第3話


 どうやらここ、東新宿発電所では、セクシュアリティ発電のみの発電所らしい。


 2030年に、オナニーや性行為によって生じた摩擦エネルギーや快楽のエネルギーを変換効率200%で変換する技術が東大教授によって開発された。


 そこで東京電力ならびに各地方の電力会社が火力発電からセクシュアリティ発電に方向転換、うまくいっているらしい。オナニーや性行為によって、男はプラスの電気、女はマイナスの電気を発生させる。そして発生したエネルギーを特殊なバッテリーに触れることで、電気を貯蔵する。


 科学の力ってすげー(棒)


「ま、本当は個々人がやればいいし、実際、そういうHなバッテリーってあるじゃない」


「そうなんですか!?」


「非常用として各家庭に一つは備わっている。庶民は電気代極力ケチりたいし、公立高校では絶対に教える内容だよ、中学三年ぐらいで」


「ちょっと、いろいろ展開についていけません……」


「一方、双葉ちゃんのようなお嬢様学校にいる上級国民様様は、そんな性教育なんてされていないでしょ? 不貞行為は許されないもんね!」


「校則では特に言われていませんが」


「でも、電気代ちゃんと払っているということは、そういうことだよ」


「はい?」


「他人の自慰行為・性行為によって、あなたの家のコンセントが機能しているのさ!」


 なんていう格差社会だ。他人に自慰行為を強制することによって、この社会がうごいているというのか。生きるために性的エネルギーが必要というのか。AIが発達し、体力仕事がほとんど不要になった今、昔で言う風俗とか日雇い労働とかという、最高の肉体労働で稼げるバイトというのが、この発電所に当たるというのを恥ずかしながら今知った。


「普通、双葉ちゃんのような人は、こんなセクシュアリティ発電なんて底辺で働かないからなぁ、仕方ない!」


 ミクリ所長に、憐みの目で見られたのを最後に、この人が好きじゃなくなった。


「で、オナニーする理由が分かったかい? まあこういう採用初めてなんだけどさ」


「十分に理解しました」


「お嬢様学校なら、出来ないんじゃない? でもお年頃だからさ」


「ごめんなさい、私、オナニーできません、『イク』とかそういう感覚よくわかりません」


「この世でそれは重症だねぇ」


 ミクリ所長はいつのまにか淹れたコーヒーを飲んで、私に向き合う。


「無理は言わない。ここで働くってことは相当の覚悟が必要だ。働いている間中、君はずっと性的快楽を満たし続けなければいけない。そして美大に行くんだという君の覚悟は分かるけど、それはここで果たすべきじゃないかもしれない」


「なるほど」


「たまにそういう病気の人もいる。だから無理にそういうことをしろとは俺は言わない」


 確かに、一度も『イク』ことがなかった自分としては、このバイトは相当不向きかもしれない。でもそれ以上に美術の勉強と将来の夢を本当にあきらめたくない。親がふがいないばかりに奨学金も借りまくっている。金銭的に追い込まれている自分にはここしかない。


 また、ここで、裸体をたくさんみることで、他の人よりいい美術をかけるかもしれない。


「やらせてください、三日以内で身に着けます」


 ミクリ所長は感嘆した様子で、私の顔をおおっと眺めていた。


「その意義やよし、ちゃんと三日以内で身に着けられたら、君はうちで働いてもいいことにする。期待しているよ、お嬢様」


「はい!」


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