004 大作にならない対策

 …――ブタオがノートにびっしりと漢字を書き続けている。


 脇目もふらず一心不乱に。


 ブタオは食いもん命の愛すべきデブな阿呆。


 明日の漢字書き取りテストに向けて、必死に頑張っている。


 ブヒッ!


 ブヒッ!


 死ねッ!


 と……。


 ノート一杯、びっしりと書かれた執念を感じる漢字達。生き死にを賭けても、なんとかしたいんだな。そう思う。もちろん、その後もブタオは流れ落ちる汗さえも拭わず漢字を書き続けていく。その目は血走っていて怖い。狂気すら感じさせる怨嗟。


 怨念。積怨。憤慨。まあ、ヤツが書いているのは、こんな難しい漢字じゃないが。


 兎に角、


 赤点阻止を合言葉に赤いはちまき。そこに二本のシャーペンを立てた姿には尋常ならぬ覚悟を感じる。そこまでするブタオを見ていると、ある意味で、尊敬の念すら覚える。一応、友達だから応援してやってもいいけど……、今回は止めておこう。


 そんな気がする。正直な。


 いや、むしろ、このまま友達関係をフェイドアウトした方がいいのかもとさえも。


「ぶひひっ。ぶひっ。ぶひ」


「……必死になるのは分かるけどよ。それはないわ。引くわ」


「ぶぶひっ。ぶふっ。ぶぶん。ぶるひんッ!」


 ……聞いてないな。別にどうでもいいけど。


 てか、そこまでして赤点を回避したいんか?


 でも、まあ、そうか。今度の漢字書き取りテスト、赤点だったら給食を抜きにするって、先生、言ってたもんな。食いもん命のお前には死活問題だよな。でも、やっぱり、そこまでする必要ないんじゃねぇの? だって、お前の書いてる漢字……。


「死ねッ! ぶひひッ!!」


 お前さ、本当に必死だな。


 ただ必死だからこそ頑張ってるからこそ、友達をやめたい。


 それって、やっぱりあれだよな。呪いの文言。少なくとも俺には、そうとしか思えない。確かに先生が死ねばテストはなくなるけど、死ね、死ね、死ね……って必死でノート一杯に書き込まなくてもさ。なあ? 多分、無駄だと思う。死なないって。


 死ねッ!


 と書いてからブタオのシャーペンが止まる。


「ぶるぶひひん。食いもんの恨みは恐ろしいのじゃ。ぶひっ」


 とまた書き始めた。


 死ね、死ね、死ね。


 と……。


 うん。やっぱり、お前とは友達を止めた方が良さそうだぜ。

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