第14話 空気読めない
「では、来月に行われるグループでの『合成魔法発表会』に向けて、午後の授業では各自自由に準備や訓練に取り掛かってくれ。必要に応じて、学外や自宅での活動を許可する」
いつもなら午後の授業。だけど、今日からは来月の発表会へ向けて、各自グループ活動。
学校に残って練習や会議をしてもいいし、演習場や、集中できるなら各自家に集まってもいい。
その代わり、全グループは発表会で先生たちや帝国の魔法騎士の方々に披露して、採点してもらうというもの。
「もうすでに知っているかもしれないが、この発表会はグループ発表と同時にクラス対抗でもある。優秀なクラスは姫殿下から直々に表彰される。卒業後の進路でも良いアピールになるので、みんな頑張れよ」
頑張れよ。先生はそう言っているけど、でも私たちは……うん、頷いてる子は少ないよね……だって……ぶっちゃけ、だりぃもん……
「今日編入してきたばかりで、まだクラスメートのことを知らないセカイくんには申し訳ないね。で、どこかの班にセカイくんを―――」
「はいはいはーい! 私たちの班にセカイくんは入りまーす!」
「え……?」
手を挙げた私に先生も驚いている。
まぁ、食堂で大きな声で話してたからクラスのみんなは知ってるみたいだからあまり驚いていないけど、それでも「ほんとうなんだ……」って声が聞こえてくる。
「いや、あの、君たちはその……アネストやディヴィアスもそれでいいのかい?」
先生はちょっと心配そうだね。そりゃ、朝一でビッチだのなんだのと口喧嘩したんだからね。
「私たち仲直りしたんです! だから、だいじょーぶです♪」
「御心配には及びません」
「大丈夫よ。まっ、こいつが私たちに変なことしようとしても返り討ちだけどね」
問題ないって答えると、先生も少しホッとした様子。
一方でセカイくんは……
「何にするか……やはり、地獄の雷を召喚するか……いや、召喚魔法で雷帝でも……いや、でもそれだと俺のことがバレるか……」
なんか物凄いブツブツと真剣な顔だね。気合入ってる?
いやいや、そんな気合入れるものでも……
「では、各自作業に! なお、先生は教員室にいるから、質問や相談などはいつでもどうぞ」
そして、先生もそう言って教室から出ていった。
それを確認して私たちは……
「やったー、自由だ~!」
「やっとこの週間に入ったね、待ってました!」
「あ~、だりー。なぁ、今日はさ、このまま帰ろうぜ」
「久々、こんな早く学校終わった~」
「めんどくせー、でも時間もあるし……カフェでだべろうぜ!」
「ねぇ、私、食べに行きたいスイーツあるの」
「うん、私も行く! 放課後だといつも売り切れで買えないもんね」
そう、そしてこうなるのだ。
グループワーク。それはある意味で自由時間。
つまり、発表までにちゃんとしたのを出せば、あとは自由。遊んでも良し。
「……はぁ……本当に……もぅ」
唯一、真面目なアネストちゃんだけが不満そうな顔だけど……でも、仕方ないよね。
私もぶっちゃけ嬉しいのだ!
「まぁまぁ、アネストちゃん。今日はいいじゃ~ん。それよりさ、私たちもカフェ行こうよ。ディーちゃんもさ。セカイくんの歓迎も含めて、ね?」
「ちょ、シャイニ……ですが……」
「そうね。私もずっと食べたいと思ってたケーキあるし。それに、発表なんてどうせ『真似』でいいんだし」
そう、せっかくこんなに早くに自由時間になったんだし、遊びに行かないと―――――
「って、ちょっと待てええええ、お前らあああああああッ!!」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
そのとき、急に立ち上がって大声を上げるセカイくんの声に、私たちはビクッとしてしまった。
うわ、驚いた……え? なに?
「いや、お前ら……何をノンキに遊ぼうとしてんだよ! 発表会は来月なんだろ? まずは何をやるかとか話し合わねえと……だって、グループごととはいえ、クラス対抗なんだろうが! 真面目にやらねぇか! いや、俺みたいなやつが真面目にやれって言うのは相当なことだぞ!?」
うわぉ……見た目は不良で不真面目みたいな印象があったセカイくんから、まさかの「真面目にやれ」説教に、私たち全員唖然だよ……
やっぱ、セカイくん意識高い~
「あ~、セカイくん……そのさ、今日転校してきた君は知らないかもしれないけど、この発表会には伝統があってな……メンバーで協力して発動する合成魔法発表……これはさ、他のグループと……さらにこれまでの先輩や卒業生たちが発表した内容と被ってもいいんだよ」
「………………ん?」
そのとき、クラスの男の子のモブーオくんが、この発表会に臨む生徒たちの伝統を教えた。
うん、そうなんだよね。
セカイくんはまだ分かってないけど……
「でさ、みんな先輩とか卒業生とかから、簡単にできる合成魔法のやり方とかレポートを入手してそれを発表するだけで単位貰えるんだよ」
「なに……?」
「みんなも先輩たちから、発表の二日前ぐらいにちょちょいと練習すればできる魔法を教えてもらうって感じで、つまりこの発表会までの準備期間は俺たちにとっては授業が午前に終わって遊べる時間ってことなんだよ」
そう。ようするに、コピーで楽して発表して成績もらう。それでいいんだよね。
去年のラヴリィちゃんは真剣にやってたみたいで、私にはとうていできない魔法だから駄目だけど、他の先輩から既に教えてもらう約束しているのだ。
真面目なアネストちゃんは怒るけど……
「そ。だからさ~、セカイくんも一緒にスイーツ食べに行こうよ~」
「ほら、早く行くわよ。売り切れるの嫌だし」
だから私たちも、ちょちょいとできる魔法を発表して、今は遊びに……
「お、お前ら……お前ら本当にそれでいいと思ってんのか! これって自分をアピールするチャンスだろ! 帝国の姫に顔とか覚えてもらったり、帝国軍に名前を売ったり……つうか、そんなちょちょいとできるもんを人前で発表して恥ずかしくねぇのか! ドカッと驚かせてやろうとか思わねぇのかよ! なんのためにこの学校に入ってるんだよ!」
あ……これはまずい……この感じはアレだ……。
「「「「「…………うわ…………」」」」」
今から楽しく遊びに行こうよって感じの皆の中で、真面目で空気の読めない説教をして、皆が急にテンション下がって冷めた目になるのは……アネストちゃんが昔―――
「セ、セカイくん!」
「あ?」
そのとき、私が動こうとする前にアネストちゃんがセカイくんの袖口を引っ張った。
「な、なんだよ……つーか、お前もなんか言えよ! お前、真面目みたいだけど、こんな腑抜けた奴らに――」
「セカイくん! 今は……とにかく来てください。ダメですから……」
「な、なにが……お、おい!」
「ちょっと来てください」
悲しそうな顔を浮かべてセカイくんを引っ張るアネストちゃん。
うん、そうだよね……アネストちゃんが真っ先に「これはまずい」って思ったもんね。
真面目で……空気読めないとか……そういう風に思われて……
セカイくんを見てその時の嫌なことを思い出したんだよね。
アネストちゃんはセカイくんを引っ張って教室の外に……
「ディーちゃん……私、ちょっと二人を追いかけるから」
「もう……今日は本当に楽しみにしてたのに……仕方ないわね」
「ディーちゃん……」
「仕方ないでしょ? 放っておけないし……」
「うん!」
私もディーちゃんも気になって教室を出た二人を追いかける。
っていうか、アネストちゃん……男の子と二人きりでって……あれ? これ、なんかラブ臭漂う何かある?
それはそれで……面白そう!
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