第9話 編入生

 さ~て、今日は編入生が来る日。


 楽しみではあるし、アネストちゃんたちの言う「絶対比べられる」というプレッシャーやらで、とにかく朝から色々とあるんだけど、ようやくその時が来た。

 朝のホームルーム。

 いつもの教室。

 階段状になっている席に皆が座り、見下ろすようにしてその時が来るのを待っている。


「ついにだよ~」

「ええ、そうですね。皆も緊張しているようですね」

「はぁ~、めんどーな人じゃなければいいけどね」


 すごい編入生が来るという噂は既に広まっているから、皆楽しみな様子。


「なぁ、どんな奴が来るかな……」

「すごく強くてヤバいって聞いてるけど……あんまり威張る人じゃなけりゃいいけど……」

「カッコいいかな~?」

「ね、どうなんだろうね!」


 男の子が来るっていうのは既に確定みたいだから、男の子よりも女の子の方がウキウキしてる感じ。

 強いみたいだし、そのうえカッコいい人だったらいいな~って……


「え~、では授業を始める前に本日は新たに皆と共にこの魔法学校で共に励むことになった編入生を紹介する。入ってきたまえ」


 来た! 教室の扉が開いて、そこに来たのは……


「「「……え!!??」」」


 驚いて、思わず声に出して立ち上がってしまったのは、私とアネストちゃんとディーちゃんだ。


「……あ……」


 そして、教室に入ってきたその男の子も私たちを見て口開けてる。

 やっぱり覚えているみたい。

 ざんばら髪して、物凄い鋭く尖った目の怖い顔をして、結構体格もよさそうで、そんな男の子が魔法学校の男子用の白制服を着ているんだけど……


「ね、ねぇ、あの人……」

「う、そ……で、ですが……あの顔……間違いありません!」

「あいつ! この間の男じゃない!」


 そうだ。私たちのことを……



「げっ、いつかのビッチ!」


「「「ビッ、ビッチじゃない!!」」」



 そうだ、私たち三人をビッチ呼ばわりした男の人だ。

 何で? 何であんな怖そうな人がこの学校に……


「ビッチ? どういうこと?」

「え? あの三人、ビッチだったの?」

「うそ! えええ? アネストさんが、あんな清楚で真面目な子がビッチだったのか!? え、俺も相手してもらえる?」

「ディヴィアスさん、ビッチなんだ……はあはあはあはあ」

「ビッチ……シャイニとアネストちゃんとディヴィアスちゃんが……」


 ちょっ、ていうかビッチじゃないのにクラスメートたちが私たちがビッチなのかとヒソヒソ話してる!?


「みんな、違うってば! 私たちはビッチじゃないし! 彼氏いないし! えっちっちなことしたことないし!」


 酷い誤解だ。っていうか、あの人も酷いし! なんで私たちがビッチなんて呼ばれなきゃいけないの?


「ちょっと、そこのあなた! 先日に続き、何という酷いことを言うのです! 大体、あなたがどうしてここに?」

「あんた! よくも変なこと言ってくれたわね! 私、あんたのこと許さないわ!」


 おっと、アネストちゃんとディーちゃんたちも怒って、それどころか教室の前まで男の子を詰め寄りに行って……そういやそうだ。何であの男の子が……ん? あれ? まさか?


「びっち……いや、コホン。君、なんてことを言うんだい。あっ、というか君はシャイニたちと知り合いなのかね?」


 先生まで驚いたように……っていうか、この誤解を解かないと、お父さんたちの耳にまで入ったら大変なことになっちゃう。

 

「ああ……慣れない帝都に来て迷っている俺を鼻で笑った酷い三人だ」

「ちょっ、そ、それは!?」

「はうっ!?」

「だ、そ、それは……」

「「「「「えええええ、そんな酷いことを!? 優等生のアネストさんまで!?」」」」」


 言い方! いや、間違ってないし、笑ったのは私が悪いけど、笑わせに来たのはそっちなのに! 

 おかげで、ビッチだけじゃなく、私たちの変な話がドンドン広がっちゃう……


「ご、誤解、いえ、こちらにも非はありますが……とにかく、先生。彼は何者です? 何故ここに?」

「あ~、だから、編入生で……」

「……へ?」


 そのとき、私が「まさか」と思っていたことは「やっぱり」となった。

 そうだったんだ……じゃあ、あの人が……



「え~、彼がこの度、編入試験を合格し、今後皆と共に学ぶことになった、『セカイ・ジャスティス』くんだ」


「な、え、え……ええええええええええええええ!!??」


「な、こ、こいつが?! えっ? っていうか、それじゃあスゴイ編入生ってこいつのこと!? 嘘!?」



 これが私たちの二回目の出会い。



「ああん? なんか文句あんのかよ、トリプルビッチ娘どもが」


「「「だから、ビッチじゃない!!」」」



 一回目は私たちをビッチ呼ばわりし、二回目はビッチに加えて酷い女の子というレッテル。

 更に……



「っていうか、ビッチビッチ言うけど、私たち三人まとめてロストヴァージンさせてやるぜみたいに、三人同時にナンパしてランボーしようとしたのそっちじゃん!」


「んなわけあるか! テメエが変な勘違いしたんだろうが! みかんパンツの身軽なオレンジビッチが!」


「ちょぉ、その言い方! 一番私がヒドイじゃん!? だいたい、それだと私がいつもみかんパンツ穿いてるって思われるじゃん! 好きだけども! でも、今日はカッコいい編入生が来るかな~、色々想定しておいた方がいいかな~、って思って、アネストちゃんと一緒にこの間お店で買ったセクシー紐―――ほぐわぁ!?」



 まさに最悪かもしれない。


「シャイニ、黙りなさいッ! そこで私の名前を出す必要がありましたか!?」


 でも、この最悪が私の……私たちの運命やら人生やら心やらを色々と変えることになるんだ。







――あとがき――


本作、第六回カクヨムコン参加しております。

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