008 干支は?

 …――私の干支は丑(うし)である。


 うむっ。


 そして、


 私は職業作家なのだが、牛のように、ゆっくりとした性格が災いしたのか、まったく売れない。一向に売れる気配さえ見せない。担当編集は私の書く作品が一発ネタのようなものばかりだから売れなのだと文句を言う。口を酸っぱくして。うむっ。


 そして、


 私の耳には、もうタコができる余地がないほどにタコが大量生産されてしまった。


 いや、むしろ牛かもな?


 タコではなくて、牛だ。


 そうして新たな牛ができる際、いつも思うのだ。


 いや、今は売れなくとも、毎日、執筆活動を欠かさず、努力を続ければ、いつか世間を、あっと驚かす名作を書きあげられるのだと。夢は発行部数世界一。聖書を超える。そして、今日も名作ができあがった。そんな名作を担当編集へと手渡す。


 うむっ。


 訝しみつつ担当編集の君が私の原稿を受け取る。


「じゃ、先生の迷作な原稿を読ませて頂きますね」


「いやいや、名作の間違いだろうが?」


「きっと迷作です。いえ、間違いなく」


「う、……うむっ。そ、それでは頼む」


*****


【タイトル:もう嫌ぁなのDEATH】


ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、モウイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー。


 以上だ。


*****


「ふぅむ。先生、この作品のどこら辺が名作なんですか。やっぱり迷作でしょう?」


「う、うむっ。分からないか。よかろう。説明してやろう。私の干支は牛だ。モウイヤー(筆者注:丑年)だな。これだけ言っても、魂が叫びも聞こえないか?」


「あッ! 一つだけ……」


「うむっ。そういう事だ。なにも言うな。うむっ」


「あはは。乾いた笑いしか出てこない。まさにモウイヤー(もう嫌)ですよ。こんな作品ばっかり書いてるから売れないんです。分かってます? 本当に頼みますよ」


 うむっ?


 また、私の耳に新たな牛が生まれた。


 タコではなくモウイイヤとばかりに。

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