っ裸にされた時点でそいつはリタイアにする。クラス全員がリタイアしたら俺の勝ち。お前らは大人しく合成魔法発表会だけじゃなく、今後の試験とかも真面目にやるんだな」
「「「「「……………????」」」」」
いやいやいや、え? なにそれ? え? 素っ裸? え? なにそれ? どういうこと?
ダメだ、私たち全員混乱して何が何だか……
「ただ相手を殺すだけじゃねえ。戦争ではこんなもん当たり前だろ? 男の尊厳を破壊し、そして女は捕まって嫌がろうとも凌辱され……それを寸止めゲームで体感させてやる。どんなに嫌がろうとも……非情な現実はお前らに優しくねえってことをなぁ! まっ、俺も戦争行ったことないんだけどな」
だ、ダメだよ、それ。なんかよく分からないけど、このゲーム……
「さっきから黙って聞いてれば、ふざけんなよ!」
「あ?」
と、そのとき、さっきまでヘラヘラしていた女子の一人が急に怒った顔をして、セカイくんに抗議する。
「なによ、そのよく分かんないふざけたゲーム! いくら校長に交渉するからって言っても――――」
魔法陸上部で、クラスでは私と運動神経をいつもトップ争いしている、『アスリト』ちゃん。
日に焼けた肌。引き締まった身体。
運動大好きで、今も動きやすいようにと私たち普通の運動着とは違って、お尻に食い込むぐらいのパンツみたいなピッチリしたものと、おへそ出して肩も出したセクシーな運動着を着て、男子たちはいつも陰でハアハアしている。
性格も強気で、相手が男子だろうとも食って掛かる感じで……
「残念だが、もう遅い。開始だ! 敵は待ってはくれねーんだよッ!」
「ふぁっ!? あっ、え、えっ!?」
次の瞬間、アスリトちゃんの背後に見えないスピードで回り込んだセカイくんは即座に両手を振る。
速いッ!?
「え? あ……」
そして次の瞬間には……ヤバい! 犯され……じゃなくて、殺され……分かんないけど、そんな恐怖を感じさせるセカイくんの手が、アスリトちゃんに迫る……
「まっ、最初はサービスで勘弁してやるよ」
「あ……う……あ……」
でも、その手は私の予想に反して、アスリトちゃんの頭をポンポンと撫でていた。
「セカイ……」
「……やっぱり速いわね……」
「な、なに、い、今の!?」
「ぜんぜん見えなかっ……」
とはいえ、それだけで効果十分。
みんなも、そして私も、言葉を失ってしまった。
きっと、今の一瞬で皆が理解したかもしれない。
全員ががかりでも、絶対に勝てない……って。
「ふん。どいつもこいつもビビりやがって……つーか、お前もいきなり口答えしてきやがって。しっかし、随分と大胆な格好してるな。ノーブラで、下も尻に食い込んで――――」
「う、うるさい! 風魔法・ウィン―――」
「おせぇ! 魔障壁・マジカルカウンター!」
「ッ!?」
アスリトちゃんが屈服しないで、振り向きざまに風の魔法を纏ってセカイくんに突進……しようとしたところで、セカイくんが魔法障壁を展開して、アスリトちゃんの魔法をそのまま返した!? しかも、セカイくんの力も加わって更にパワーアップして!?
「あ、いやあああああ!?」
「アスリトちゃん!?」
アスリトちゃんの全身を切り刻むかのような……ううん……全身というか……運動着を……
「かっかっか……服が破ける程度の手加減……ワリーがこれ以上の手加減はできないんでな。これがギリギリだ」
「っ、はうっわ!?」
「「「「「お、おおおおおお!?」」」」」
アスリトちゃんの体操着がバラバラに刻まれて、日に焼けたその体には、靴と真っ白いパンツだけで……あっ……ブラまで刻まれちゃってるから、今のアスリトちゃんは……あ、先端はピンク……
「ちょっ、う、うそでしょおおおおおお!?」
いつも強気なアスリトちゃんが慌てて手ぶらしてその場で蹲る。
パンツどころかおっぱいが……うそ……男子も慌てて視線逸らそうとしても、チラチラしてんのバレバレだし!
「さ、流石にひどいよ、セカイくん!」
「ハレンチです! だ、男子は向こうを向いてなさい!」
「あ、あんたねぇ……やっぱ、あんた最低よ、セカイッ!」
私たちは慌てて男の子たちを回れ右させて、何か羽織るものをとアスリトちゃんへ。
そして、流石にこんなのやり過ぎだよ。
私だけじゃなく、アネストちゃんもディーちゃんも他の女の子たちもこれには……
「はっ、甘いこと言ってんじゃねえよ。これが戦場なら、そのままパンツまで脱がして凌辱の限りを尽くされるんだ。寸止めであることを感謝して――――」
そのときだった。
「…………………」
「セカイ! とにかくこのゲームはやめましょう! アスリトさんにも謝っ……セカイ?」
怒った私たちがこのゲームを中断するように言おうとしたら、何故かセカイくんが突然固まってしまった。
そして、セカイくんが徐々に顔をこわばらせ……
「……うぷっ!?」
「「「「「えっ!!???」」」」」
「お、げほっ、おえ、がっ、はあ、はあ、うぷっ、な、なに?」
急にセカイくんがうずくまって、えずいた? え? なんで?
「ば、ばかな……なんで俺が急に……」
「……え? なに? ちょっ……っと、大丈夫ですか?」
「ッッ!!??」
急に目の前でセカイくんがえずいちゃった。
うん、どうしたの?
「ねぇ、どうしたの?」
「セカイ、大丈夫ですか!?」
「ちょっと、いきなりどうしたのよ?」
私たちも心配になってセカイくんに駆け寄る。すると、セカイくんは……
「ば、ばかな……エロ本見たときはこんな……女の……生の裸体見て……なんでこんな……まさか? いや、でもオレンジのパンツ見たときは……いや、でもアレはガキパンツで……まさか……」
息を整えながらも、セカイくん自身も自分の身に起こっていることが理解できないのか、明らかに動揺している。
え? っていうか、今の状況で何で私のパンツ関係あんの?
でも、それは大アリだった。
なぜならこれこそ、私たちがこれから何度も繰り広げることになる寸止め戦争ゲームの、私たち側の作戦の基礎となる、セカイくんの弱点になるのだから。
そして同時に、私たちのロストバージンへの障害にもなるもの……
――あとがき――
多数の★ご評価ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。作者やる気になって、エr……イロイロと頑張ります
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