第4話 情報提供者

 何か欲しい情報があった場合は酒場がベター。

 特に、王都とかそういう都会の表通りにあるものではなく、薄暗くて治安も悪いゲロの臭いが充満しているような裏通りの酒場がベスト。

 まぁ、表通りは俺が歩いていると魔王軍にバレるってのもあるが……


「かかか……懐かしい……華やかな街並みよりもこっちの方が性に合ってるぜ」


 早速俺は、誰もが知っているような有名な王国だとか帝国だとかの都市とは程遠い、むしろ誰も近づかないような掃きだめの悪所に足を踏み入れた。


「ういっ、く……ばーりょお、このやろう!」

「ああん、テメエ誰に喧嘩売ってんだゴラぁ!」

「どうだい? 今夜、コレで。あたしのテク、病みつきになるよ?」

「どうでしょう、これはなかなかの一品ですぜ?」


 酔っ払い。チンピラ。娼婦。商人。売り物の奴隷。

 まさに、底辺の中のド底辺な空間。

 もっとも、今の俺にはお似合いの場所だ。

 王子だの王宮だのもはや俺には無縁。

 俺はこのド底辺から奴らを抉り殺す。


「あった……ここだな」


 そして辿り着いた一つの店。

 店には「一杯超格安飲み放題」みたいにデカデカと書かれているが、俺は見逃さねえ。

 ちゃんと「一杯超格安……ではないけど……飲み放題」と、メチャクチャ小さく「ではないけど」、と書かれている。

 つまり、ボッタくりやってる店だ。

 

「うぇ~い、いらっしゃ~い。何人すか~? なにのむ~? それとも女~? ヤリたい種族、年齢、容姿に希望があればそこにカタログ置いてるんでテキトーにどうぞ~」


 店に入ると、やる気のねえ小柄な褐色肌の鬼人族のマスターが、タキシード姿でバーカウンターの上で寝そべってやがる。

 このまるで客商売をやる気しねえ態度は相変わらず。


「よう、カス」

「ああん? ……うおっ!? 王子!? クソクズ王子じゃん!」


 軽くあいさつしながら俺が外套を外した瞬間、マスターは態度を一変して跳び起きやがった。


「あ、あれ? 死んだんじゃなかったの!? 新聞にもホラ!」

「ああ。死んで生まれ変わろうと思ってな……」


 死んでいたと世間で言われている俺が、こうして生きているんだ。

 そりゃ驚くだろう。

 マスターも新聞記事と俺を交互に見て戸惑っている。

 だが、すぐにマスターは笑みを浮かべてバーを叩いた。



「……は、はは! だひゃひゃひゃ、生きてたのか! ウケる! あれ? じゃあ、あんたのことを魔王軍に情報提供したら金貰えるんじゃね? いえーい、金持ちぃ?」


「ああ。だから俺に協力すればそれ以上の金をくれてやるから、黙って俺に従え、カス」


「だひゃひゃひゃ、イキってるよ! なんか、婚約者だった大将軍の妹に裏切られたとか、幼馴染とかを寝取られたとか聞いてるぜ? そんなお前が俺にまとまった金を払ってくれるのかぁ~?」


「相変わらず、そういう情報収集も早えな。だからこそ、利用価値があるんだけどな」



 俺がアウトローやらチンピラやらの生活をしていた中で知り合ったマスター。本名は知らねえ。

 友達でも仲間でもねぇ。互いの利害を利用し合っているだけの関係だし、金も払う。

 しかし、だからこそ価値がある。



「だひゃひゃひゃ、俺を利用しようってことは、何かやらかそうとしてるんだろ?」


「そういうことだ」


「何をする? って、そんなもんどうせ復讐だろ? ありきたりすぎてつまらねーぜ。つーか、あんた一人でできることなんてたかが知れてる……やっぱつまんねぇから、軍に報告――――」


「ちょいと地上世界に行って、人間どもに紛れ込んで、勇者たちと一緒に新魔王軍を滅ぼしてやろうかと思ってな」


「…………は?」



 そして、こればかりはこの男も予想外だったようだ。

 ありきたりな「復讐」ということまでは当たっているが、そのための過程まではこいつも分からなかったようだな。



「今の新魔王軍に俺の味方はいねぇ。王族貴族たちも今はどうなってるか分からねえし、もともと嫌われてたしアテにできねぇ。それならいっそ……ってことだ」


「……いやいや、え? 勇者……勇者!? 人間の!?」

 

「そうだ。俺は人間どもを引き連れて新魔王軍を、大将軍を、そして裏切り者たちを一人残らずブチ殺す。そのためには人間の世界や人間のことを知る必要がある。だから、テメエに会いに来た。人間たちの情報。戦争の様子。勇者のこと。場所。文化。何でも洗いざらい俺に情報をよこせ。魔界で暴れてた俺は、地上や人間の情報には疎いんだよ」


「……まぢ?」


「ああ。お前からすりゃ面白そうだろ? そして想像以上に面白くして、それをテメエに特等席で見せてやる。だから、俺の手駒の一つになれ。マスター」


 

 そして、その全てを利用し尽くして、必ず野望を果たしてやる。 

 


「だひゃ……だーひゃっひゃっひゃっ! ウケる! それウケる! バカだ、バカがいる! バカだバカだ~、も~最高ッ!」


 そのためなら……


「あ~、確かにおもしれぇ。王子が身を固めて、アウトローな世界もつまらなくなり、俺もあとは死ぬまでこの掃き溜めの場所で安酒飲んで恐喝してその辺の女を犯してダラダラと無気力に生きるだけかと思っていたが……また、面白くなりそうだ! いいぜ~、王子。面白くなくなったら新魔王軍に王子を売るけど、それまでは利用されてあげるぜ!」


 自他ともに認めるド底辺の悪魔すら利用する。






 そして……こんな奴に話しを持ちかけたことを俺はすぐに後悔する。






――あとがき――


本作、第六回カクヨムコン参加しております。

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